第131話 ……レオちゃん。ハゲだって生きてる
『アキバStation』
秋葉原新人アイドルサーキットフェスで『FOOLS』が初ライブをしたライブハウス。
またこの場所に私達はやって来てた…
「ひゃっほぉぉぉぉぉおおおおおっ!!」
「……ミライ。はぁとは連れて来ない方が良かったんじゃないかい?」
私達の前で絶叫をあげるはぁとちゃんの背中に可哀想な人を見る眼差しを向けてるレオちゃんが言った。
「『FOOLS』のライブに私達だけで行ったらブチ切れるよ?血管が…」
「この前荻窪はぁとと生で対面して心臓ぶち壊れかけたじゃん。しかも何?今日はチェキも撮れるんだって?」
「そう。オリジナルTシャツ一枚でチェキ一枚、えへへ」
この私、明石ミライもちゃんと買わせてもらいました。10枚。えへへ。
「それ一枚いくら?」
「6800円」
白地のTシャツにメンバーの落書……手描きイラストが描かれた特別仕様なのです。
当然私はりあちゃんのデザインを購入。
デザインは……なんか…これは?豚?のようなものが黒いマジックで殴り描きされてる。ちょっと外には着て行けないかもだけど……
ちなみにはぁとちゃんは琴音ちゃんのイラストのTシャツを着て、足下のスポーツバッグに他のメンバーのイラストTシャツが各20枚。琴音ちゃんイラストのやつが60枚入ってる。
物販はほぼはぁとちゃんが買い尽くした。
……ちなみに琴音ちゃんのこのイラストは…なんだ?イエティ……?
「……ミライ…同じTシャツ、ファッションセンターむらむらで700円で売ってたよ?」
「それにイラスト付いてこの値段なら安くないかな?」
「落描きされてその値段だよ?」
「そう言うレオちゃんだって…陽ちゃんのTシャツ買ってるじゃん」
私達を可哀想な目で見つめるレオちゃんの手にも、陽ちゃんの手描きイラスト入りTシャツがしっかり抱えられてるの、見逃さないよ?
因みにイラストは……なんか……血まみれの顔面?
「……僕は別にこれが欲しいわけじゃなくて…か……のじょと話がしたいだけさ」
「むふふん」
「なんだい?」
「なんだかんだ言って、レオちゃんも気になってるんだね。『FOOLS』」
「……」
「嬉しいよ。三人で推し活しようね?」
ニマニマしながら詰め寄って行ったら恥ずかしそうな顔をしたレオちゃんは目を逸らし、私から距離を取ろうとする。
「うぉぉぉおおおおおおっ!!!!」
で、その先で叫んでる変態の方に距離を詰めてしまって、またこっちに戻ってきた。
「……あの子はライブが始まる前からあんなに叫んで何をしてるんだい?」
「周りのファンを威圧してるんじゃない?自分が最古参だって」
「ここに居るのはみんな最古参だろう……」
「既にファン同士の格付けは始まってるんだよ」
言いながら会場を見回す。
キャパ250人の会場はほぼ人で埋まってた。今日のライブも対バンらしいけど、今会場に居る人達の熱気は、目当てのグループが出てくるまでの暇つぶしって雰囲気じゃなかった。
現にみんなクソダサTシャツ着てる……
ここに居る人達はみんな『FOOLS』の古参ファンって事になる。
「……二回目のライブで250人もファンが居るんだねぇ」
「地下アイドルだけどね」
しんみりしながら言う私にレオちゃんは吐き捨てた。
「なんでそんなに辛辣なの?ツンデレってやつ?」
「分かんないなぁ…この子らの人気が」
「デビューライブ凄かったじゃん」
「……曲はよかった。ルックスも……いや、でもハゲだしな……」
「なんだかんだ言いつつも、二回目も来るんだもん。レオちゃん、そういうのツンデレって言うんだよ?」
「僕は一陽に用があるんだよ」
「そっかそっか。かわいいよねぇ」
「……もういいよ」
レオちゃんはアイドルくせに他のグループを素直に応援できないのかな。
「……ミライはどうして『FOOLS』のファンになったの?」
「えっ?」
唐突な問いかけに言葉が詰まる。レオちゃんの目は真剣味すら帯びていたから。
「『FOOLS』じゃないか…天鬼りあ、だよね?」
「あー……」
「……ハゲだよ?」
なんてこった。レオちゃんの中で『FOOLS』=ハゲの回路が出来てしまっている…?ずっとハゲてるわけじゃないんだよ?
「……レオちゃん。ハゲだって生きてる」
「知ってる」
「……私があの子のファンになったのは…」
りあちゃんの笑顔が脳の中で蘇る。心を惹きつけるような声も……
握手会で面白いくらいカチコチになってたりあちゃん。
初ライブでキラキラしてたりあちゃん。
初めてちゃんと話した元旦のりあちゃん。
「……それは…………」
会場が暗転した。
ステージの上のみがスポットライトに照らされて、ライブハウス特有の密集した空間に籠る熱量と歓声が全体を一体化させる。
ステージ上に『FOOLS』のメンバーが出てきた瞬間に会場が一際大きな歓声に包まれた。
「ひょおぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?おぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
はぁとちゃんが怪鳥みたいな雄叫びあげてて、流石にドン引き…
『みなさぁん!こんにちはぁ!!私達『FOOLS』でぇす!!』『挨拶募集中』
『FOOLS』の声に呼応するように、更に観客の熱量が増していく。
……私達『TRY AGAIN』の初ステージ。そして二回目のライブ…
ステージ自体は比べ物にならないくらいこっちが大きかった。でも、お客さんをこんなに盛り上がらせられただろうか…?
どうして……か。
どうして…私はりあちゃんにあんなに惹かれるんだろう。
どうしてこの子達は、デビューして間もないのにこんなに沢山の人を惹きつけるんだろう。
眩しいステージ上を見つめながら、ぼんやりと考えた。そんな視線はやっぱり自然とりあちゃんを追いかけてる。
デビューライブと同じ曲だ。
また最後にヅラ投げるのかなぁ。
「ミライっ!!」
……え?
楽曲と、盛り上がるファンの声に埋もれないくらいの声量が会場の茹だった空気を震わせた。
同時、会場内の空気の暑さに反比例して私の体温が急速に冷え込んでいく。
氷の手で心臓を鷲掴みにされたみたいだった。
私の……名前?
アイドルのファンなら『TRY AGAIN』の明石ミライを知っててもおかしくない。だから、変装してきた。顔もまともに確認できないように、サングラスとキャップとマスクで、素顔なんて見えない…はず。
そこまでしてもバレる事はある。
私のファンが私に気づいて声をかけてきた……
それだけなのかもしれない。
でも、それだけじゃないって第六感が叫んでた。
だってその声は……
振り返った先に、見知った顔が居た。
そして、もう二度と出会わないはずの顔が居た。
「……タ、タロタロ…さん」
鼻息荒く血走った目をこっちに向けて佇むタロタロさん……私をストーキングしてた彼がそこに立ってた。
全身総毛立つ。
タロタロさんの手に持ってるバールを見た瞬間に、喉に氷の塊を詰め込まれたみたいに身体が芯まで冷えて、呼吸ができなくなった。肺が凍りついたみたいに。
「…………裏切りは…」
周りは誰も気づいてない。みんなの意識はステージに向いたまま。
隣にいるレオちゃんすら……
「裏切りは……」
タロタロさんが喉奥から絞り出す。
粘っこくて生臭いような、獣臭漂うような怨嗟の声を。
タロタロさんが走り出した。
真っ直ぐ私に向かって。
待っ…………っ!!
声が出なかった。
振り上げられる鈍く錆び付いたバールの赤が正面のスポットライトに当てられて光った。血に濡れた獣の爪みたいに……
死…………っっ
一瞬が何倍にも引き伸ばされる緩慢な意識の中で私の視界に影が飛び込んできた。
私と凶器を遮るように飛び込んで、白髪を大きく揺らしたその背中は……
りあちゃ…………っ!?




