第125話 お前、マグロ漁船乗れ
海……
それは男達の戦場。
または、汗臭くて男臭い地獄。
「お前、マグロ漁船乗れ」
「許して!!」
借金取りから課せられた過酷なミッション。それは債務者の辿る定番の運命。
借金18万4500円返なかった私、錦野星羅は世界中の海を巡るマグロ漁の旅に出た。
いまだかつてあっただろうか?債務者が借金返せなくてマグロ漁船に乗せられたその後にフォーカスした作品が…
これは、私の過酷な借金返済までの物語である……
……ちなみにマグロ漁よりカニ漁の方がヤバいらしい。
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「よく聞け!!おめぇらは借りた金も返せねぇド屑中の屑だっ!!」
初日は最悪だった。
遠ざかっていく陸を名残惜しそうに見つめる乗組員に向かって、いかにもな海の男な船長がなんか叫んでた。
「この船の上に人権はねぇ!!てめぇらは借金を返し終えるまでここで奴隷として働くんだ!!もし!!逆らおうなんて考えてる奴がいたら…」
船長の隣に立ってる甲板長の鞭が唸る。痛そう。
「こいつをたっっぷりお見舞いしてやるぜ!!ここでは船長の俺様が絶対だっ!!分かったか!?」
「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」
「……どうやら分かってねぇようだなぁ!!」
……激しい鞭打ちの洗礼から私の船上生活は始まったわけだけど…
この船では一本釣りやるらしい。
「はい、甲板長」
「なんだ新入りぃ!!」
「効率悪くないですか?私、さっさと稼いで戻りたいんですけど」
「嘗めてんのかぁ!?」
スパァァンッ!!
「痛いっ!?パワハラだパワハラだ!!」
「いいかぁ小娘!!よく聞け!!マグロ漁には主に延縄漁と巻き網漁、そして一本釣りがある!!最も利益が出るのはどれだと思う!?」
「……」
「一本釣りだ!!これが一番マグロが傷物にならねぇからだ!!分かったか!?」
……意外と親切に教えてくれるんだなぁ。
「それと新入りに発言権はねぇ!!」
スパァァンッ!!
……後日遠洋漁だと延縄漁が主流だって知った。
マグロ漁は過酷を極める。
その中でも最も過酷だったのは…船内の人間関係。
「飯の時間だぁ!!」
甲板長の怒号に野郎共が一斉に群がる。
三食出て金が手に入るんなら悪くないかも…そんな風に思ってた時期が私にもありました。
「ご飯ご飯!!」
「新入り、お前の分はこれだ」
……なんか濁った汁だった。
「なにこれ!?」
「雑炊。お前女だから半分の量な?」
「米!!ノー米!?ハンブンノー!!」
スパァァンッ!!
「甘えるな屑共!!いいか!?借金まみれのお前らにまともな飯が出ると思うな!!あと!食費雑費住民税健康保険はすべてお前らの給料から引くからな!!マイナスになったら借金増額だ!!死ぬ気で釣れ!!」
……ひもじい。
「ヨヨヨ…(涙)」
「…よかったら、自分の分、食べてください」
甲板で潮風よりしょっぱい涙を飲んでたらなんか隣から雑炊が出てきた。
「ありがとう」
ズズズ…
「ゲップッ…」
「……」
「……」
「……」
「……まだ何か?」
「いえ…お礼の一言とか無いんだって思って」
「図々しい。あんた誰」
「宣教師のミッシェルです」
雑炊くれたのはひげ剃るの忘れてきた外国の兄ちゃん。
「せんきょーし?」
「船に乗って世界を巡り、教えを説いてます」
「いつの時代だよ。なんて宗教?」
「東教です」
「私も東京」
「初めて同志に会いました…お名前は?」
「……アンジェリーナ・ジョリー」
「ジョリー、あなた甲板長に目を付けられてます」
「ふぅん」
「女性はあなただけですから…気を付けてください。ここは荒くれ者の巣窟」
「うん」
「…ここは地獄です」
らしい。
その時私の目に、海に投げ捨てられるおっさんの姿が…
眺めてたミッシェルが言うには……
「船上で病気に罹った乗組員です。働けなくなった者はああして捨てられる」
「へー」
怖いなぁ。
「ジョリー」
「気になってたんだけどなんで初対面から呼び捨て?馴れ馴れしいんだけど」
「何かあったら私に言ってください。その…守ります」
「じゃあタバコ買ってきて?」
「……いや…ここ海の上なんで……」
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初日の夜。
私は甲板長と揉めていた。
「やだやだやだ!!野郎と雑魚寝なんてやだ!!臭い!!キタナイ!!不潔!!個室用意してよ!!」
「嘗めてんじゃねぇ!!てめぇそんな身分か!?」
ごねてたら船長が降りてきた。
「せんちょー!!個室!!」
「船室で寝るのがそんなに嫌か?なら船長室で寝るか?」
え……?乗船初日で私、船長?
「俺と一緒にな。ぐへへへへ」もわぁぁぁ
……オゥ。バッドスメル。スメルハラスメント。
乗組員の船室は最悪だ。
狭い。臭い。ばっちい。
「ジョリー…女性の君には過酷な環境だ。でもここでは我慢するしか…」
「まぁ前の部屋の方が汚かったか…おっ、ゴキブリ」
バリバリ、もぐもぐ。
「……(ドン引き)」
「海にもゴキブリいるんだね。ミッシェルも食う?」
「……いや(ドン引き)」
その時、私とミッシェルに後ろから近寄る気配。
「おやすみ」
「ジョリー!?こんな不穏な状況でそんな呑気な!?」
何事?
「げへへ…」「嬢ちゃん、一体何があってこんな場所に転がり込んだんだい?」
そこにはむさ苦しい乗組員達の姿が…
連中は汗でテカった黒い肌と黄ばんだ歯、伸び散らかした髭を携えて私を取り囲んでる。
「まぁ仲良くしようや」「心配するな。俺らは優しいぜぇ?」「へへへっ!女なんて久しぶりだぜ!!しかもこんな上玉」「あぁ…たまんねぇ」
……
「寄るな!!離れろ!!ジョリーには指一本触れさせないっ!!」
おっ…ミッシェルお前……
「うるせぇ!!んだてめぇは!!」「ぶち殺すぞ!!」
「ひぃぃっ!!ごめんなさいっ!!」
……ミッシェルお前。
「すまないジョリー…私が弱いから…」
ホントだよ。
「ぐへへへ…じゃ早速」「おっぱいっ!!おっぱいっ!!」
やれやれ…
私は疲労と空腹を抱えた体を起こす。
立ち上がった私を上から下まで舐め回す男達の視線。目的は明らかだった。
私はおもむろに頭に指をかける。指の間にしっかり髪の毛の感触を確かめながら…
「いただきまぁす!!」「ひゃっはーーっ!!」
興奮する男達。
「ジョリィィィィ!!」
守るとか言ってたくせに叫ぶしかしやがらない、話が違うミッシェルの前で…
「ぱっかーん」
ヅラ、開帳。
瞬間、男達もミッシェルも、時間停止モノのAVのヒロインみたいに硬直。
しばらくの後…
「ハゲだ…」
誰かの呟きに呼応するように周りの男達も口々に呟きを零す。
「ハゲだ」「ハゲ」「こいつ…ハゲてやがる」
「ハゲハゲうっせえな(怒)」
「ジョリー…そんな……私を騙してたのか?」
「お前はどの面下げて言ってんだ」
蜘蛛の子を散らすってこういう事なんだろうね。
さっきまでの興奮が嘘みたいにみんな静かになって、帰ってっちゃった。
「……」
ミッシェルまでなんかよそよそしい感じで毛布被って横になりやが……
「……げへへ」
「……?」
なんか一人残ってる。
「げへへ、あっしはハゲでも大丈夫ですぜ」
「……あ?」
また一人愚か者が海に投げ捨てられて……私の初日は終わったんだ。
続くと思わなかったろ?続くから。




