第134話 え?私、今来たのに?
「活動休止?」
突拍子のない話にレオちゃんは大声を上げる。ダンスレッスンで流れた大量の汗をタオルに吸わせるはぁとちゃんは睨みつけるように私を見た。
「なんの話をしに行ったのかと思ったら……なんでそんな話になるんだよ」
二人の熱気と床を濡らしてる汗の量がレッスンの過酷さを物語る。二人の努力はすごいなっていつも思うよ。
「ミライ。何があった?」
一人冷えた体で立ち尽くしてる私にはぁとちゃんが詰め寄った。
「……うん、えっと…この前の『FOOLS』のライブね?あれに参加予定だった別のグループさんの所属事務所の社長さんが来て……ライブが中止になったのは私のせいだって…」
「「はぁ?」」
「それで責任を取れって言われてます……」
あまりにも飛躍した話に呆れてるのか二人とも天井を仰いでた。分かる。私も同じ気持ちではある。
確かに原因は私のトラブルだけど…活動休止しろなんて……
はぁとちゃんはへの字に曲げた口でため息と一緒に肩をすくめる。
「私らが活動休止する事の何が責任を取った事になんのさ」
「うん。誠意を見せろって言ってる」
「なんだよ誠意って」
「嘘偽りなく、真心をもって相手に向き合う事だよ」
「言葉の意味、訊いたんじゃないんですけど?(怒)」
レオちゃんがクソガキに代わって、汗で濡れた床に滑りそうになりながら口を開く。
「そもそもあの事件はうちに責任はない」
それは私にというよりは、自分に向けられた言葉のようだった。
「うちはどう対応したんだい?」
「うん…社長が来てくれて……一旦相手には帰ってもらったんだけど、どうしても向こうが引き下がらなくて……事件の概要とかも説明したんだけど……で、上の方で対応を協議するって……」
「はぁ!?なんだよ協議って!?」
「関係者が集まってどうするのか決める事だよ。はぁとちゃんいちいち話の腰折らないでね?」
「だから!!言葉の意味訊いたんじゃねーよ!!(怒)」
「はぁと、話の腰を折るっていうのは……」
「知っとるわ!!どんだけバカにすんだ!!レオ!!(怒)」
「……じゃあどういう意味?」
……一瞬の沈黙の後。
「骨…とか?折る事。話の…骨盤とか?」
レオちゃんがマジ?って顔してたよ。
「でしょ?」
「はぁとちゃん、話が終わるまで外で待ってて?」
「はぁーーーっ!?うわうっざっ!?ミライその顔うっざっ!!死ねよお前!!」
「で?その相手の事務所ってどこ?」
「レオ無視すんな!!」
瓶社長の悪意に満ちた顔を思い出す。悪意と、蛇みたいな執念。
あの人はどうしてここまで……
「うん…キャンドルベリーって事務所」
はぁとちゃんは「?」みたいな顔したから知らないんだと思う。クソガキだから仕方ない。
レオちゃん、顎に手を当てて思案顔。
クソガキがまた絡んできてる…
「なるほど…」
「なるほどじゃねーよ。なーにかっこつけた顔してんだレオ。思案顔でしったかぶってんじゃねーよ。私は知らない、どこそれ」
「創業は19○○年、社長は瓶張丹…二代目だね。従業員数は約250人で、資本金は一億、事業内容はアイドルのマネジメントがメインで、あと俳優とかモデルもちょくちょく……」
「なんでそんな詳しいんだよ、キモ。お前もしかして面接とか受けたことある?」
「昔はKKプロクラスの大手だったみたいだけど落ちぶれて…でも最近は少し勢いを取り戻したみたいだけどね?噂じゃビックな出資者がバックについてるとか…」
そこまで説明して、レオちゃんはまた黙っちゃった。
「…ミライ、今レオの首筋にスライム入れたらどんな声出すかな?」
「うんうん、あっちで遊んでてね~はぁとちゃん」
レオちゃん、何か気になる事でもあるのかな?
3秒以上の沈黙に耐えられないはぁとちゃん、自分達の汗で濡れた床に滑ってコケながら…
「まっ。相手が誰だろーとそんな要求、法的なんとかないだろーし業界トップのうちの事務所にそんなよくわからんトコの脅しなんて通じないっしょ!!」ビターン
はぁとちゃん、後頭部からいったな。
「……そうだね。ヤッテ・ランネーに喧嘩売るなんて無謀もいいとこだ。上も悪質クレーマーをどうあしらおうか協議してるんだろう」
レオちゃんはクソガキの言葉を拾って、思案顔を解きながら私に笑いかける。
「そんな事より、僕らにはやらないといけない事あるだろ?」
「?」
「あっ。ちょっ。ヤバいかも。ミライ、レオ。頭割れた。中身はみ出てる」
「お見舞いだよ」
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「うんばばふんばば!うい!うい!」
これが『FOOLS』だっ!!
天鬼りあちゃんの病室。謎の魔法陣の上で錦野星羅ちゃんと黒沢紗良ちゃんが踊り狂ってた。
「あなた達は……」
病室に居たリーダー、夏祭万理華ちゃんが『TRY AGAIN』の来訪を出迎える。『FOOLS』のみんなが勢揃い。
お見舞いのタイミングが被ったみたい。
レオちゃんと一陽ちゃんが意味深に見つめ合っ…牽制し合ってる。
病室に謎の緊張感が充満する。
「…ミライちゃん」
そんな中、ベッドの上の少女の声が私を呼んだ。
頭に包帯を巻いたりあちゃんの姿が……
「……っ」
厳しい顔で詰め寄って来ようとする万理華ちゃん。そんな彼女が目の前に来るのと同時に私は勢いよく床に膝と頭をつけた。
そう。土下座。
レオちゃんが止めようとしたけど遅かった。
「ごめんなさいっっ!!」
ズルッ
……ただ、土下座の時勢い余って手が万理華ちゃんのスカートに引っかかって、綺麗にずり落ちちゃった。
「ぎゃあああああっ!?」
「謝りながらの高速追い剥ぎとは…やるね」
万理華ちゃんの悲鳴と星羅ちゃんの感嘆の声とパンダさんのおパンツ。
あと顎を砕くキックが病室を騒がせる……
「万理華ちゃん、そんなおこちゃまパンツ、うちのリーダーとして許されると思ってんの?」
「黙りなさい、星羅」
「うんばばふんばば!うい!うい!」
「……紗良は何してんだよ」
「琴音。これは時空の邪神、ヨーグルトソースを呼び出すサバトだ。お前はヨーグルトソース買ってこい。呼び出す為の生贄に必要だから」
「ヨーグルトソース呼び出すのにヨーグルトソースいるんかい」
なんて騒がしい病室なんだ…
「……来てくれてありがとぉ」
圧倒されていたら、改めて声がかかる。ベッドの上ではりあちゃんが微笑んでた。
「……りあちゃん」
一言ごとに砕かれた顎から血が滴る。
あと、なんか静かだなって思ったらはぁとちゃん、石になってる…
「大丈夫?」
パキパキ…
「石化が進んだ!?」
「琴音ちゃんは触らない方がいいよ」
すりすり…
「……元気してた?陽ちゃん」
「白石さんも僕のお尻、触らないでください」
「DM見てくれた?」
「何の事ですか?」
「……何しに来たの?」
はぁとちゃんとレオちゃんの惨状を一瞥して問いかけた万理華ちゃんの表情が険しい。
私はリーダーとりあちゃんに向き直って、もう一度頭を下げる。
「謝りに来ました」
「ミライ」
私を咎めるレオちゃんの声。
「安易に頭を下げちゃだめだ。君は悪くない」すりすり
「謝りに来たのかセクハラしに来たのかどっち?(怒)陽から離れてくれる?」
ひとしきりキレ散らかした万理華ちゃんは私を見て言った。
「あんたのとこのリーダーの言う通り。あんたは悪くない。謝ってもらう事なんてないわ」
「万理華ちゃん」
「……“ちゃん”?」
「…………さん(汗)」
なんて圧……これがバカヤロウ共をまとめ上げる器……
その間、りあちゃんがずっと私を見つめてた。
その柔らかな視線を意識したら、顔が熱くなる。
「…………(圧)」
万理華ちゃ…さんの視線が物理的に突き刺さるみたいだっ!!
病室の扉が開いて誰か入ってくる。
「おや?『TRY AGAIN』の皆さん…初めまして、私『FOOLS』のマネージャーの星熊と申しま…」
「みんな…ミライちゃんと話がしたいから、少し…出て行ってもらえるかな?」
「え?私、今来たのに?」




