第108話 姉さんは…夜な夜な男性を引っ掛けてホテルでキ〇タマ潰して回るくらい、男性が嫌いなんだ
「いや生えてんだから男なのよ」
万理華さんは悲しげな顔で首を横に振った。けど……いや……
「生えてるからって……万理華さん。生えてる事と生物学上オスである事とには、因果関係はないよ」
「何言ってんのりあちゃん(笑)」
「りあ……現実を受け止めきれないのは分かるわ。でもこれは事実……私は知ってたのよ」
「シッテタ?」
シッテタ?ナニヲ?
「陽が男だったって事よ……デビュー前から知ってたわ」
…………????
いや、だって……え?
「…………裏切ってた……って事????」
「裏切ってた(笑)」
「りあ、そんな言い方しないで」
「だって!!万理華さんは私が……っ!壁になりたいって知ってるじゃん!!」
「りあ……」
「百合の間に挟まる男は絶対許されない存在なんだよっ!!!!」
百合の間に挟まる男……
それはこの世で最も美しくて尊い美少女同士の百合の間に割って入ってくる存在。この世で最も邪悪な存在だと言っても過言じゃない。
万死に値する存在……っっ!!
「りあちゃん、何にそんなにキレてんのか知らんけど、別に良くない?」
「別に……良くない?」
せいちゃんの発言に頭に一気に血が昇る。
私は百合をてぇてぇする為に芸能界に……っ!!
「はーちゃんは仲間でしょ?」
でも……せいちゃんのその一言に私の沸騰した怒りは一気に冷めていく。
「男とか女とか、私は気にしないなぁ。はーちゃんが可愛い事実は変わらんし?」
……そうだ。私は何を言ってるんだ。はーちゃんはここまで一緒にやって来た仲間じゃないか。
瞬間、私の目から涙が零れる。
罪悪感やら、情けないやら…かけがえのない友達に一瞬でも理不尽な怒りを抱いてしまった自分に…
「……ご、ごめん…私……っ」
「……りあ、いいのよ」
万理華さんが抱きしめてくれた。いい匂いがする。まるでママに抱きしめられてるみたいに安心する匂い。
「私も……もっと早く打ち明けるべきだった。でも、デビュー前にみんなを動揺させたくなかったの。でも……これ以上隠し通しておくのは本人も望んでない」
「うぅぅぅぅ…」
「りあの言う通り、陽は百合の間に挟まる男よ。でもそれ以前に……『FOOLS』の仲間でもある」
「うん……っ!!」
「……さっきからなにぃ?その…百合の間に挟まる男って」
私の心が落ち着くのに数分を要した。
冷静さを取り戻したら今度は疑問が生まれてくる。
当然それを万理華さんにぶつける。
「万理華さん……はーちゃんはどうして男の子なのに『FOOLS』に入ったの?」
「……それはね…陽のお姉さんの夢だからよ」
「はーちゃんがアイドルになる事が?」
「……順を追って説明するわ」
万理華さんがその事実を知ったのは夏の合宿中だったんだって……
合宿中、はーちゃんが本社に行ってた日がある。その直前の事。
ある日突然、星熊マネージャーに呼び出された万理華さんが食堂に行くと、そこには星熊さんと、はーちゃんが待ってた。
一体何事かと首を傾げる万理華さんに星熊さんは珍しくまともな態度でこう言った。
「夏祭さんには知っておいてもらう必要がある話です。心して聞いてください」
「なによ…改まって……」
「万理華ちゃん……実は僕……男なんだ…」
万理華さんも最初わけが分からなかったって。
「……どゆこと?」
首を傾げるしかない万理華さんの前で、はーちゃんはシャツを脱いだって。
「ちょっと…急に何して……」
慌てる万理華さんの目の前でズボンまで下ろしたとか。
「「ちょい待ちちょい待ち」」
慌てて止める万理華さんと星熊さんの手で最後の砦だけは守られたけど……秘めたるパンツの中央には確かなもっこりがあったとか…
万理華さん、戦慄。
「……まぁそう言う事です」
「いや。星熊……え?」
「私もついさっき聞きました」
「いやいや……え?このアイドルユニットは女子メンバーで集めたんじゃ……」
「一さんは性別を偽ってオーディションを受けていたのです」
その時はーちゃんは深々と頭を下げたんだって。その目には…涙が浮かんでたとか。
それを見た万理華さんは色々喉元まで出かかって全てを呑み込まざるを得なかった。
「ごめんなさい……僕……みんなを騙してましたっ!!」
パン一で頭を下げるはーちゃんを眺めて愕然としながらも、目の前の可憐な少女にしか見えないはーちゃんが男である事実が、結びつかなかったって。
「……どうして?」
万理華さんは問いかけた。
そこで語られたのははーちゃんがアイドルを目指す動機。
「アイドルは……姉さんの夢なんです」
「姉さん……都度都度出てくるあなたのクレイジーなお姉さんの事ね?」
「姉さんをバカにしないでください(怒)」
「あ、すみません……えっと?あなたはお姉さんの夢を代わりに叶える為にアイドルに?」
はーちゃんは一瞬口を噤んで、伏せた視線を万理華さんに向けた。その様子は自分の中の一番辛い部分を曝け出す為の勇気を振り絞っているように見えたんだって。
「僕の姉さんは……4年前から行方不明なんだ」
その内容は思ったより重かった。
話を聞いてて思ったけど、どうして『FOOLS』のメンバーは過去に一癖も二癖もあるんだろ。
なんか……自分が恥ずかしくなってきたよ……
「4年前……アイドルになるって言って家を出て行ったんだ…それ以来、どこで何をしてるのか分からないんだ」
「……そう、なの…」
「警察は?」
星熊さんの問いかけは愚問だった。捜索願いはとっくに出してるとはーちゃんは答えた。まぁ当然だよね。
「警察が探しても見つからないのね…それは心配ね。でも陽…それとアイドルになる事とどういう関係が?」
「……僕は姉さんを探す為にこの業界に来た。アイドルになるって家を出た姉さんはきっと、芸能界に居るはずなんだ」
「……」
万理華さんは色々言いたい事があったみたいだけど黙ってたって。
でもこれだけは訊いたって。
「……でも、どうしてうちに?アイドルなら男性アイドルユニットだって良かったんじゃ…」
「ダメなんだ」
「どうして?」
「姉さんは……男嫌いなんだ!だから男性アイドルなんかには見向きもしないんだよ!!」
「……」
「姉さんは…夜な夜な男性を引っ掛けてホテルでキ〇タマ潰して回るくらい、男性が嫌いなんだ」
「あんたのお姉さん警察から逃げてるだけなんじゃない?」
「姉さんは僕以外の男とは絶対に口を聞かないし、目も合わせない。この世の全ての男性を去勢して女性だけの世界を作るのが姉さんの夢なんだよ。そんな人が芸能界に居たとして、男性アイドルなんかに関わると思う?」
「あんたのお姉さんの夢アイドルじゃなかったの?やっぱりあんたのお姉さんは警察から逃げ回ってるのよきっと」
まぁ……そういう事なんだって。
ひとつ分かったのははーちゃんのお姉さんは夜な夜な男性のキ〇タマ潰して回ってる犯罪者だって事。
事情を聞き終えた万理華さんは一つだけ尋ねた。
「事情は分かった……それで陽…もしお姉さんが見つかったらあんた、どうすんの?」
「……」
「アイドルをやりたいって気持ちは、ないの?」
もしそうならはーちゃんにはやめてもらった方がいい……万理華さんはそう考えてた。
「……僕は…」
「……」
「みんなとは違うし、男だ……だから、迷惑なら……」
「そんな事訊いてるんじゃないわ。あなたの気持ちを訊いてるの」
その時、星熊さんは何も言わずにただ事の成り行きを見守ってた……いや、立ったまま寝てたんだって。
はーちゃんが口を開く。
「……みんなと出会って、まだ少ししか時間は経ってないけどけど…僕は……」
「……」
「……許されるなら、みんなと居たい。アイドルは正直、よく分かんないけど……それで許されるなら……」
それが彼女……いや、彼の答えだった。




