第146話 はぁとちゃんが宇宙猫になっちゃった
「…もしもし?お父さん?今どこに居るの?今日はいい天気だね」
『もう電話してくるな…』
「何言ってるの家族じゃん…うふふ…そっちの天気はどう?」
『やめろ』
「天気の話…しようよ……うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ」
『……(震)』
以前あんなに険悪だったお父さんとも天気の話だったらこんなに自然に会話できるようになっちゃった。
ただ相変わらずお父さんとの心の距離は遠いままだけど…毎日の会話が少しずつ距離を近づけてくれてる……気がする。
『本日の天気ですが、関東地方は記録的な豪雪が続いております。皆様不要不急の外出は避けましょう』
真っ白な窓の外……臨時休校にスケジュールのキャンセル。暖かい天鬼邸でホットココアを飲む優雅な朝……
「ミライちゃんおはよう……」
「りあちゃんおはよう」
ミライ’Sフレンズ、天鬼りあちゃんが起床です。
この豪雪の中でも『FOOLS』のスケジュールは通常運転らしくて、昨日は半分雪に埋もれながら帰ってきて大変そうだったな。
まだ寝癖が跳ねまくってるりあちゃんがなんだかしょぼしょぼした目のまま向かい側に座った。
「どうしたの?しわしわピカチュウみたいな顔して……」
「ミライちゃん…昨日レッスンの時に実は…聞いちゃったんだけど……」
「うん?」
「『TRY AGAIN』3月のライブ欠場になったのぉ?」
……あぁ。
「……うん。そうなの。ちょっとトラブルがあっちゃって……」
「そっかぁ……なんだか今、大変そうなんだよね?『TRY AGAIN』…」
「……どうして知ってるの?」
「いや……詳しく知ってるわけじゃないけど…人から聞いて……」
「人からって……誰から?」
「……うちの紗良ちゃん」
黒沢紗良ちゃん?
なんで?
「なんか……他所の事務所さんとちょっとゴタゴタしてるっぽいって聞いて…心配だよ」
「うん…………大丈夫ありがとう……」
ん?なんで黒沢紗良ちゃんがそんな事知ってんだ?
「私があんまり口出すような事じゃないだろうけど……なにか困った事あったら言ってね?」
「うん、ありがとう……」
……情報漏洩してる…?
「でも残念だな…3月のライブ、楽しみにしてたのに……」
しわしわピカチュウのままりあちゃんが項垂れた。私達のステージを楽しみにしてくれてたファンがここにも居たんだ。
「ごめんね……『FOOLS』は頑張ってね?」
「うん……」
「いつか『FOOLS』と『TRY AGAIN』でライブしようよ」
「そだね…」
ぽんぴーーーん♪
しわしわりあちゃんを慰めてたら玄関の方でインターホンが鳴った。こんな大雪の、まともに外も歩けない中で誰だろう?
「宅配便かしら?」って言いながら、連日の大雪の中、昨日A〇azonで大量のぬいぐるみを注文した(翌日お届け)プライム会員である鬼畜お母様が応対に出る。
「この家のインターホンって独特の音するよね」
「そうかなぁ?(しわしわ)」
「…りあちゃん疲れてる?」
「新曲の練習でこってり絞られてるからねぇ」
のほほんとした顔のお母さんがこっちに来たよ。
「ミライちゃん。お客様だよ」
「え?」
この大雪の中?誰だ?私がここに居るのを知ってる人は……
「…よぉミライ」
現れたのは金髪プリン頭に富士山みたいな積雪を乗せた、『TRY AGAIN』クソガキ担当。
荻窪はぁとちゃんだった。
「はぁとちゃん……?」
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ホットココアが一つ増えた。
「……天鬼さん、突然押しかけてすみません。いつも応援してます」
「あ、どうも……」
「はぁとちゃん。どうしてりあちゃんの家知ってるの?」
「この前匂わせ投稿してたでしょ?…それで天鬼さんの所に居るのかなって思って…天鬼さんがSNSに投稿した写真とかから家の最寄り駅特定して……で、ずっと張ってて、昨日駅から出てきた天鬼さんの後尾けた」
私とりあちゃん、ドン引き……
「だってお前今どこに住んでんのか教えてくれないじゃん!」
「人の家の住所教えるわけないじゃんっ!てか、怖っ!!」
「……天鬼さん、瞳の映り込みとか注意した方がいいですよ?(ニチャァ)」
……キモ。
「あの…帰ってくれないかな?」
「天鬼さんそんな…あ、ついに曲の配信始まりますね。おめでとうございます。自分、100回買わせて頂きます」
「配信だから、100は買えないね」
「アカウント100個用意するんで…ふへへ」
「メンバーのソロバージョンもあるから、良かったら買ってねぇ」
「うへへへへへへ」
……で?
「こんな大雪の中、何しに来たのはぁとちゃん」
「…別に」
私の問いかけに返ってきたのは答えになってない答え。別に?人が埋まるレベルの豪雪の中でストーカーしてまで尋ねたきた理由が別に?
「嘘つけ。ホントはなにかあるんでしょ?正直に話しなさい」
「……いや、ただちょっと……どうしてるのかなって思って…………」
クソガキは目をキョドキョドさせながら口の中でボソボソと呟いた。
「色々大変だって聞いてるからさ……別に…心配してる訳じゃないんだけど……」
「はぁとちゃん……」
そっか。私の様子見に来たんだ……わざわざ……この大雪の中……
…………りあちゃんの家まで特定して。
「……キモ」
「は…はぁぁぁぁっ!?おまっ!?ありえねぇ!?こんなに尊い友情ないよね!?!?キモってどーいう事だどーいう!?!?天鬼さんこいつ……っっっ!!ありえねぇ!?!?」
「……てぇてぇねぇ(ニッコリ)」
「え!?なにが!?」
『TRY AGAIN』のみんなには迷惑かけてるな。私の問題が解決しないとメンバー全員での新規の仕事は取れないし……
それでも、こうして気にかけてくれる。
私は仲間に恵まれた。
「はぁとちゃん」
「うっせーしっ!!もう帰るし!!二度と来るかこんなとこ!!」
「私は大丈夫。お父さんともとりあえず…話せてはいるから……話がまとまるまで時間はかかりそうだけど……」
そう言うとはぁとちゃんはひっくり返したかまぼこみたいなジト目で私を睨みながら…
「……辞めないよな?」
それは私が嘘をついても分かるんだぞっていう、視線だけの圧。
言葉に嘘はないから私は笑う。
「辞めないよ」
その返答に満足したのか、はぁとちゃんはそれ以上は何も訊かなかった。
きっと話してほしい事沢山あるだろうにね。
でもただ一言「分かった」って頷いて引き下がった。
はぁとちゃんのこういうところが、昔から私を救ってくれている。
寄りかかれるレオちゃん。
何も気にせず隣にいてくれるはぁとちゃん。
三人で『TRY AGAIN』だ。
「……ところで荻窪さん」
「そんなっ。はぁとって呼び捨てにしてくださいよ!天鬼さん!!///」
限界オタクからの粘着質な笑みを前に少しだけ顔が引きつったような気がしたりあちゃん。プロ根性で笑顔をキープしたまま…
「琴音ちゃんとのデート、日程決まりました?」
なんかとんでもない事を口走った。
「え?」
琴音ちゃん…鏑木琴音ちゃん?
はぁとちゃんは目をゴマ粒みたいにして「?」って顔をして、固まってる。クソガキの中で「琴音ちゃん」と「デート」の単語は決して繋がらない。
なぜなら琴音ちゃんははぁとちゃんにとっての最推し、つまり神であり、推しとファンがデートなんて事は決してありえないのは、アイドルなら当たり前の事で…
……デートするの?
「はぁとちゃん?いつの間に琴音ちゃんとそんなに仲良く……?」
「は?いやいやバッカお前。慎め。ミライ。いや、私みたいなミジンコがそんな……ちょっと何言ってるのか分からないんですけど……」
「でも白石さん言ってたよ?」
「……え????」
「荻窪さんの方がどーしてもデートしたいって言うからって……聞いてますけど……琴音ちゃんもそのつもりで待ち構えてるんですけど……」
はぁとちゃんが宇宙猫になっちゃった。
「…………いや、知らないっスね」
「でもぉ……もうデートの下見してプランまで考えちゃってますし……」
りあちゃんの目が爛々と輝いてる。獲物を見つけた大蛇のようだ。んでもって大気圏の向こう側まで吹き飛ばされたはぁとちゃんは幼稚園児みたいな顔で「????」ってなってフリーズしてて…
捕食者はその隙を見逃さない。
「暇ですか?今日」
「……暇っスね」
はぁとちゃんはまだ宇宙に居る。
「じゃあ今から行こうか」
「……どこにっスか?」
「デート」
「誰がっスか?」
「荻窪さんと、琴音ちゃん♡」




