第107話 ……ご立派だった
一体このくだり何回やっただろう…
私は万理華さんの部屋に居た。
ただ今日はなんだかいつもと違う…
そう……
「ばなな」
私の隣でりんごを見ながらばななって答えてる女、錦野星羅が居るから。
「ばななしぇいく」
レコーディングの時はあんなにかっこよかったのに万理華さんの部屋でりんご食べながら豆乳を飲んでる今のせいちゃんにはその面影は微塵もない。
目はごまみたいな黒い点になって、口は顔いっぱいに広げられてた。ついでに輪郭もガタガタしてる。
定期的に訪れる症状だった。
「それは豆乳よ星羅」
「とうにゅうばなな」
「りあも座って」
私の前に置かれたのは…バナナシェイクだったよ。
「せいちゃんバナナシェイク飲む?」
「じゃーじーぎゅーにゅー」
「……万理華さん、せいちゃんどうしちゃったのかな?」
「アルコールが切れたのよ。紗良が言ってたわ。星羅はアルコールが切れると一気に知能指数が低下するって」
「普通逆じゃない?」
衝撃の生態だけど……それより。
「……ASMRするんだよね?」
「バカ!星羅の前でそんな事言うな!!」
「こなばなな」
「せいちゃんこんな調子だから大丈夫だよ。え?……今日は3P?」
「3Pとか言うな!!」
女の子の部屋には必ずある小さくて丸いテーブルを囲む三人。珍しい組み合わせだけど…どうやらASMRじゃないらしい。
え?じゃあASMRは?
「りあ、焼肉屋では話せなかったけど…この前の、話したい事」
「あぁ……」
告白……ではないやつ?
「せいちゃんにも関係が?」
「まぁ……星羅の、というより、陽の話なんだけどね?」
……っ!?
せいはる!?
「万理華さん……私はありのままの百合を受け入れるよ」
「黙りなさい?」
「かかおびたー」
完全に頭の悪い人になっちゃってるせいちゃんに白い眼差しを向ける万理華さんは、傍らのコンビニ袋から缶チューハイを取り出してせいちゃんの目の前に……
瞬間覚醒したせいちゃんが缶ごと呑み込まん勢いで一気飲みした。
「……っ!!ぷはっ!!…はっ?……私は一体…」
「せいちゃん面白い体してるね」
「りあちゃん……どうして私の部屋に?」
「ここは私の部屋よ。あんたにも正気に戻ってもらわないと話が進まないから」
「……」シュボッ
「私の部屋だと確認してからタバコに火をつけるな!!」
ヤバい、ドキドキしてきた。
せいはるについての話……これってもしかして…私達付き合ってんだよね報告会!?!?
「……そっか。はーちゃんあの夜、トイレで嫌がってたように見えたけど、嫌よ嫌よも好きのうちって事か……てぇてぇ」
「りあちゃんなんの話?」
「陽の股間の話よ」
何かに合点がいったらしいせいちゃんはチューハイの缶を灰皿にしながら「あぁ…」って呟く。
「おめでとうせいちゃん。私、応援するからね」
「なにを?」
「違うのよりあ」
「何が違うの?……はっ!?まさか万理華さん……二人の交際を認めないって言うつもり!?」
「だから違うのよ」
「……許さないよ?それこそ許さない。私がなんの為に『FOOLS』に……!!」
「だから違うって言ってんの。話を聞きなさい」
万理華さん…真剣な顔してる。うちのグループは色々あり過ぎてここ最近はもうずっと真剣な顔しかしてないけど……
「……あんたに話すかは迷ったけど…いずれはメンバー全員に知らせなきゃいけないことだと思ってたから…まずはあんたかなって…」
「……?」
「心して聞いて」
「そんなに大袈裟な話じゃないよー」
万理華さんと星羅とでテンションの差が激しいけど……
どうやら覚悟が必要な話らしい。私は居住まいを正す。
正しながら予想する。
はーちゃんに関する事だよね?……もしかして…彼氏居ますとか?
でもさっき股間って言った?
まさか……彼氏から病気移された?
「……まさか…はーちゃんの股間から膿が…!?」
「なにを想像したらそーなるのよ!!」
「膿は出てなかったよー」
「……じゃあなに?勿体ぶらずに教えてよ」
「あんたはショック受けるかもしれない」
「覚悟はできてる」
きりっ!
私の覚悟を見た万理華さんは大きく深呼吸してから……目を閉じて、開いて、私を見据えた。
「……この前星羅の家で、星羅が陽の股間弄ってたって話してたわね?」
「……うん」
緊張しながらせいちゃんを見る。
「生えてた」
賃貸の壁紙にヤニを吹き付けるせいちゃんはコンビニ袋から二缶目のチューハイを取り出し…
……ん?
「なんて?」
「生えてた」
「何が?」
「ナニが」
「どこに?」
「股間に」
……………………????
「りあ」
宇宙に飛んでいきかける理性を万理華さんの声が引き留める。
「陽は……男なのよ」
引き留めた直後に大気圏まで吹き飛ばされたけど。
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地獄のデビュー前作詞作曲期間中…
せいちゃんの家にみんなで泊まったあのXデー。あの日せいちゃんは一人催してトイレに起きたらしい。
「う〜んむにゃむにゃ…酒飲んでしっこ出してそのしっこ濾過したらまた酒に戻んないかな…」
そんな事を考えながら自室のトイレに入った時…
せいちゃんは確認しなかったんだ。
そう、トイレには先客が居た事を…
「ん?」
「あっ!?」
扉を開けた先で用を足してたのははーちゃん。
普段アルコールとニコチンに脳をやられてるせいちゃんだけど、違和感にはすぐに気づいた。
そう、はーちゃんはせいちゃんに背を向けて、立って用を足してた…らしい。
女の子は立ったままトイレしない。それは明日も世界が続いていくって事よりも確かな事。
その時のはーちゃんの顔は青ざめてたらしい。
「……はーちゃん何してんの?」
「あっ!いや……ちょっと……あの……トイレの電球……切れかかってたから……変えておこうかなと……あはは」
ジョボジョボジョボ
「……その水音は?」
「違うよ!?」
「ん〜????」
「来ないでっっっ!!」
青ざめてたはーちゃんの顔は一転、羞恥心なのか真っ赤に染まってたんだって。固く目を閉じてせいちゃんに背中を向けたまま叫ぶはーちゃん。
……エロい。
この時何を思ったのかせいちゃん、羞恥に染まるはーちゃんを見て……ムラっときたとか…
チューしよ。
立ってようが座ってようがトイレ中だろうがこのキス魔には関係なかったみたい。
容赦なく距離を詰めるせいちゃんに対して、はーちゃんが出来た抵抗はなかったんだそうで……
はーちゃんの体にゼロ距離まで接近したその時せいちゃんの視界にははーちゃんの背中越しに……アレが見えたんだって。
「……ご立派だった」
せいちゃんはそう締めくくった。
私はせいちゃんの説明の一割も理解できないまま呆然としてた。一つだけ理解したのはご立派だったって事だけ。
「……で、面白くてそのあとしばらく陽を辱めてたんだって…そこにりあが起きてきて見られたと」
「いやー覗かれてたなんて気づかなかったよ」
「辱めっっ!?」
「だってぇ……お父さんの以外、見た事なかったんだもん♡」
一体何を……いや、それより…………
「えっ……と?つまり?はーちゃんは…?」
「男」
「生えてる?」
「そう」
万理華さんが凄く気の毒そうな目で私を見てる。
ようやく……ようやく頭が話を理解し始めて、私の脳は回転する。
そういえばはーちゃんは合宿中、一度もみんなとお風呂に入らなかったし、初ライブの時に衣装に着替える時も一人トイレに行って着替えたし…
私ははーちゃんの服の下の身体を見た事ない。
はーちゃんは肌を見られるのが嫌なんだろうってくらいに思ってたけど……
「…………えっ……と…いや……」
でもそれってさ……
「あの…………」
はーちゃんは……
「生えてた……だけ、だよね……?」
百合の間に挟まる男……って事????
脳が……壊れる。




