第135話 これパパ!?
「みんな…ミライちゃんと話がしたいから、少し…出て行ってもらえるかな?」
りあちゃんに追い出されてみんなが消えた病室。
明石ミライと天鬼りあちゃんが二人きり…
推しと二人きりっ!!
ドキドキで言葉が出てこないけど…今日は謝りに来たんだ。
意を決して改めて謝罪を…と思ったら……
「目が覚めてから真っ先にミライちゃんが無事なのかが気になりました」
「……りあちゃ…」
推しからの胸キュン発言が決した意をふにゃふにゃにしちゃった。
「ミライちゃん、ストーカー被害に遭ってたんですね」
「……はい」
「もう、大丈夫そうですか?」
「……はい」
「よかったです」
りあちゃんがふわって笑ってくれた。
「……あの、私がライブに来たせいで、私のトラブルに巻き込んでしまって…本当に、ごめんなさい」
りあちゃんは首を振った。
カラカラ…
……なんか頭からカラカラ音が…
「来てくれて嬉しいですぅ」
かわいい…
……とりあえず、言うべき事は言った。話は終わってしまった。この時間が終わってしまう。
いや、きっとすぐに退散した方がいいに決まってる。長居は迷惑だよね。
……そういえば慌てて来たから手ぶらだ。お見舞いの品忘れた。
「……どうして守ってくれたんですか?」
思考から離れた言葉が舌先から漏れ出した。
りあちゃんは慈母のような微笑みのまま答えてくれる。
「ステージの上からミライちゃんを見つけて…危ないと思ったから」
「……でも…普通、そこまでします?」
追及する私に向けられる完璧な微笑みが崩れた。
照れ笑いみたいに口元が歪んで目線が逸れる。
その顔の方がかわいいな、なんて思って…
「……その理由を私も考えてた」
「……その理由は?」
気づけば周りの一切の音が消えて、私の意識から天鬼りあ以外が排除されてる。異常な心臓の高鳴り。それは予感。
今から彼女が大事な事を伝えようとしてくれてる…
そんな予感が……
「……私多分」
「…………っ」
私達だけの世界に雑音が割り込んだ。
乱暴に開かれる扉。無遠慮な足音。
振り返って、侵入者の姿に目を剥く。
「おっ…お父さんっ!?」
能面のようなお父さんの顔がそこにあったから。
色のない表情と黒いロングコート姿は不気味に佇む影に見える。
影が口を開いた。
「事務所からここに居ると聞いた」
「……っ」
どうしてお父さんと事務所が?
切れ込みみたいな目の中で動く眼球がりあちゃんを見る。りあちゃんは何が何だかって顔でポカンとしてた。
「お邪魔してすいません。これ…ジャンジャーリのフルーツタルトです。よかったら…」
「あの世界一コスパのいいスイーツって評判のジャンジャーリの…」
「一個10円です」
安すぎて本来人に贈れる代物じゃないんですけど。10円てう〇い棒か。
「お見舞いに来たの?お父さん」
「違う」
「アッチガウンダ」
「じゃあ何?」
「ストーカーに遭っていたそうだな」
心臓が凍り付くような感覚。
事件になった以上、この展開は避けられない。でもお父さんの声は想像より冷たい。
その眼には蔑むような色すら差してた。
「しかも住所まで流出したとか…」
「……ごめんなさい」
これに関しては謝るしかできない。
後ろでりあちゃんが驚いた顔してたよ。
「……このクオリティで10円…」もぐもぐ
なにに驚いてるのよ……
「あの家は手放さなければならないな。もうあそこには住めない」
「……っ」
「母さんとの思い出の詰まったあの家を、だ」
「よくもそんな……家族の事なんて、なんとも思ってないくせにっ…お母さんが死んだ時、お父さん何してた?」
睨みつけ、吐き捨てる。娘の怨嗟もこの人の表情を動かすには至らないみたい。
「仕事を辞めろ」
お父さんは無感情に言い放った。
りあちゃんが後ろでショック受けた顔してる。
「人工甘味料100%…?どういう事…?」
だから何にショック受けてんの?
「事務所にはもう話してある」
「勝手な事しないでっ!!」
「お前こそ、これ以上周りに迷惑をかけるな」
「……っ」
「自己管理できないお前のような人間のやる仕事じゃない」
沸騰した頭に氷水を浴びたみたいだった。
何にも反論できない。その通りだから…
でも……
縋るような気持ちで振り向いた。りあちゃんは何も言わないでただ、事の成り行きを見守ってる。その顔からは感情を読み取れない。
拳を握る。
この人の言いなりにはなりたくない。
「辞めない」
「……」
「お父さんの指図は受けないっ!!これは私の人生なのっ!!」
「なら出ていけ」
躊躇なく、間髪入れず、無感情に、お父さんからその一言が飛び出した。
「私の家から出ていけ。これ以上私に迷惑をかけるな」
「……っ」
「他に行くところがあるならな…」
それが…あなたの本心……
「ヨロシケレバ、ウチニ来マスカ?オ嬢サン」
!?
いつの間にかお父さんの後ろに立ってた人が私に突然話しかけてきた。
その人は全身黒ずくめで同じような黒ずくめの男達を引き連れてる。数多の修羅場を潜り抜けて来た事を感じさせるそのただ事じゃない風貌から感じるのは…
マ…マフィア…?
これだった。
「あ、パパ」
りあちゃんが無邪気に言った。
パ、パパ!?
「ニューヨークカラ飛ンデ来タヨ、リア」
これパパ!?
お父さんの横をすり抜けて私の前に立ったパパが厳つい表情を崩さないまま右手を差し出してきた。分厚くて歴史を感じさせる手だ。ただ者じゃないよ。
「ドン・カルチオーネデス」
ドン…………
「あ……明石ミライです。アイドルやってます…」
「ヨク知ッテマス。『TRY AGAIN』ニューヨークデモ大人気デス」
「えっ…あっ…ありがとうございます……」
ニコリともしないよ。
「家出スルンデスカ?」
ドンが剃刀みたいな眼光で見下ろしながら問う。
「あっえっ?」
「先程オ父サンカラ「出テイケ」ト」
ドンが振り返った先でお父さん、汗だらだらのままドンのお連れさん達に取り囲まれてるんだけど……
お父さんがビビってる。あんな顔してるお父さん初めて見たよ。
お父さんが殺される……っっ。
…………まぁいいか別に。
「家出と言うか…勘当?」
「そそそ、そうだな。どちらかというと?(震)」
こんなノリでお父さんと会話する日が来るなんて…
「……イズレニシロ、帰ルホームガ無イ、ト…」
ドンの眼光が私を品定めしてるうっ!!風俗に売られるっ!!
「……ナラ、新シイ家ガ見ツカルマデ、ウチニ泊マッテクダサイ」
ドンが初めて究極のマフィアのボスみたいな顔をちょっとだけ微笑みの形に変化させた。
「……へ?」
「娘ノ友人ヲ、助ケナイ訳ニハイキマセンカラ」




