第113話 ミライ、気になる子でも居るの?
「あ…『FOOLS』動画出してる」
某おしゃれなコーヒー屋さんで人を待ってる間、何気なく開いたY〇uTubeで、今気になってるアイドルグループの公式チャンネルの更新に気づいた。
謎の謝罪配信で丸坊主になってとんでもないバズり方したアイドルグループ『FOOLS』。所属はPOPプロダクション。いかにもな名前だけど、私は聞いた事なかった。
『お前いい加減にしろ!!』
動画開いたらはぁとちゃんの推しの琴音ちゃんが紗良ちゃんを激しくぶん殴ってた。
「…ホント楽しそうだなぁこの子達」
動画観てたらレオちゃんからメッセージが…
今ファンの子とホテルなんだけど……
確認しないで通知バー消しちゃった。
「……」
私の視線は画面の一角…白髪の少女に向いてる。
『りあちゃんはお休みの日何してる?』
『私は~…最近は鳥がパッケージに描かれてるチョコを開けまくって天使探してるぅ』
天鬼りあちゃん。
デビューライブから…ううん、その前からちょっと気になってる。
あのライブの時目合ったんだよな。
「……はぁ」
意味も分からずため息が出ちゃう。
今度のライブいつだろ…
『ここで告知でーす。デビューライブやった秋葉原のぉ…なんだっけ?万理華ちゃん』
『アキバStation。もう星羅黙りなさい?…で、またライブしまーす』
『昨日、ウホッ!いい男な店長から「やらないか」って誘われました~。がはは!!みんな!たくさん金落としてくれよな!!』
『また路上ライブとかもやりま~す』
『え~…まぁそんな感じで。また近いうちに色々告知できると思うのでお楽しみに!じゃ!またね~』
……肝心のライブの日程の情報がないな。
思いながらも画面の向こうで手を振ってるりあちゃんに手を振ってお別れしてた。
はぁ…かわいい。たとえヅラだとしても……
「…あの、もしかして『TRY AGAIN』の明石ミライさんですか?」
声をかけられて顔を上げたら男の人が立ってた。
男だから身構えたけど…ただのファンかな。まさか目下悩みの種になってる人が白昼堂々接触してくるわけないもんね。
それにしても…メガネかけて帽子被ってるのにばれるんだよなぁ。世の中の人達は街中の全ての人を観察してるのかしら?
ここで騒がれても困るから人差し指を唇に当ててシーのポーズ。
なんかそれが良かったのか男の人は顔が赤くなるくらい興奮してた。
…よく見たら若いな。もしかして私より歳下?
「やっべ…マジか……あっ、えっとっ。マジでファンで…」
…っぽいね。
「ありがとう」
「おっ…おおおおぉぉぉぉ……」
小声で言ったらなんか失禁しかけてる…
「あの…マジ一緒に写「すみません」
少年の背後から刺々しい声が。一瞬で現実に帰還する少年を大柄な…格闘家みたいなガタイの女性が見下ろしてた。
「うちのタレントに何か?」
有無を言わさない威圧感。消えろって言ってる。そしてこのいかにも帰宅部な少年にそれは重過ぎる。
「ごめんね」って顔の前で手刀を切る私に名残惜しそうな視線を送りながら少年は退店していった。
それを見届けてから敏腕マネージャーは私の向かいに腰を下ろす。
「巌鉄砕さん。もっと丁寧な対応お願いします。あれじゃファンが怖がります」
「……ミライさん、今の状況を考えてください。こんな外で待ち合わせなんて…」
うーん…いい人なんだけど愛想が悪いのと人の意見を聞かないのと握力が全てを破壊しちゃうのがマイナスポイントだよなぁ…
「私だってもう高校生なんだから一人で外くらい出れますよ」
「……」
ふざけてみたけど効果なし。相変わらずの鉄仮面。
「……その後、どうですか?」
巌鉄砕さんが神妙な顔で訊いてくる。
問題児なはぁとちゃんとレオちゃんの手綱を握ってくれてるマネージャーさんにこれ以上心労をかけたくないんだけど…まぁ誤魔化しても意味はない。
「昨日の帰りも…尾けられてる気がした」
巌鉄砕さんの顔が曇る。
「やはりストーカーです。警察に相談しましょう」
「まだ何の実害もない。ストーカーだって確証もない」
「なら、これから毎日事務所の人間を警護に…」
「大袈裟にしないで。大丈夫。みんな忙しいのに私のお守りまでさせたら過労で死んじゃうよ」
「……ミライさん。あなたはうちの事務所の稼ぎ頭……いえ。そんな話ではなく…」
「分かってる。ありがとう、巌鉄砕さん」
「……すみません」
「…もし、本当に悪質なファンがストーカー化してるなら、レオちゃんとはぁとちゃんも気を付けた方がいい…二人の事お願いね」
「……お二人からはそういうお話は聞きません」
「うん。でも用心してね?」
「……か、かしこまりました…」
本当に良くしてくれるマネージャーさんの下げた頭に手を添える。
「ありがと…巌鉄砕さんはいい子だね」
「…………」
「いい子いい子」
「……ふぉ…おおおおおおぉぉぉぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉおぉぉおぉおぉぉおぉぉぉおぉぉぉおぉぉぉおおぉおぉぉっ///」
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「おっふっおっふっふっ!!///」
「ねぇキモイんだけど」
来年の仕事に向けての打ち合わせ。
会議終了後、コラボする企業さん達が退室した後、会議室の机にヨダレをダバダバ垂れ流すはぁとちゃんに、レオちゃんがブチ切れた。
「あのさ、君話聞いてなかったよね?」
「それどころじゃねーんだよ…」
「じゃあAの味噌とDの味噌どっちがいいんだよ」
「D」
「騙されたな。Dないから。やっぱり聞いてなかったんじゃないか」
ちなみに今日の打ち合わせは『TRY AGAIN』でカップラーメン出すからその試食も兼ねた打ち合わせ。
今味噌ラーメンを出すのがタレント間で流行ってるのかもしれない…
……私は醤油ラーメンが好きです。
「あ、そうだ。味噌ラーメン出すから公式ホームページのプロフィール欄、好きな食べ物味噌ラーメンに書き換えておかなきゃ」
「ころころ変えるなよミライ……君この間ビーフストロガノフって書いてたと思ったら今クレープじゃん」
「あの時はクレープ屋さんとコラボだったもん…レオちゃんだってたこ焼きからとんぺい焼きになってたよ?」
「あれは…僕、タコアレルギーだって事が判明して…」
「え?タコってアレルギーあるの?」
まぁそれはいいとして…
「はぁとちゃんは今日ずっと何を観てニヤニヤしてたの?」
はぁとちゃんは仕事そっちのけでスマホをガン見しながらヨダレを垂らしてた。打ち合わせなんて上の空で試食の時かやくそのまま食べてた。
「また新宿で『FOOLS』がライブするって…」
ああ、さっき観た動画観てたんだ。
「はぁとちゃんまた行くの?」
「行くに決まってんだろ!?」
唾飛んだ……
「私も一緒に行っていいかな?」
提案にはぁとちゃんはキョトンとした後、クソガキスマイルをニタァって顔面いっぱいに広げた。
「くきゅきゅきゅっ。ミライもすっかりハマったな…『FOOLS』の沼に…古参として頑張ろうぜ」
なんかはぁとちゃんの笑い方ってムカつくんだよなぁ…
「ミライ、気になる子でも居るの?」
レオちゃんの問いかけにドキッとする。気になる、を変な意味に感じ取っちゃう。
私は無言で頭を左右に振り回し、ロングヘアでついでにはぁとちゃんにビンタしといた。
「痛い痛い痛い!!毛先が目に入ったぁ!!」
「ふーん、じゃあなんで?」
「なんでって?」
「いや…やけに熱心に応援するなぁって思って」
「レオちゃんはデビューライブ、楽しくなかった?」
「…………新人にしては良かったけど、僕はああいうネタに走る子達は苦手かもな」
少し考える間があってからレオちゃんは素っ気なく答えた。その反応が少し寂しい。
「レオ。お前、死ねや」
あとシンプルにクソガキの口が悪い。
二人のプロレスが始まったのを眺めながらぼんやりしてたら打ち合わせに同席してた巌鉄砕さんが近くによってきて耳打ちする。
「今日のスケジュールは終了です。ご自宅までお送りします」
「大丈夫だよ。電車で帰るって」
「…しかし」
…もう時刻は20時半を回ってる。外はもう真っ暗。家までの暗い道を一人で歩く事を想像したら不安になるけど…
「大丈夫だよ」




