第106話 ありがとう万理華さん…『私をアイドルにしてください』の時は大人なパンティ履いてくるからね
冬休みもなんだかんだで潰れそうです…
こんにちは、天鬼りあです。
私達は今、アルファードでレコーディングスタジオに向かってます。
『FOOLS』は無事にデビューしましたが、うちの事務所は相変わらずの財政難だそうです。
「おいおい……私らライブ出たじゃん星熊ちゃん……」
初ライブ後のお給料頂戴って言ってるせいちゃんがアルファードの中で震えてる。エアコンが壊れてて車内が寒いからじゃない。
カスみたいなお金しか貰えないって言われたからだった。
「だから物販もチェキも何もなかったんだから仕方ないじゃないですか…ステージで歌って踊るだけで金貰えると思わないでくださいこのタコ」
「じゃあ……曲は?曲の使用料」
「誰に払わせるんですか……使ったの自分達でしょーに…というか、むしろあなたはこれから配信シングルを出すにあたってお金を払う側なんですが……」
「は?」
「あなたのレーベルの曲ですから」
「えぇ!?」
「せいちゃん借金返せなかったらベーリング海に送られるんだって」
「かわいそうに」
琴音ちゃんと憐憫の眼差しを向けながら思う…文無しのせいちゃんがどうやって曲をリリースするんだろうって……
「私達の曲を出すお金はどこから……」
「紗良がお金貸してくれてるのよ」
「え……そうなの?」
疑問には万理華さんが答えてくれた。
「でも沢山お金かかるんでしょ?」
「だから配信なのよ…CDよりコストはかからないし……」
「紗良ちゃん……せいちゃん家の家賃も払って私達の財布にまで……」
「財布言うな」
紗良ちゃん…なんでもない顔して茹でタコ食べてるけど…絶対聞こえてるよね?今の会話。
紗良ちゃん、完全にせいちゃんの世話係…
さらせいてぇてぇ……?
「紗良の恩に報いる為にも、今日のレコーディング頑張るわよ」
「……うん」
配信シングルのリリース、そして3月のライブ…
私達の歩みはまだ始まったばかりだ…
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「今日お世話になるレコーディングエンジニアのぽこぺんさんです」
星熊さんの隣でヘッドホンを首からかけたモップみたいな頭のおじさんがにこやかに会釈した。
「あのぽこぺんさんが私達の曲を!?」
万理華さんがびっくりしてら。有名な人みたいだ。
「嘘ぉ!!」
「信じらんなーい!!」
「感動です!!」
「すげー!!」
……残りのメンバーは多分ノリで驚いてるだけだね。ぽこぺんさんも気分良さそうだし私も驚いとこう。
「ありえなーーい」
「うふんっ。よろしくね」
…………『FOOLS』周りの男性陣、オカマ縛りある?
さて。
りあちゃん人生初のレコーディング。
「へーみんなで録るんじゃないんですねぇ」
「そうよん。一人ずつ、あっちの部屋で歌ってもらうからねん。今日は『神曲』を録っていくからねん」
「よろしくお願いします」
「うふんっ。まず誰からイく?」
「私だろう」
我らがセンターせいちゃん。初収録を前に全く怖じけた様子も見せないでブースに入っていく。
私達は外に出てろとの事だったから、みんなでスタジオの外の長椅子に腰掛けて順番を待つことになる。
「今日はここで座ってる時間の方が長いわね」
なんだって。手持ち無沙汰そうに万理華さんが教えてくれる。
「じゃあ暇だし『THREEPIECE』の曲でも聴いて待ってよ」
「やめなさい陽、本人の前で!!」
私も暇だからスマホでも弄ろって思ったら……
「あっ!?うわぁっ!?!?」
「なんだ!?」「どうした!?」
琴音ちゃんと紗良ちゃんが詰め寄ってきた。二人に押し潰されながら震える手でスマホを握ってる。
そこには……
「ミ……っ!ミライちゃん……っ!!」
私のアカウントが明石ミライちゃんにフォローされている!!
しかもDMで「初ライブ素敵でした!これからよろしくお願いします」って来てる!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
「りあちゃん!?大丈夫!?」
「リーダーぁ。りあちゃんが壊れた」
……それから一時間くらい私は、みんなにウザ絡みしてた。
「万理華さん……返信した方がいいかな?(震)」
「すれば?(怒)」
「はーちゃん返信内容考えてよぉ(震)」
「AIに訊いてみるね?えっとね…『拝啓、向寒の候、皆様におかれましては、ますますご清祥のことと心よりお喜び申し上げます。さて』……」
「琴音ちゃん琴音ちゃん、『TRY AGAIN』が初ライブ来てたってよ!!」
「うん、さっき聞いた。それ6回目」
「紗良ちゃぁんっ!!」
「うんうん」
「なんでもない」
「私にはなんもないの????」
……それと荻窪はぁとちゃんからも超長文のDMが来てた。琴音ちゃん以外のメンバーに。琴音ちゃんには絡みにいかないこれはなんなんだろうね。
以外、一部抜粋。
お久しぶりです。荻窪はぁとです。初ライブ、現地で拝見させて頂きました。
感動しました!凄かったです!泣きました!
特に最後の(中略)
とにかく琴音様も皆様ももう最高で、人生救われたんですけど、この感動と感謝を是非琴音様に伝えて頂きたくて(中略)
琴音様のお陰で生きてられます(中略)
神です(中略)
使用済みバスタオルください(以下略)
……この人やっぱり通報した方がいいよ。
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レコーディングブースはぽこぺんさんの居る部屋とガラスで区切られた、マイクがあるだけの部屋。
そこに通されヘッドホンを付けレコーディングを行うわけ。
部屋の作りを見た時ドラマとかで観る取り調べ室みたいだなって思ったけど、専門の音響機材が並んだ室内にはそういうのとは別種の閉塞感があった。
アイドルになってから初めての事だらけだ…
それで言うとアイドルとして、たった一人で歌うのも初めて。
だからかな……イマイチ調子が出ない。
それに通しで歌うんじゃなくて、一個一個で区切られるのも慣れない。こういうの、セクション録りって言うって万理華さんに教わった。
まぁ結果…何回も録り直しになっちゃった。
ダメな部分だけを録り直すのをパーツ録りって言うんだって。
「ちょっと遅れてるわねぇ、もう一回ね」
「はい」
「今のところ『私の〜』の所、もう少しリズム感意識してん」
「はい」
「アイドルは笑顔よん。お客さんが見てなくても笑顔。笑顔から声が出る。もう一回」
「はい」
「今のとこもっと伸びが欲しい」
「はい」
「そうじゃないわ。あなた、何回言ったら分かるの?お子ちゃまパンツ履いてるからセクシィに歌えないのよ」
「履いてません」
「……嘘ね。クマちゃんのパンツでしょう?」
「……どっ…どうしてそれを…っ!?」
「分かるのよ、あたしには……」
自分達の歌なのに相当ダメ出し食らった…
結果、全員のレコーディングが終わった頃には外は真っ暗になってたよ。
私が時間かけちゃった気がして申し訳なくて、帰りの車の中で頭を下げる。
「みんなごめんね?私が下手くそだから時間かかっちゃった……」
「そんな事ないわよ。レコーディングなんてあんなもん。それにぽこぺんさんは色々厳しいから」
「ありがとう万理華さん…『私をアイドルにしてください』の時は大人なパンティ履いてくるからね」
「なんのアピール!?」
「気にしないでねりあちゃん。僕の方が時間かかったしさ…」
「はーちゃん早かったよぉ……まぁ、一番早かったのせいちゃんだけど」
せいちゃん、私達の半分くらいの時間で終わらせて出てきたけど……
「星羅、あれで良かったの?納得のできる出来になった?」
「私は天才だから大丈夫」
万理華さんに堂々と言い放つその貫禄には感嘆の息が漏れるよ…やっぱりせいちゃんには私には無いスター性があるなぁ。
「……あはぁん…///」
「なに!?どうして急に喘いだの!?」
「違うよはーちゃん。これ、感嘆の吐息」
「どう聞いても感じてたけど…?」
おや?助手席の万理華さんがモゾモゾし始めたぞ?
「……万理華さん、ダメだよこんな所で興奮したら(ボソッ)」
「しばくわよ?」
「そういえば今週のASMRまだだったね。いつがいい?ふっ(吐息)」
「やめろ!!///」
星熊さんが怪しげな目でこっちを見てる。メンバーの居る車内での秘密のやり取り…
……ああ、これが私とじゃなかったら…悔やまれる限りだ。
「……そうね」
もう耳を赤くして出来上がっちゃってる変態万理華さんがチラって振り向いて、物欲しそうな眼差しを向けてきた。
「……じゃあ今から」
そして大胆なお誘いだ。




