第105話 あと三時間はキレてるわ
……疲れた。
『THREEPEACE』解散以来の初ライブだった。でもその間のレッスンも欠かさなかったし、自分ではもっと出来ると思ってた。
衰えたわね、夏祭万理華。
自嘲する。
ライブは成功だったわ。ただ、私は納得できるレベルだったとは言い切れない。せいぜい6割。
曲が難しかったってのもある。時間もなかった。でもそれは言い訳ね。
あと…星羅との実力差。あの子と他が開きすぎてる。私含めて…
みんなはあれでいい。これからもっと上手くなるわ。でも…経験者かつリーダーの私は今のままじゃだめだ。
お母さんなら初見でももっと上手く歌ったし、踊ったはず…
あとはそう…最後のトラブルね。紗良がすかさずフォローしたけどあれも本来リーダーの私の役目だ。
「しっかりしなさい…私」
本当ならすぐに帰ってベッドにダイブしたいけど…その前に。
風穴だらけの玄関の前でスマホからメッセージを送ったらすぐに扉が開いて、スキンヘッドの星羅が顔を出す。
今更だけどすごい違和感ね…早く髪伸ばさなきゃ。
「いらっちゃい」
「……帰ってすぐ飲んでるの?」
「なんか神経が昂っちゃって…万理華ちゃんも飲むぅ?」
「……まだ19よ」
神経が昂って……ね。イマイチ真剣味に欠ける子だけど、緊張はしてたのね。
「…ほどほどにしときなさいよ?どーせ明日の打ち上げでも浴びるほど飲むんでしょ?」
「いいの~?ヒック」
「私の奢りよ」
またバイト増やそ。
「紗良は?」
「パチンコ」
「パチ…っ……はぁ、星羅もだけど紗良も大概ね…こんな時間に……」
「アイドルがギャンブルなんてヤバいよね~」
「あんたの影響でしょ、絶対」
まぁ居ないなら都合いいか……
「上がりなよ」
「ここでいいわ」
両隣がヤクザなおかげでこの階、誰も来ないし…
気の重い話題ではあるけど確かめておく必要があるわ。
知ってるのか。そして、知ってるならなんで何も言わないのか。
眠そうに小首を傾げる星羅に深呼吸の後切り込んだ。
「……あんた陽の股間、弄ったってホント?」
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「天鬼さん!好きです……っ、付き合ってくださいっ!!」
天鬼りあ、冬休み目前にしてモテ期到来。
急激に冷え込んで雪でも降るんじゃないかっていうこの日、私は放課後体育館裏に呼び出されてた。
決闘かな?って思って行ってみたらそこに待ち構えてたのは名前も知らない男子生徒。
そしてこれである。
「……」
告白なんて中学以来だ。
ただ、私は知ってる。昨日のライブの後から私は学校内でちょっとした有名人だって事を…
全く面識もない彼が私のそのステータスに引き寄せされて今日、告白してきたのではないかと邪推する。
「ごめんなさい私アイドルなんで…」
自分で言うの恥ずかしい。
「構わない。むしろいい」
「うちの事務所恋愛禁止なんだ」
万理華さんが言ってた。
「障害は二人で乗り越えていこう」
仕方ないな。
「ごめんなさい私ハゲてるから……」
ヅラを取って、ご開帳。瞬間彼の顔が引きつる。この人私のライブは観てないみたいだ。
「ひぃっ!?ひぃあああああああっ!!」
……逃げた。しかも悲鳴を上げながら…
「……って事が今日あったんだぁ」
「がはははははっ!!」
新宿某所。
多忙を極めるアイドル業に追われる私達にとって今日は束の間の休息。初ライブを無事に終えた私達はこの日、打ち明げにやって来てた。
しかも……万理華さんの奢りだ。
じゅんじゅわーー……
「一枚560円もする高級肉が網の上で痛めつけられてる…」
「えっ!?高っ!?スーパーでパックで買えるよ!!」
せいちゃんとはーちゃん、隣合って座る二人が高級肉を前に戦慄。そして私は意味があるのかないのか意味深な座席配置にドキドキ…
この二人はデキてるのか…否か……
……いや、考えるのはもうよそう。
肉から染みでる脂の泡を眺めながら私は首を振る。
デキてようがデキてまいが二人はてぇてぇ…デキてないなら引っ付ければいい。
そうだ。目的を見失ってる。みんながかけがえのない仲間である事が私の目を曇らせてた。
私はこのグループで百合カプを量産する。その為にここに来たんだから……
今日くっ付けるか……
「おめぇら、初ライブお疲れ様」
おや?上座で音頭を取ってるのは誰だろう?
「今日は社長自らお前らを労ってやろうと思って、招待した」
あぁ社長か……
「私の奢りだけどね?」
「万理華…お前が焼肉を奢れるのは私の事務所でアイドルやれてるからだぞ?つまりこの焼肉は?」
「私の奢りよ。社長」
「…………じゃ、初ライブお疲れ様。私観てないけど、乾杯」
「……」「……」「……」「……」「……」「……」「……」
「シカトすんな」
さぁ焼肉だ。
「りあ、何?紗良から聞いたけど告白されたって?」
「万理華さん、大丈夫だよ。向こうから逃げたから…」
「……随分失礼な奴ね(怒)」
何故万理華さんが怒る?
「琴音ちゃん、お肉フーフーしてから食べるんだよ?」
「はーちゃん子供扱いしないで!!」
「ねぇねぇ琴音ちゃん。今日私紗良と一緒にレンタカーで来たんだけど…ウーロンハイってほぼウーロン茶だよね?」
「星羅、人生終わりたいんか?お前が一滴でも飲んだらその瞬間通報するから」
「飲んだ時点では良くね?せめて車に乗ってから通報して……」
「なんで今日車なんかで来たのよ…」
「聞いてよ万理華ちゃん。昨日の夜万理華ちゃんが肝臓破裂するまで飲んでいいって言ってくれたのにさ?紗良が「電車乗りたくない」ってレンタカー借りちゃったんだよぉ」
「がはは、私気づいたんだよね…星羅に禁酒させるなら運転させるのが一番ってさ」
「……せいちゃんの場合酒気帯びしてでも運転しそうだよね」
「りあちゃん私の事そんな目で見てたんだ…ぐびっ」
「「「「「飲んでる!?」」」」」
「錦野さんそれは私のウーロンハイです」
「……星熊ちゃんの酒間違えて飲んじゃった☆」
「確信犯ですよね?」
「今日送って☆」
「私は飲めないんですか?」
「ねぇねぇ聞いてよせいちゃん。昨日僕のお母さんから久しぶりに連絡があったんだ…今、与那国島に居るって」
「なんで?」
初ライブの緊張から解放されたみんなははっちゃけてた。
そんな光景を万理華さんと並んで見守る。楽曲制作とレッスンとでバタバタしっぱなしだったからこんなに緩んだ空気感は久しぶりだ。
「楽しいねぇ万理華さん。でゅふふ」
「……あんたのその笑い方は矯正不可能なのかしら…そういえば、覚えてる?」
「え?なに?」
「……ライブが終わったら話があるって言ったの」
瞬間、パパのステテコの腰紐並に緩んでた意識が急に張り詰める。
万理華さんの熱視線……っ!
「…………ご、ごめんなさい」
「まだ何も言ってないのに振ってんじゃないわよ」
「私万理華さんの事そういう目で見れないんだ……」
「やめて、マジで」
頬っぺつねられた。痛い。
「そんな話じゃないから安心なさい(怒)」
「そんなに怒らなくても…足踏むのやめて」
「あと三時間はキレてるわ」
「長い……」
なんだろう?なんの話だろう?
万理華さんのヒールの痛みをひしひしと感じながら、周囲を伺う様子を見せて耳元に顔を寄せてくる万理華さんの言葉を待った…
そしたら……
「えー、皆さん、星熊からちょっと話があります」
全てをかき消す星熊マネージャーの一声。
「お母さんから連絡来たの、二年ぶりなんだ」
「まじかよ」
「琴音ぇ……私の眼帯、かっこいい?」
「37点かな」
「…………でね?りあ、実は…」
「うんうん」
「聞いてください(怒)」
退けって言って社長を引きずり下ろした星熊さんが上座から私達を見回してまず労いの言葉をかけてくれる。
「皆さん、初ライブお疲れ様でした」
社長より社長っぽい。
「それでですね。こんな場所で野暮な話ではありますが…」
「野暮ってどー言う意味?」
「黙ってください社長、あなたには関係ない話なのでもう帰っていいです」
「まだ始まって10分しか経ってないのに!?」
「皆さんの今後のスケジュールについて発表したいと思います」
こんな場でホントに野暮だった。
「まだ何も決めてないわよ?星熊」
「夏祭さん、お忘れですか?マネージャーは私です。あなたではなく」
「知らなかったわ……」
「…………まず。本当はライブの物販で売りたかったCDですが…」
「あーー!!私のレーベルから出るやつ!!おい!!一体いくら貰えるんだ!!」
「いちいち話の腰を折らないでください錦野さん…えー……なんやかんやありましてCDじゃなくて配信という形で、『神曲』と『私をアイドルにしてください』を出します」
「「「「「「わーい」」」」」」
「え?社長なのに何も聞いてないけど…?」
「で、早速レコーディングしなきゃいけません。明日から」
「「「「「「明日!?」」」」」」
初ライブ終わったと思ったらもう……
「……まぁ、勢いよくデビュー出来た今がチャンスね」
デビューが過密スケジュールになった元凶その一、万理華さんがうんうんって頷く。
「早く金よこせ」
元凶その二、せいちゃんも鼻息荒く収入を待ってるみたいだ。
「……で、ですね。次の仕事なんですが…」
「え?何次の仕事って。社長何も聞いてないけど……」
「この星熊の伝手を使いまして…来年3月1日、毎年なんちゃらホールでやってるムジテレビ主催のアイドルイベント『新春!アイドル春祭』に急遽出場できる事になりました」
「「「「「「えーっ!?」」」」」」
…………それってすごいの?
「もうメジャーデビュー!?」
万理華さんがびっくらこいてるので多分すごいんだろう。
「……ので、錦野さん新曲作ってください」
「えっ!?!?!?」




