第127話 百合の間に挟まる男だっ!!
「ミライ、アキバのライブ、チェキ撮れるらしいぞ」
「はぁとちゃんはやっぱり琴音ちゃんと撮るの?また心臓爆発しない?」
「一枚6800円だって」
「高」
僕には納得いかない事がある。
「うふふふふふふふふふっ」
「ぶっひゅひゅひゅひゅひゅひゅひゅっ」
メンバーの明石ミライと荻窪はぁとが『FOOLS』なる新人アイドルにお熱な事だ。
「ミライ」
「うっふふふふふふふ…え?なぁにレオちゃん」
「おいレオ、お前は誰推しだ?言ってみろ」
「はぁと黙って?…ミライ、この前の路上ライブでの天鬼りあへの告白、SNSでバズっちゃってるよ?」
「ちょっ!!告白だなんて…!!ファンですって言っただけだからね!?」
……
「もうっ///」
おかしい。
「ぶっひっひっひっひっひっ」
はぁとがおかしいのはまぁいいとして…なんだミライ。今の反応は。
明石ミライは『TRY AGAIN』の絶対のセンターだ。彼女もその自負に満ちる。そんなミライが…
「レッスンの時間だけど『FOOLS』の動画観よ」
おかしいっ!!
『FOOLS』って一体何者なんだ…?
*********************
お久しぶりです。TRY AGAINの白石レオです。
先日はうちの荻窪が大変お騒がせ致しまして、誠に申し訳ございませんでした。
実はその荻窪の事で、鏑木さんにお話したい事がございまして、お忙しいとは思いますが、どこかで会えないでしょうか?
鏑木琴音に送ったDMに返信があったのはその日の夜だった。
西新宿にあるオープンテラスのカフェ。
一応の変装はして来たつもりだけど…やっぱり視線を感じる。オフィス街は勤め人が多いから騒がれにくいんだけど…
「やはり抑えきれないか…僕のスターのオーラは……」
「……お待たせしましたぁ」
おや?この声は?
色付きメガネの向こう側、特徴的な声に目線を上げるとそこには白いモフモフのコートを着込んだ白い少女。
その後ろに黒のダブルコートに身を包む少女と……
バジェットガエルのマスクを被った変態が……
「……君達は…たしか…」
「『FOOLS』の天鬼りあです」
「こんにちは。一陽です」
二人が向かいに座る。
「……そこのバジェットガエルが鏑木さんで間違いない…のかな?」
「アッハイ…カブラギコトネデス」
……
カチコチの変態を座らせた一陽が申し訳なさそうに頭を下げた。
「すみません。二人だけの方がよかったですか?琴音ちゃん、なんか緊張しちゃって……まさか『TRY AGAIN』の方から呼び出されるとは思ってなくて」
「いや、構いませんよ?」
「保護者という事で」
…ツイてる。
ミライが『FOOLS』にのめり込んだきっかけははぁと。そのはぁとの推しの鏑木琴音からと思ったんだが…ミライの推しの天鬼りあまで付いてきた。この一とかいうのは知らんけど。
「真冬にオープンテラスなんて流石のセンスですねぇ」
「寒かったですか?」
このふにゃふにゃした顔で毒吐いて…いや、正論飛ばしてくるこの子の何がうちのメンバーをおバカにしてしまってるのか…
知りたい。
僕には感じ取れない、ミライとはぁとちゃんが感じてるこの二人の…何かを。
「それで白石さん」
「うふふ。レオで構わないよ?僕も陽ちゃんって呼んでいいかな?」
「えっ?あ……はい」
まぁこの子はいい。黙らせておこう。
「そちらの荻窪さんの事でうちの琴音ちゃんとお話を…との事ですが…?」
黙らなかった。
「もしや治療費の件…とか?(汗)」
注文したホットココアと戯れる他二人を横目に、なるほどこの三人だと一陽がリーダー格になるのかと分析する。
この子は…いや、今日来た三人は僕が観たライブでは存在感が薄かった三人だ。
そんな三人のうち二人がうちのメンバーを狂わせているなんて…
「あはは、違う違う。肩の力抜いてよ」
否定すると一陽はホッとした顔をした。彼女からの目配せを合図に二人がこっちに入ってくる。
…分かるよ一陽。君はどんな場所でもなぜかまとめ役を任されるタイプの人種だ。それでいて、決して輪の中心にはなれない。
「エット、ソレジャ…ナンノハナシ……?」
「琴音ちゃん君なんかライブとキャラ違くない?」
「琴音ちゃんは気性が荒いので……先輩に失礼がないようにという事で…あちっ!!」
……?
まぁいい。天鬼りあ、子猫みたいなイメージ通り猫舌みたい。熱がって舌を出す仕草にあざとさを感じる。
「実はね…うちのはぁとがどーーーーしても琴音ちゃんと、二人きりで遊びに行きたいと言うんだよ」
「「「えっ?」」」
すまんはぁと勝手に。まぁいいでしょ?推しと同伴。ん?同伴は違うな。店外デート?ん?
「……なんですって?(ジュルリ)」
なんで天鬼りあがこんなに食いつくんだ?まるで自分が誘われたみたいじゃないか。
「いつ?(ハァハァ)」
「いや……まず、構わないのかい?」
「はい(ハァハァ)」
「いや君じゃなくて……」
一陽に何やらこしょこしょ耳打ちされてるバジェットガエルが控えめに頷いた。
いいらしい。チョロいな。
「まぁ…同じアイドル業界の仲間だし、お友達になりたい的なね?」
「ぬるい」
「え?ぬるい?」
「デートプランは私が考えてあげるね、琴音ちゃんっ!!」
「……りあちゃん?一体どうしたんだい?」
「早速下見しなきゃっ!!」
え?この後「一緒にどこ行くか下見いこーよ♪」的な展開を考えてたんだけど…そっちから提案してくるのかい?
「燃えるぜ…(ハァハァ)」
「……だ、大丈夫かい?りあちゃ…」
「てぇてぇっっ!!」
「……(汗)」
*********************
……まぁ、どうしてこうなったのか…というのは、複雑な事情が絡まった末、なんだけど。
僕は今ホテルに居る。
「バタンキュー」
ベッドの上で仰向けに伸びてるのは、一陽だ。
部屋には二人しか居ない。
二人で寝転がっても余裕で手足を伸ばせる巨大なベッド、毒々しいピンクの照明、ガラス張りのシャワールーム、ベッド脇のなんかガチャガチャたボタン類。
まぁつまり……ラブホである。
「おい、大丈夫かい?」
「キュゥン」
……なぜこんな事になったのか…
数時間前まで遡る。
『FOOLS』について知る為に彼女らと接触した僕は、はぁとと鏑木琴音のデートプランについて考えるという名目で街に繰り出したんだけど…
「私から提案したいのは映画館とカラオケだね。暗闇、そして個室……素晴らしい」
天鬼りあ曰く、ねっとりしたシチュエーションが望ましいらしい。
「ナンデクラヤミトコシツナンダヨ」
「でゅふっ!!デートだからだよ…琴音ちゃん」
「……で?なんでデートスポットの下見なのにさ、雑居ビル巡ってるの?」
「でゅふっ!屋上に登れるビルを探してるんだよ、はーちゃん」
「……なんで?」
天鬼りあはオペラグラスを覗きながら「ここなら通りがバッチリ見えるな……お昼はあのしゃぶしゃぶ屋さんの個室で…」ってブツブツ呟いてて、怖かった。
彼女の行動はまるで、スナイピングスポットを物色する狙撃兵のそれだった。
「……監視する気かい?」
「この公園のトイレ……いいな。でゅふっ」
薄汚れた公衆トイレの個室の中で不気味に笑う女。
そしてバジェットガエルのマスクを被った女。
しかもこいつらはハゲている。ヅラで巧妙に擬態してはいるが、ハゲている。
果たしてこの子らのどこにミライとはぁとを魅了する要素があるというんだろうか……
「でゅふっ」
「……」
果たしてこの子らに6800円も払って一緒にチェキを撮る理由があるんだろうか……
「でゅふふふっ!!」
「……」
分からない……
「映画は何観るの?決めとかないと…琴音ちゃんは優柔不断だから当日になって迷っちゃうよ」
「ソンナコトナイモン」
気持ち悪い笑顔に戦慄する僕の隣で一陽がちゃんと下見をしようと提案した。
「こういう時優柔不断だと蛙化されちゃうからさ。ね?琴音ちゃん」
「カエルカ?イマカエルカシテルケド?」
「確かにぃ……折角物理的距離を縮めるチャンスなのに……琴音ちゃんが不甲斐なかったら琴音ちゃんフラれちゃう」
「フラレルッテナニ!?」
で、映画館に向かうんだけど……
「ワタシ、カブキチョウヤダ」
バジェットガエルが駄々こね出したんだ。
「でも琴音ちゃん、歌舞伎町いいよ?映画館もカラオケもホテルも沢山あるもん」
「ホテルッテナニ!?」
「琴音ちゃん、アドバイスなんだけど……ポップコーンは二人でシェアしてね?暗い映画観の中でポップコーンに手を伸ばす二人…同時に伸びた二人の手は触れ合うんだ。そしてさ…「ごめん」「ううん、私こそ…」……二人は映画なんてそっちのけで見つめ合う」
「ノリガクラスメイトクッツケヨウトシテルメイワクナヤツナンダケド」
「…なるべくつまらない映画がいいよね。他にお客さんが居ないつまらない映画が……」
「りあちゃん、これがつまらないらしい」
一陽が提案したのはとある青春ラブストーリー。
映画紹介サイトによると☆1評価らしい。よほどつまらないのか「ガッカリした」とか「こんなのに金を取るのは犯罪です」とかさんざんな口コミが掲載されている。
「……百合っっ!!」
天鬼りあは食いついた。
この作品、主人公三人が女の子の恋愛映画だ。
「観てみよう…」
「ミルノ?イマカラ?」
「あはは……えっと…白石さんは……」
「僕は構わないよ」
もう三人にただ付いて行ってるだけの僕は一陽に鷹揚に応じて、4人分の席を購入した。
……三人は金がなかった。
肝心の映画の内容はレビュー通りのものだった。僕は貴重なオフの日に何をしてるんだろう…そんな気分にさせてくれる、大根役者による三流脚本の為の映画だ。どこかで見た事のあるような新鮮さも何も無い展開が続く。
あらすじとしては三人の主人公…みんな女の子なんだけど、幼馴染同士で、互いが互いを好きな三角関係らしい。
そんな三人の危うくも美しい青春を描いてる。
「……この席からなら…いい感じに二人の姿が見える。角度的に二人にも気づかれないに違いない……でゅふっ!ところでこの映画館、カップルシートとかないのかな…?」
「……エイガミロヨ。リアチャンガミルッテイッタンジャン」
……途中で飽きた天鬼りあが、ガラガラなのをいい事に劇場内の席の配置やそこから見える景色なんかを下調べし始めた頃だ。
『どうして……どういう事?』
『隠しててごめん……実は……』
『……え?』
『私…………男なの』
映画中盤、ヒロインの一人が衝撃の告白。
幼馴染二人に向かって下をずり下ろして男のシンボルをご開帳。観客にケツを向けたヒロインもどきだった男の衝撃の告白に……
「百合の間に挟まる男だっ!!」
天鬼りあが怒りの声を上げた。映画館なのにやかましい。
「ぎゃあああああああああああああっ!!」
「えっ!?」
……同時、僕の隣の一陽が絶叫と共に泡吹いてぶっ倒れた。
「ちょっ!?大丈夫!?」
「ぐはっ……ごはっ…………ごめんなさい…」
「なにが!?」
「すみません死にます……ごふっ」
「なんで!?」
……このままではまずいという事で泡吹いてビクビクしてる一陽を映画館から運び出して、どこか休める所に運ぼうかって話になって…………
で、今に至るわけだ。




