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第141話 資金難解決☆

 こんにちは、天鬼りあです。

 今日は忙しい一日になりますよと、前日に星熊さんから連絡を貰ってました。なので覚悟してたんですけど……



「朝5時集合ってなんなのよ(怒)」


 早朝5時、豊洲に万理華さんの怒りの声が響き渡る。

 寝ぼけ眼の『FOOLS』一同、星熊マネージャーが一堂に会する。外は真っ暗。

 一番イケてる私服持ってこいって指示があったから通学カバンをパンパンにしてやって来たんだけど……


 これなに?


「おはようございます」


 星熊さんが挨拶する。首には一眼レフがぶら下がってた。


「おはようございます」

「おはようございます」

「おはようございます」

「おはよう(怒)」

「おはぴん」

「おぴんぴん」


 まともな挨拶もできない三流芸能人達を前に星熊さんが本日の目的を告げる。


「今日は配信アルバム用のジャケット画像を撮ります」

「ここで!?」


 万理華さんが叫ぶ。場所は豊洲市場である。


 そう、私達はファーストアルバム(配信)のリリースを控えてる。


「ジャケット写真って…あのダウンロードしたら表示される画像のやつ?」

「ちげーよ琴音。こういうのを言うんだ」


 スカジャン羽織った紗良ちゃんが指差すのは背中にプリントされたサルバドール・ダリの写真だ。紗良ちゃん的にはこれが一番オシャレな服装らしい。

 髭が凄い。


「違います。鏑木さんの言ってるそれです」

「ここで撮るの!?星熊!!市場で!?」

「私が撮ります」

「市場で!?」


 万理華さんがしつこいくらい星熊さんに確認する。場所は豊洲市場である。


「…皆さんにこんな早朝に市場に集まってもらったのには訳があります」

「訳もなく集められてたらキレてましたよ」


 眠そうなはーちゃんは既に半ギレだ。朝の5時である。私とはーちゃんと琴音ちゃんは高校生だから学校がある。この後である。


「では錦野さん」

「うむ。どもども、せいちゃんだぁ。今日はジャケット写真撮る前に…マグロを買う」


 何を言ってるんだろぉ…


「実は金がない」


 知ってるぅ。


「金策も万策尽きた。そこで、知り合いのマグロ漁師からマグロを格安で買って、高値で売るという方法で当面の資金繰りを何とかする事になった」

「マグロの転売するのぉ!?」


 アイドルとは…?


「錦野さんがこの前乗ったマグロ漁船の船長さんの知り合いの知り合いの人と話がついています。本マグロ一本1万で買って、10万で売ります。今、ここで」


 芸能活動とは…?


「それ終わったら写真撮ります」

「星熊さん」

「はい一さんなんですか?」

「それって学校間に合います?8時半からホームルームなんですけど…」

「間に合いません」

「……」

「はい。星熊さん」

「はい鏑木さんなんですか?」

「いくら稼げるんですか?」

「10本買うんで全部売れれば90万円の儲けです」

「…すごい」

「これで広告が出せます」


 芸能事務所とは…?


「気張っていきましょう」


 *********************


 マグロはカスだった(紗良ちゃん談)


「揚げる時にボロボロになっちゃったんだねぇ…鮮度も悪そうだ」


 横たわる可哀想な本マグロ×10。

 その後ろに立つ可憐なる乙女×5、男の娘×1。

 異様な光景…


 ちなみに本マグロってクロマグロの事なんだってぇ。知らなかったよぉ。


「…りあ」

「なぁに?万理華さん」

「この前の匂わせ投稿…なに?(怒)」


 どうしてなんの脈略もなく怒ってるのぉ?


「におわせ…?」

「あんたと明石ミライが同じベッドの上でツーショットしてる写真…インスタあげたよね?あんたバカァ?」


 アスカ…?似てない。


「アスカのモノマネはこうやるんだよ?『あんたバカァ?』」

「えっ…すごい…流石りあちゃん」

「やっぱり声を武器にしたらりあちゃんの右に出る人は居ないね」


 琴音ちゃんとはーちゃんからの惜しみない賞賛。久しぶりの声真似に確かな手応え。


「黙りなさい。あんた、アイドルがあんな…匂わせ…何のつもりなわけ?」

「まぁまぁ。バズってたし、いい宣伝に…」

「陽は黙ってて(怒)」

「ゴメンナサイ…」

「…ただでさえこの前のライブの事件であんたと明石ミライの関係が色々憶測生んでるのに、そこに燃料投下なんかして…他所のアイドルと百合営業すな!!」

「営業じゃないんだけど…」

「ガチって事!?!?(怒)」


 万理華さん怖い……


「まぁまぁ…万理華ちゃん。今はそんな事どーでもいいじゃん。それより今考えなきゃいけないのはさ…このマグロ、どうやって売り切るか、でしょ?」


 スマホをポチポチしながら万理華さんを宥める紗良ちゃんが、今私達に突きつけられた命題に改めて向き合おうと促した。

 さっさと売っちゃわないと遅刻する。


「とりあえずSNSで宣伝しといたから」

「紗良バカっ!!宣伝すなっ!!意味分かんないでしょアイドルがマグロ売ってんの…」


「あ、ホントに居た」


 …人来ちゃった。


「へいらっしゃいっっ!!」


 パチィンッて太もも叩いて出迎えるせいちゃんはもう…鮮魚屋の大将の風格。


「『FOOLS』ですよね!?あの…デビューライブ行きました!」


 ……『FOOLS』も着々と知名度を増してるなぁ。私達は今、沢山の人に認知されてる。ちょっと前の自分じゃ考えられない事だ。

 それが気持ちよくもあり、怖くもなる。


 人に知られるって、いい事ばかりじゃないだろうし…

 ミライちゃんの身に起きた事件がそれを深く心に刻み込んだ。


「…万理華さん。たくさんの人に知られるってすごい事だね」

「そうよ。だから不用意な発言や投稿は許されないのよ。私達はもう影響力を持ち始めてるんだから」

「なのにこんなとこでマグロ売ってんだね」

「琴音…私達は入る事務所間違えたのよ」


「これなんかのイベントですか?」「写真撮っていいですか?」「握手してください」


 気づいたら沢山の人が集まってきてた…ボロボロのマグロの前で笑顔を振りまくアイドル…異様な光景。


「いいよ、マグロ買ってくれたら特典で付けてあげる」

「え?マグロ?」「マグロかぁ…」「マグロ…」


 せいちゃんが『FOOLS』の格を落とすような事始めた。


「今『FOOLS』と農林水産省コラボってて、マグロ売ってんの」


 せいちゃんが適当な事言い出した。


「最高級本マグロが一本10万だよ?格安」


 マグロはボロボロのズタズタで黒ずんでた。


「…そもそもマグロって相場だといくら位なんだろうね?」

「天然ものなら数十万から100くらいはいくんじゃない?」


 万理華さんの返答にはーちゃんが目をかっ開いて、慌てた様子でせいちゃんに駆け寄った。


 …マグロって高いんだぁ。一本1万で売られてたこのマグロって一体……


 そして市場では狂気的な光景が…


「一本ください」

「「「売れた!?」」」


 豪気なファンの一声に私も万理華さんも琴音ちゃんもドン引きだよ。


「あとツーショットと握手…いいスか?サインも…」

「へいよ!まいど!写真と握手とサインでプラス3000円ね」

「流石に阿漕すぎませんか?錦野さん」

「星熊ちゃん。こういう時はがめつくいかないと」

「せいちゃんせいちゃんっ!!」


 今まさに売れようとしてるところにはーちゃんが飛び込んで…


「本マグロって数十万から100万くらいするらしいよ…10万でいいの?」

「……」

「量り売りしたらもっと儲け出るよ?キロ1万にしてファンサとセットで売ろう」

「……」


 はーちゃん……


「……今日はせっかくみんな集まってくれたからぁ!みんなにいっぱい美味しいマグロ食べて欲しいんだぁ!だからやっぱり一本売りやめて、キロ1万5000円で売ろうと思います☆」


 せいちゃんが媚び媚びの声とスマイルであっさり転んだ。マグロになんて興味無いファン達は歓声と共にマグロを奪い合っていく…それは正しく市場の活気ある光景……



 ……こうしてこの日、訳あり本マグロ(一本1万)が約750万円の収益になりました。


 資金難解決☆


 …大量に余ったマグロはみんなで分けて持って帰ったよ。なんか臭かった。



 ちなみにジャケット写真はマグロと一緒に撮りました。

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