第130話 琴音…私はさ、琴音とイチャイチャしたいぞ?
「琴音…また縮んだか?」
「縮まねぇわ!!」
…楽屋でわちゃわちゃしてる二人の声が聞こえてくる。
ガチャンッ
「りあちゃん、何してんの?」
「見ての通りだよせいちゃん。鍵閉めたんだぁ」
「……なんで?」
「琴音ちゃんと紗良ちゃんが中に居るから」
「……なんで?」
スタッフさんに「貴重品があるから鍵閉めたいんですけど」って言って鍵借りてきて閉めて、ドアノブを針金でギチギチに巻いて動かなくして、機材で扉を塞いだら、密室の完成だ。
天鬼りあ、誰よりも百合を愛する女。
今『FOOLS』史上サイコーにてぇてぇ二人を楽屋に閉じ込める事に成功した。
この楽屋は今、てぇてぇ百合カプを作る為の神殿となったのだ。
ライブ本番前に何やってんだよって言われるかもしれないけど、私にとっては何よりも大事な事なんだ。
「りあちゃんりあちゃん、これ見て」
楽しそうな顔をしたせいちゃんが画用紙に何か書いて持ってきた。
「えへへ。『セ〇クスしないと出られ「セ〇クスはまずいから変えよっか」
楽屋の扉にはガラスがはめ込まれてる。中から見えるように裏返した『イチャイチャしないと出られない部屋』を貼り付けたら……完成だ。
「りあちゃん、本番まであと15分だけどこんな事してていいの?」
「15分以内に二人が交際までいかなかったら…今日のライブは中止だよ。だって『付き合わないと出られない部屋』だもん」
「『イチャイチャしないと出られない部屋』じゃなかったっけ?」
「ところでせいちゃん、万理華さんは?」
「はーちゃんとどっか行った。説教の続きじゃない?」
「見張ってて。万理華さんが来たら怒られるから」
「あいあいさー」
楽屋の前の廊下にせいちゃんを立たせて、私は扉に聞き耳を立てる…
さぁ、てぇてぇの始まりだ!
「琴音ぇ終わった?いつまでもふざけてないで早く着替えよーね」
「お前が邪魔するから…」
「ん?あれ?」
ガチャガチャ
紗良ちゃんの声がすぐそこでする。針金で固定されたドアノブが内側から捻られて震え始めた。
「なにしてんの?」
「開かないんだ」
「は?」
扉が大きな音を立てて揺れる。でも機材でしっかり押さえ込んだ扉は微かに震えるだけでビクともしない。
ふっふっふっ。無駄な抵抗だ。
「おふっおふっ」
……力づくで押される扉の振動で、ピッタリ扉に耳をつけてる私もバイブレーション。そして二人はこれから愛を育むイニシエーション。なんちゃって。
「あっ……か…ないっ!?紗良何した!?」
「あのさ、何でもかんでも私のせいに……はっ!?」
紗良ちゃんが何かに気づいたようだ…
「でゅふっ!」
「……あの、何してるんですか?もう本番ですよ?」
「でゅふっ!」
スタッフさんが白い目で見てくるけど、関係ないんだ。本番15分前だけど、関係ないんだ。
「琴音ぇ!!これを見ろ!!」
「は?手伝え…………え?なにこれ?」
「全く未就園児は字も読めないのか……」
「そういう意味じゃねーよ!!」バシンッ!!
「痛い!?」
「『イチャイチャしないと出られない部屋』…ってこれなに!!おい!!せいちゃんだろこれ!!こら!開けろ!!」
ドンドンドン!!バキバキ!!メキメキッ!!
「うぉっ!?」
バカなっ!?軽く総重量100キロはありそうな機材を吹っ飛ばしそうな勢いで扉が叩かれてる!?琴音ちゃん!?
ヤバい扉が壊れる!!
メキキキキッッ
「待って待って!!」
「っ!?その声は…りあちゃん!?」
…………
「…わしは神じゃ」
「「は?」」
こんなところで役に立つなんて…私の声真似スキルが……
琴音ちゃんの予想外の馬力だと無理矢理突破されかねない。落ち着かせないと…
ドラゴ〇ボールの界〇神の声真似で神の声に徹して説得しよ。
「ふざけてる?りあちゃん開けて」
「わしは神じゃ」
「蹴り入れるよ?(怒)」
「お主らが居るのは『イチャイチャしないと出られない部屋』じゃ…イチャイチャするのじゃ。さすれば扉は開かれる」
「分かった。いいんだ?私の蹴り、ゼブラと競るくらい強いけど、いいんだ?」
「落ち着けよ琴音。扉壊したら弁償だぞ?金あんの?」
ここで紗良ちゃんのファインプレー。扉の向こうからの殺気が少し…弱まった。
……これ出てきたら殺されちゃうのかな?私。
でも百合でてぇてぇを拝めるならそれはそれで良し。これぞ尊死ってやつだ。
「神を納得させるイチャイチャを見せるのじゃ」
「いい度胸してんね?」
「琴音、見せてやろーぜ。私達のイ・チャ・イ・チャ♡」
ベキッ!!
「…今骨が折れる音がしたが大丈夫かの?」
「バカじゃないの?りあちゃん!?本番前だよ!!」
「仕方ねぇじゃん。神がイチャイチャしろってんだからさー」
扉の向こうから衣擦れの音が!?
「やっ…やめろ!!何すんの!?」
「イチャイチャ」
「へそを…触るなっ!!///やんっ…」
おぉぉぉぉぉぉぉ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!?
「でゅふふふふっ!!」
「今の笑い声りあちゃんじゃん…」
「琴音、集中するんだ。さぁ、紗良ちゃんのおっぺぇに飛び込め」
「やだ、ねぇ開けてってばっ!!」
「……琴音ぇ。そんなに私とイチャイチャしたくないん?イチャイチャしないと出られないんだよ?」
「誰がお前なんかとイチャイチャするかっ!そもそもイチャイチャがいやらしいんだよお前っ!だから抱きついてくるな!!服の中に手を入れ…むごっ!!」
むごっ!?むごって…どうなってるの?見えない!!張り紙で窓が塞がってて…見えないよぉ!!
録音アプリを起動したスマホを握りしめて震える。見えない…もどかしい…
「むごっ!!もごごごっ!!」
「やんっ!琴音…顔そんなに動かさないで…おっぱいが…」
「んごごごごごっ!!!!」
てぇてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!
「琴音…私はさ、琴音とイチャイチャしたいぞ?」
「もがっ!!…はぁ……はぁっ!このホルスタインが…窒息するかと思ったわ…っ!!」
「これはきっとそんな私の気持ちを汲んだ神様からのプレゼントなんだよ」
「じゃあお前のせいって事でOK?」
「……琴音はさ、いっつも私がスキンシップ取ると嫌がって今みたいに抵抗するじゃん?」
おや?紗良ちゃんの声が…少し落ち込んだみたいに…
「それってさ、琴音は私とイチャイチャしたくないって事?」
「たりめーだバカっ!!太もも触んな!!」
「私の事嫌い?」
紗良ちゃんの声が震えて……
琴音ちゃんが息を呑む気配がした。一体中はどうなってるんだ…?
「いや……別に……」
「私は琴音の事好きだからちょっかいかけてるのに…琴音は全然気づいてくれないね?」
「さ、紗良……?」
紗良ちゃん……っ。
「私がいじめられて引きこもってた時、琴音の動画で救われて…私がアイドルやめようとした時、琴音が止めてくれて…」
「え?なにこれ?」
「私は琴音が大好きなんだよ?なのにさ……」
「待て待て待って…?え?は?」
マジか……?
マジかこれ!?
「琴音、私の事嫌い?」
「…………き……嫌いじゃ…ない///」
「じゃあ、好き?」
ドキドキ……
「す……………………キ……カモシレナイケド…」
来たぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!?!?
てぇてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!
「ナカマトシテ……///」
「じゃあお金、貸してくれるよね?」
「………………は?」
…琴音ちゃんの声が一気に絶対零度に冷え込んだ瞬間だった。
「せいちゃんのレーベルの色んな費用とか家賃とか払ってたら金欠になっちゃったんだ。琴音、私の事好きって言ったじゃん」
「……いや」
「じゃあお金貸してくれるよね?」
「…………いや…色恋営業!?」
「ん〜〜お願い琴音ぇん♡特別に、今をときめく天才アイドル、紗良ちゃんのディープキッスあげるから30万貸し……」
ボキッッ!!
……っ!?
ほっ……骨の折れる音が……っっ!!
「さ……紗良ちゃん?(汗)紗良ちゃあん!?」
「……なにしてんの?りあ」
扉の向こうに訪れた静寂と…私の背後に迫ってきた冷気……
「あ、万理華さんコンニチハ…………(震)」




