第119話 『変態☆倶楽部』のみなさん
『TRY AGAIN』の年末は怒涛のスケジュールだった。
来年は3月にムジテレビ主催のライブに全国ツアーも控えてるけど、メジャーデビューしたアイドルにとってはライブだけが仕事じゃない。
12月31日。巌鉄砕さんの運転する車内で揺られる『TRY AGAIN』。朝5時。
「…ねみー……三日前からずっと3時間睡眠なんだけど」
早寝早起きを標榜としてるはぁとちゃんは目をしゅぱしゅぱさせてた。一方疲れた様子を見せないレオちゃん。昨日解散した直後に歌舞伎町に向かっていった彼女の背中にはぁとちゃんと二人で戦慄したのを覚えてる。
肌ツヤがいいのは…きっと可愛い女の子かイケメン君を食い散らかしたからだ。
明石ミライは船を漕いでた。
「……あのミライさん。助手席に水張った洗面器持ち込まないでくださいね?てか、なんですかそれ?」
「船漕ぎ大将」
船漕ぎ大将は手漕ぎボートにおじさんが乗ってるおもちゃで、おじさんの頭を押してあげるとおじさんがオールを漕いでくれる…
だけのお風呂用おもちゃ。
ド〇キに売ってる。
「……今日は『TRY AGAINの味噌ラーメン(仮)』の最終試食の後打ち合わせが三件でその後赤白歌合戦です」
「昨日レコード総大賞出たって……」
疲労困憊だねはぁとちゃん。
「頑張ろうねはぁとちゃん。ファンのみんなが待ってるよ」
「そーだね。ミライちゃんスマイルでストーカー量産して私達の財布潤わせてもらわなきゃな」
「……ストーカーと言えば、その後タロタロとかいうファンはどうなってるの?」
はぁとちゃんの戯言に反応するレオちゃんが前方の私と巌鉄砕さんに問いかける。
まぁどうって聞かれても、その後何かあったのかなかったのか…私のところには一切の情報は回ってきてないけど…
必然私の視線も巌鉄砕さんの方へ向く。
「特に何も…住所流出の件は事務所も色々対応を考え中ですが……」
「ミライ、お父さんとは話せた?」
「……」
「おい無視するな」
「ごめんレオちゃん、今船漕ぐのに忙しいんだよね」
因みに船漕ぎ大将は顔が三種類選べます。
「…で、お疲れかとは思いますが、赤白の後会食があるんですが……」
「それってなんちゃら委員会の偉い人とかなんちゃらテレビの偉い人とかKKプロとか劇団ゴクドウみたいな芸プロの偉い人とかが集まってカウントダウンやるみたいなやつでしょ?毎年言ってるけど、僕らはパスだ」
キッパリ切り捨てるリーダーに巌鉄砕さんは弱ったような顔をする。けど、これに関しては『TRY AGAIN』結成時から決まってるルールがあるんだ。
「年越しは三人で過ごすんだよ」
「うちの社長も出席されますし…他のタレントさんも大勢来られます。営業も兼ねてますので一時間でもいいので出席してほしいんですが…」
縋るみたいにこっちを見てくるけど、赤白やった後にモラルも何も無い無遠慮なおじ様達に愛想笑いする体力、ないの。
「営業は巌鉄砕さんの仕事だよ?ね?」
「……」
「頑張ってお仕事たくさん取ってきてね♡」
なでなで
「うっ……ぶっふふふっ!!わんっ!!」
「……よーしよし…」
「……レオ、前から思ってたけどマネってさ…ミライに飼われてる?完全に調教されてるよな?あれ」
「知らないのかい?巌鉄ちゃんは「ミライ依存性」ステージ4って医者から診断されてるんだ。因みに僕はセ〇クス依存症「お前もうリーダー降りろ」
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「ねーーぇぇ!!もう年越してるじゃん!!」
ヤッテ・ランネー・プロダクション本社ビル。
コンビニ袋を大量に提げた私達が空いてる会議室に帰還した時にはとっくに日付は変わってて、新しい一年が始まってた。
年越しに間に合わなくてはぁとちゃんがキレてるけど赤白歌合戦は23時45分まで放送あってその後解散なんだから間に合うわけないんだよね。
「もう来年は出なくてよくね!?」
来年出られるかも分かんないのに確定事項かのように叫んでる。クソガキのプライドは固い。
因みに去年の年越しは、はぁとちゃんが新型血便感染症に罹って集中治療室で集まったっけ?
病院出禁になったの初めてだったな…
癇癪起こしてるはぁとちゃんを気にしもしないで買い込んだお菓子やらジュースやらを床に並べるレオちゃんが床でデスロールするはぁとちゃんを座らせる。
私も椅子と机を端に追いやって二人と一緒に輪を作るように床に腰を下ろした。
毎年年末は『TRY AGAIN』のメンバーと過ごして、初詣に行く。
『TRY AGAIN』にあるいくつかのルールのうちの一つ。
理由は特にない。
ただ、私達はそれぞれがそれぞれ、メンバーの事をある意味家族よりも大切に思ってるから……
私はそう思ってるからこそ、大切な瞬間はみんなで居ようって事になったんだ。
リーダーのレオちゃんがグラスを掲げる。私とはぁとちゃんが同じように掲げたグラスを打ち合わせる。
「じゃあ……もう終わっちゃったけど今年もお疲れ様でした。来年も頑張ろ「ここに居たんですね……」
レオちゃんが音頭を取ろうとした時……会議室に私達以外の声が…
あれ?使用中の札出したよね?
キョトンとして振り返る私、邪魔されて眉間にシワが寄るはぁとちゃん、はぁとちゃんの乾杯の勢いが強すぎてこぼれたジュースを頭から被ってキレてるレオちゃん。
そんな間抜けな三人を見下ろてるのは……
「あれ?『恋愛倶楽部』の…みなさん?」
ヤッテ・ランネー・プロダクション所属女性アイドルグループ『恋愛倶楽部』
私達『TRY AGAIN』より三年長く活動されてる先輩ユニット。オリコンチャート上位常連の、凄い先輩方だ。
そんな先輩倶楽部…間違えた『恋愛倶楽部』の御三方が何故か会議室にやって来た。
レオちゃんが立ち上がる。先輩に座ったまま挨拶は出来ないもんね。
「『変態☆倶楽部』のみなさん」
「『恋愛倶楽部』だ!」
「今のわざとよね?」
「☆入ってたぞ!?オリジナリティ入っちゃってんぞ!?」
「どうしたんですか?こんな時間に…ここはこの時間僕らが借りてるんですが…」
「謝罪はないんだ」
「わざとよね?」
「ちょっと話があるんだけど……」
キッとした怖い顔で詰め寄ってくる先輩方…なにか、怒ってらっしゃる?
戸惑いの中、顔を見合わせる私とはぁとちゃんの前でレオちゃんは堂々と「なんでしょう?」って問いかけた。
「今日の赤白歌合戦の事よ」
「……?」
「なんで後輩のあんた達『TRY AGAIN』が出場して私達『変態☆倶楽部』が出場出来ないわけ?」
戦慄した。先輩のその一言に。『恋愛倶楽部』の他のお二人も表情を失って仲間を見てるよ…
「…………間違えた『恋愛倶楽部』よ」
「あんた……」
「自分のとこのグループ名間違えるとか……」
話が逸れかけてる。早く退室して欲しいから咳払いで注意を戻しつつ、決して刺々しくならないように気をつけつつ、私は先輩方にお答えする。
「それは私達には分かりません。事務所に訊いてください」
「……明石、あんたチョーシ乗ってんね」
「何ヘラヘラ笑ってんのよ」
「ぶちのめすわよ?」
あれ?
「ヤッテ・ランネーの出場枠かなり多いはずです。先輩方がもし、僕らが『闘魂倶楽部』の出場枠を奪ったと考えてるなら、それは拳闘違いですよ」
「白石ぃ!お前が違うわ!!何もかも!!」「『恋愛倶楽部』!!」
「見当違いも拳闘になってんだろーが!!やめろ!その字面でしか分かんないボケ!!」
その時沈黙を守ってたはぁとちゃんが立ち上がった。
「実力」
一言で切り捨てたその一言は先輩方の闘魂に着火するには充分すぎる……
「私らの力があんたらに劣ってるとでも…?」「デビューしてまだ二年ちょっとのペーペーがいきがってんじゃないわよ?」
「順当に行けば!今年は私らが出場出来るはずだったのよ!!あんたら…社長とかNNKの役員とかに色目使ったんでしょ!?」
カッチーン。
「そんな事するわけないでしょ?そんな事しなくたって出ようと思えばいつでも出れるんですからこっちは!!現に今年出ましたし!?」
「(ミライが怒った)」「(あいつたまに怖いよね?)」
「はぁーー!?!?なにそれ?煽ってんの!?」
「やるか!?じゃーやるか!?どっちがホントに実力あるアイドルか……」
「引退賭けて!!!!」
望むところですよ!!




