第112話 推し変だね。殺します
飯処日清館。
どこにでもあるようでないような…そんな町中華。
私達『TRY AGAIN』はいつもレッスン終わり、ここで晩御飯を食べていくのが日課です。
……まぁ最近ははぁとちゃんの体重が際どいせいでご無沙汰だけど。
「チャーハン…あとラーメンと餃子」
ダイエット終了後、二日で体重をダイエット前プラス2キロしたクソガキ、『TRY AGAIN』青担当。荻窪はぁとちゃん。
「…回鍋肉もいっとくか」
「バカじゃないの?風船にでもなる気かい?」
しっかり者の最年長、私達のリーダー兼王子様、白担当の白石レオちゃん。
「私はワンタンラーメン」
「ミライいっつもそれだね。飽きない?」
「…このお店教えてくれたお世話になった人がいつもこれ食べてたから…なんかこればっかりになるんだよね。レオちゃんもワンタンにする?」
初めてこのお店に来た時、連れてきてくれた人のマネージャーさんの運転荒すぎて車で入店しちゃった女、赤担当兼センター…それがこの私、明石ミライ。
私達三人で大手芸能事務所ヤッテ・ランネー・プロダクション所属、『TRY AGAIN』。
「そうだな…いや。僕ははぁとの分を半分食べるからいいや」
「なんで!?自分の金で頼めよ!?山賊か!?」
「君の体重増加を食い止めるためだ。むしろ感謝してほし。食べた分は払うよ」
私達にはいくつかルールがあるんだ。
その一つがみんなでご飯食べる時は必ず割り勘ってルール。メンバーにたからない。自分の分は自分で払う。
「へいお待ち。ワンタンラーメン汁薄め」
「…何で薄め?」
「お客さん、いつも言ってると思うけど、濃いめの時は濃いめって言ってくれないと…濃いめはプラス1000円だから」
「普通は?」
「うちにはそんなのないよ。有名人だからってチョーシ乗らんでくだせぇ。あい、回鍋肉レア」
「おいこれ火通ってないぞ!?」
「…お客さん、いつも言ってるでしょう?よく焼きの時は……」
「回鍋肉にレアもウェルダンもあるかぁ!!ミライもうこの店来るのやめよう!!」
……スープが水みたいだよ。
「あと、今日創業130周年記念アニバーサリーなんで」
「先週創業150年って言ってなかったかい?」
「全品200%アップになりやす」
「このクオリティでさらに値上げするのかい!?」
私達の飯処日清館…今日も通常営業。
「……ミライ。はぁとじゃないけど…もっと美味しい中華屋さん、僕知ってるよ?」
「レオちゃん。思い出には勝てないんだよ」
『TRY AGAIN』のルール二つ目。オフでも芸名で呼び合う事。私達はいつでもアイドルだって意識を持つためのルール。アイドルは楽屋でもお家でもトイレの中でもアイドル。事務所の先輩からの教えなの。
「あの……もしかして『TRY AGAIN』ですか?」
麺を啜ってたら他の客さんが話しかけてくれた。この店ではよくある事。
我らがリーダーが緊張した女の子二人にキザに笑いかけた。それだけで二人組は顔が蕩けてたんだから、レオちゃんはすごい。
「もしかして、僕らのファンかな?」
「は、はい!!」「いつも応援してます!!」
……レオちゃんが二人を上から下まで観察。ちろりって唇の隙間から舌が覗く。
あぁ…食われる。
「感激です!!」「こんなところで『TRY AGAIN』に会えるなんて…もうびっくり……」
「ねぇ」
熱に浮かせれたような二人にはぁとちゃんが鋭い視線を向けたのを確認して、私は他人のふりして食事を再開。
「はぁとちゃん!あの!サインくだ「ここは私らの行きつけの店で通ってたら高確率で会えるって、知らなかった?」
はぁとちゃんのトゲトゲした言動に二人は固まった。
……ワンタンうめぇ。ワンタンだけ。
「そうなんですか…」「知らなかったです」
「ファンって言ったじゃん」
「……」「……えと」
「そんなんファンなら知ってて当たり前の基本情報だと思うんだけど?なんか驚いてたけどさ…ファンサイトにも書いてるし二年前の6月14日の配信でも私、喋ってるし…店名は出してないけど、他の情報と照らし合わせたらすぐ分かるよね?」
「いや…」「知らなかったです…」
「知らなかった!?それって私のファンのくせに私の配信観てないって事!?それって裏切りだよね!?」
もうドン引きだよ…
「いや…」「あっ。私達レオさんとミライさんのファンで~」
「お前ら去年の8月15日の握手会来たよな?」
もう恐怖で青ざめてるよ…
「左の君、CD20枚も買ってくれたんだよね?就活上手くいかないって落ち込んでたじゃん。その後モーシバの相模原支社に就職出来たってDMくれたよね?」
「……(ゾクッ)」
「そっちの子はまだ大学生なのに結婚して大変だって…お金苦しいけど私とどうしても会いたいからって来てくれたよね?」
「……ひっ」
「……その後離婚したのも知ってるよ?ファンのSNS、全部チェックしてるから…」
もう半泣きだった。
「あの……(震)」「すみません帰ります…(涙)」
「私のファンだったじゃん。誕生日もケーキの写真投稿してくれてたじゃん。なのに……」
「た、助けて…」「許してください」
「レオとミライのファンです?……なにそれ?推し変?」
はぁとちゃん、目がイッちゃってる。
「私はファンを愛してる…」
「ひぃぃぃぃっ!!」「誰か助けて!!」
「愛を裏切る行為は許されない…」
「「いやああぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
「推し変だね。殺します」
どっかのY〇uTuberの自動字幕みたいな事言いながら割り箸おかしな持ち方して立ち上がったはぁとちゃんを見て、二人とも逃げ出しちゃった。
「…まぁ、はぁとちゃんのあの反応でビビり散らかすのはそんなにコアなファンじゃないね」
はぁとちゃんの超ヤンデレ気質はファンの間では有名だから。荻窪はぁとのファンは常に監視されてて、それに喜びを感じる、高度に訓練された変態しか居ない。
「いやミライ…コアだろうがなかろうが応援してるファンには違いないから…まったくはぁとはホントにクソガキだね!?」
リーダーが怒ってる。
「久々の上玉だったのに逃がしちゃったじゃん!!」
『TRY AGAIN』リーダー、白石レオ。業界内では『ファン喰らい』『雑食』『永久発情機関』の異名を持ってる。
「誰がクソガキだっ!!この変態!!また週刊誌に撮られるぞ!!揉み消すのに事務所が毎年いくら使ってるか知ってるか!?」
「ちっ…マチアプで漁るか……『TRY AGAIN』って言えばすぐにファン釣れるし…」
「こんなんがリーダーとか、無理なんですけどぉ!!!!」
「うるさいクソガキ」
『TRY AGAIN』の秘密……
ファンとの関わり方が…下手!!




