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第11話 負けたら死ぬんか!?

 このユニットは大丈夫なのかな…?


 割り振られた自室は結構広くて、二人くらいなら余裕で並んで寝られそうなベッドの上で仰向けに寝転がりながら私は快適な余暇時間を過ごしてる。

 過ごしながら考える。


 初日から仲良くなれるとは思ってないけど、想像してたよりみんなの中には緊張感が張り詰めてるなって……


 緊迫の自己紹介を終えて一人の時間。私はこれからアイドルグループとしてやっていく仲間達の顔を思い浮かべる。

 この数時間で大体の人物像は掴めた。


 暫定リーダーの万理華さんは元アイドルでやる気に満ちてる感じだ。同時にそのプライドの高さが私達との溝にならないかが心配。

 特に琴音ちゃんと、彼女を気にかける陽さんとの衝突が。

 琴音ちゃんはどうしてアイドルになろうと思ったのか疑問に思うくらいの人見知り。関係値を築くのには時間がかかるだろうな。

 朋花さんはまぁいいとして……

 紗良さんからはなんというか……危険な香りがする。あの人はよく分からない。

 このユニットの生命線になるのは多分、陽さんだ。彼女が全員の中に入っていい感じに緩衝材になってくれる事を祈る。今のところ癖のない人、あの人しか居ない……


 初めから纏まるのは無理かもしれない。ただ、やっぱり万理華さんと琴音さんは一番の不安材料だった。



 天鬼りあの目指す理想の百合畑の為にはまず、全員の絆が深まってもらうのが大前提。

 できる事ならみんなでお風呂に入って「えっ!?〇〇ちゃんおっぱい大きい〜」「ちょっとやめてよ〜」的な距離感まで縮まってほしいな。


「まずは陽さんとの仲を深めよう…」


 あの人が居ればメンバー達の仲を上手く取り持てる気がする。私もサポートしなければ……


「まぁ……最初は陽さんと琴音ちゃんの百合を堪能するか……」


 この1ヶ月でユニットとして濃密に絡ま…じゃなくて纏まってくれればいいけど…




「おーい居るかーぁい!!」


 なんて考えてたら突然扉が開けられた。

 びっくりしてベッドから跳ね起きたらそこには眼帯女子、紗良さんが立ってた。

 悪気のない顔でニカニカ笑う彼女は「居たー」って私を指差しながら嬉しそうだ。


「紗良さん…なんですか?」

「さっきマネージャーから聞いたんだけどさぁ〜……この保養所、露天風呂あるんだってよ」


 露天風呂……?

 ロテンブロ……?


「みんなで入ろーぜ!!」


 *********************


『THREEPIECE』前マネージャーの星熊と向かい合う食堂。

 がらんとした食堂で相変わらず怖い顔をしてる星熊と向かい合う私の口から質問が飛ぶ。


「ユニットは5人って聞いてたんだけど…」

「何か問題でも?」


 お前は『THREEPIECE』でリーダーを務めた夏祭万理華だろ?みたいな顔…


「あと一人来るんでしょ?7人、しかもみんな素人なんですって?問題大ありでは?」

「素人だからこその、合宿です」

「合宿って言っても……経営が火の車なうちの事務所ではコーチは雇えない…そういう話だったよね?」


 POPプロダクションは経営難。事務所所属のコーチ達は退職して、外部に委託する金もない。この保養所だって、きっと社長の父親の所有物件だ。

 つまり……


「私が1ヶ月間、あの素人連中の面倒を見なきゃならないって事じゃないの?」

「……歌とダンスの先生は何とか手配します」

「それまでは私があの子らを教えるって事でしょ?」

「まぁ……そうなるかと…少なくとも明日は来ません」


 目眩がする。

 そんな私の憂鬱な気分を見透かすように星熊は鋭い眼光を叩きつけてきた。


「……ユニットが解散してそれでもアイドルを続けたいと願ったあなたをこうして新ユニットのメンバーに抜擢したのはなんの為だと思ってるんですか?」

「…………あの子らが育ったら私はお役御免?」

「そうは言ってませんが…」

「分かってる…私に商品価値なんてない」


 4年間アイドル続けて芽も出ず…事務所は私をとっくに見限ってる。だからこそ『THREEPIECE』は消えたんだ…

 星熊はその目に複雑な感情を宿したまま私を見つめてる。

 いつまで経っても夢を諦められず、現実に向かって歩き出せない哀れな女を見つめる目で…


「それでも私にはこれしかない……」

「ならば、頑張ってください」


 星熊は事務的に告げる。その声にはいつも温度がない。それもまた、芸能界このせかいが長い彼女が身を守る為の術だって知ってる。


「このプロジェクトは倒産寸前の我が事務所の起死回生を賭けた勝負です。集めたメンバーはみんな、磨けば輝く特級の原石です。彼女達とならあなたも……」

「分かってる……」


 星熊が連れて来た子達だ。みんな光るものを持ってる。

 ただ……だからこそ……


「……最初の話に戻るけど……ユニットは5人って聞いてる」

「……」

「お金もないのにわざわざこんな合宿を組んだ理由は?」

「……分かってるんじゃないですか?」


 ……社長の考えそうな事だ。

 だからこそ腹が立つ。

 こうして集まった仲間達だからこそ、欠けてほしくない。それぞれ動機はあるのかもしれないけど、どうあれアイドルになりたい子達のはずなんだから。

 眼帯の子だって、マスクの子だってそれだけは間違いないはずなんだから。

 そして私はリーダーを任されたんだから。

 誰にも欠けてほしくはない。みんなにステージに立ってほしい。

 でも……


「……デビューできるのは5人…そういう事?」

「……上手くいけば7人でデビューできます…でも」


 感情のない目で星熊は告げる。


「最悪一人しか残らなかったとしてもそれはそれで構わない…と、社長は考えてます。その為の合宿ですから」


 *********************


「僕は遠慮しておきます。お風呂は一人でゆっくり入りたい派なので……」

「なんでや!!ウチの浸かった湯は飲めへん言うんかい!?」


 陽さんの部屋の前で勃発した露天風呂騒動。

 紗良さんに誘われて露天風呂で裸の付き合いをする事になった私と朋花さん、そして無理矢理引きずり出された琴音ちゃん…

 そして風呂は一人で入りたい派な陽さんは辞退。陽さんの返答を聞いた朋花さんが激怒した。


「一緒にホクロの数、数えーよー」

「ごめんなさい僕の身体ホクロないから」


 究極の美肌を誇る陽さんはそのまま部屋に引きこもっちゃった。




 そして現在……


「あいつはあかんわ…裸も見せられへん奴はこの世界でビッグになれへんで!!」

「琴音ちゃん!?流石にお風呂ではタイガーマスク脱ぎなよ!?」


 一糸まとわぬ姿になった(一名除く)私達を出迎えてくれたのは湯気の立ち込める広大な湯船。

 露天風呂の名に違わず、壁に囲まれてはいるけど山々を一望できる解放的な空間は心身共に疲れを癒してくれる。


「……ブクブク」


 ……が、琴音ちゃんは頑なにマスクを外さなかった。


「そー言えば万理華っちはどないしてん!?」

「今忙しいみたいだよー」


 朋花さんにそう返す紗良さんも眼帯は外してなかった。


 それにしても……だ。


「それにしても露天風呂があるなんて偉い豪華な場所やんけ!!気に入ったわ!!」


 デカい……


「調べたんだけどこの保養所、事務所の所有物件じゃないみたいだよー」


 デカい……


「……ブクブク」


 ……小っちゃい。


 美少女達の裸体。弾けんばかりのおっぱい。これ即ちてぇてぇかな。


「あんたのぼせんで?ええ加減それ脱ぎや!!」

「……ヤダッ」

「あっ!こいつ…っ!!」


 くんずほぐれつ乙女二人……良きかな……


「がははっ!!ねー、そろそろお顔見てみたいなぁ〜?」


 紗良さんも加わり美少女三人。琴音ちゃんの素顔を拝もうともみくちゃに絡み合う。柔肌がぷるんぷるんで大変けしからんでござるよ。

 湯煙に咲く百合の花…まっこと良きかな……


「でゅふふふふふふふふっ」


 もっと絡んでくれ……


「タスケテ……っ!!」

「でゅふふふふふふふふふふふふっ!!ふふふふふふっ!!」


 良き…………




 ブバッ!!


「あぁ!?天鬼!?えらい鼻血やで!?」

「がははっ!!のぼせた!?ねー!のぼせたのー!?」




 ……失礼した。


 陽さんの居ない露天風呂で琴音ちゃんを獣達から守れるのは私だけなので、琴音ちゃんを救出して距離を取る。

 マスク奪取を諦めた様子の二人は落ち着きを取り戻して、のんびりした湯浴みが再開される…


「……りあちゃんもおっぱい大きいねぇ…もみもみしていい?」

「紗良さん、私は揉まれたいんじゃなくて揉まれてるのを見たいんです」

「どゆこと?」


 はずだった……


「でさー、さっきの話の続きにはなるんだけどさー、琴音ちゃんはどうしてアイドルになろうと思ったの?」


 私から離れない琴音ちゃんに紗良さんの質問が飛んでくる。琴音ちゃんは私の影にコソコソ隠れるようにして沈黙を貫く。

 そんな彼女を紗良さんが目を細めて見つめていた。


「……ホント人見知りなんだね。もしかして、自分の意思でここに来たわけじゃない、とか?」

「……」


 私も気にはなってる。

 人とまともに話せない彼女が人前で歌って踊るような仕事を志した理由は…

 でもマスクの下の口は固く閉ざされてるらしい。彼女の口からは吐息すら漏れてこない。

 そんな彼女の反応に紗良さんは一言。


「琴音ちゃん可愛いけどさ……そんなんじゃアイドルなれないかもよ?」

「どういう事やねん!?」


 含みのある紗良さんの発言に朋花さんが反応した。ちなみに彼女が手で行う水鉄砲は放水車並の水量だった。

 なにあれ…今度教えてほしい。


「実はさっき聞いちゃったんだけどさぁ…このユニットは5人で組むって話なんだって」


 蛇みたいに舌をチロチロ出し入れしながらそんな事を言う紗良さんにその場の視線が集まる。


「……そうなんですか?でも、合宿は7人ですよね?」

「だからさー、りあちゃん…この合宿で二人は脱落する、って話でしょ」


 だ、脱落……!?


「なんやねんそれ、ウチらスカウトされて来とんのやで!?契約だってしとんねん!!」

「今回のアイドルユニットは落ち目なPOPプロダクションが起死回生を図る為の最後の悪あがきなんだよ…半端な実力で売り出したって意味がない」

「……どういう事ですか?」

「望みがありそうな子達を集めて、この合宿で適性を見て……有望そうな子だけでデビューさせる…この合宿の目的は、事務所の救世主となるタレントを見出す為の試験なんだよ」


 これには言葉を失った。

 そんなバカな事が……だって私達はアイドル活動の為に事務所と契約したはず……

 じゃあデビューできなかったらどうなると言うのだ……


「これは合宿じゃなくて……生き残りを賭けたデスゲームなのだよ」

「負けたら死ぬんか!?」


 そういう意味じゃないだろうけど、朋花さん戦慄。隣を見ると琴音ちゃんも呆然とした顔をして(ると思う)固まっちゃってる。


 だって……スカウトされてんだからデビューできるもんだと思うじゃん……だってここに居るメンバーでユニット組むって……


「……私はどーしてもアイドルにならないといけない」


 湯煙の中でぎょろりと鋭い眼光が光る。隻眼の蛇が射すくめたのは琴音ちゃんだった。

 毒気の混じる吐息を吐きながら妖しく舌を蠢かせる紗良さんの姿が、陽気なお姉さんから一変して恐ろしい毒蛇に変貌する。


「だから……実力のない子には容赦なく退場願うつもりだよ」


 それは……ライバルは蹴散らす、そういう意味なのか……?


 百合がてぇてぇ1ヶ月の合宿……のはずだったのに……


 私達のアイドル合宿はいつの間にか閉ざされた山中の保養所での、生き残りを賭けたサバイバルに変貌してた。

 なぜ!?

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