第104話 今日から私は……アイドルだって
天鬼りあ、人生初のライブステージから退壇。
ステージから引き上げて楽屋に入るまでみんな無言だった。
私も黙々と自分の爪先だけ見ながら歩いてて…その間、何も考えてなかった。
ただ疲労で重たくなった足を無心で動かしながら呼吸を整えてた。
無心で足を動かしてたらいつの間にか楽屋の床が見えて顔を上げたらみんなが居た。
落ち着いてた鼓動が激しくなり始める。
ライブは終わったのに…動悸は収まらなかった。
「…りあちゃん」
せいちゃんが声をかけてくる。ドキッとした。真剣な顔してたから。
ラスト、ヅラ落としちゃったし…怒られ……
「君……サイコーだな!!」
でも、すぐに破顔したせいちゃんに抱きつかれてそれも杞憂に終わった。
ツルッパゲをもみくちゃにされてたら紗良ちゃんと琴音ちゃんも抱きついてきた。みんな汗かいてるのにいい匂いなのが不思議だなぁ。
「がははははははっ!!りあちゃんはエンターテイナーだな!!全部持ってかれたわ!!」
「紗良ちゃん…ありがとぉ…紗良ちゃんが真っ先にフォローしてくれたから…」
「いやー、あれさ…実は私も考えててさ。最後にヅラぶん投げよって…でも万理華ちゃん怒るかなーって」
「当たり前よ。わざとやったらゲンコツ」
腕を組みながらそう言う万理華さんだけど、口元は笑ってたよ。
「なんか…僕ららしくてよかったね」
はーちゃんも笑った。
「りあちゃん…私が全剃りなんてしたから最後の最後で…」
「琴音ちゃん…」
「ごめんね?」
辛気臭い顔の琴音ちゃんの頬っぺを両手で包んで引っ張る。大福みたいに柔らかくて、信じられないくらい熱かったからびっくりした。
「はーちゃんの言う通りだよ。ラストでハゲるくらいが『FOOLS』らしいって」
「……いいのか。アイドルがそれで……」
確かに。
まぁハゲる前にたくさん可愛いところ見せたしOKですよ!
「リーダー、今日のライブどうでしたか?」
はーちゃんが万理華さんに問いかけた。
そうだね。やっぱりリーダーに締めてもらわないとね。
万理華さんはみんなを見回して…
「…まぁトラブルとか色々あったけど……大成功っ!!」
「じゃないですよこのおバカ」
あっ、星熊さんだ。
「おーい、今リーダーが締めてんだけどぉ?」
せいちゃんのブーイングも無視してマネージャーが私をじろりと睨むけど…
「事故だから、あれは。分かるわよね?星熊」
「元はと言えば全剃りは私のせいだし…」
「トラブルを笑いに昇華した私のアドリブ力を誉めなさい。いや、誉めろ」
「まぁハゲてるのはどのみちバレてますし…ね?」
「タバコ吸いてぇ」
みんな……
星熊さんも色々言いたげだけど、一旦吞み込んだ。小言が出なかったって事は傍から見てもライブは成功だったって事だと思う。
よかった。
「…次のグループが入ってきます。急いで撤収しますよ」
切り替えた星熊さんが指示を出す。
それを聞いた途端、私達の全身を疲労感が襲う。みんなダルそうにその場にへたり込む。
今から着替えて車まで行くの…ダル。
満足感のある疲労感に包まれる中…
「……皆さん、今日までお疲れさまでした。そして…今日からよろしくお願いします」
星熊さんのらしくない言葉に耳を傾けて、思う。
今日から私は……アイドルだって。
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びっくらこいた……
楽屋に向かう前…ステージから引き上げていく『FOOLS』達を見守りながら私は手に持ってたコーラを床にぶちまけてました。
……まさかあのタイミングでヅラが落ちるなんて…
まぁでも……今だ余韻に浸ってる観客達の姿を見て、とりあえず胸を撫で下ろします。
デビューライブは成功したと思って良さそうでした。
ただ今後……『FOOLS』がファンにどういう印象を抱かれるのか不安で仕方ありません。
どうしましょう。ハゲのイメージ着いて「出家系アイドル」とか言われだしたら……
折角ノーマルなアイドルグループがうちの事務所からデビューしたと思ったのに……
「星熊さん」
呆然としつつ立ち尽くしてたら後ろから声をかけられました。
振り向くとベージュのジャケットを着た、ライブハウスには不釣り合いな格好のおじさんが立ってます。
はて……?誰でしょうか?
「お久しぶりです。私です。田所です」
「……??……ああ、その節はどうも……」
「覚えておられませんね?」
「とんでもない……たしか…………海老名サービスエリアで……ガソリンが切れて途方に暮れてた私を助けて頂いた……」
「違います。ムジテレビの田所です」
……ああ。
「お世話になっております」
「社長はお元気ですか?」
「夜逃げしました」
「相変わらずのようだ」
全く覚えのないおじさんがにこやかに言いながらまだ熱気に浮かれてる会場を眺めてます。
「あれが色々話題の『FOOLS』ですか。楽しませてもらいました」
「どうも……」
「なんせあの『TRY AGAIN』イチオシのユニットですから……私共も注目してたんですよ」
「そうですか」
……で?何用でしょうか?
訝しみながらおじさんを見つめてたら視線の意図を汲んだおじさんは「失礼」って本題を切り出します。
「お忙しいでしょう。手短に…今日はご挨拶に来たわけではありません」
「お歳暮ですか?」
「それも違います。『FOOLS』の実力、確かに拝見しました。いや素晴らしい。ところで、来年の3月などは…スケジュールは空いてますか?」
「デートですか?」
「違います。あなたではなく『FOOLS』です」
……まさか。仕事か?
「空いてます。もう超暇なんでうち」
「それは良かった……いや失礼…ではどうでしょう?来年3月の『新春!アイドル春祭』への『FOOLS』の出場など……」
……え?
あの「春」が二回も付いてる『新春!アイドル春祭』に出演できるんですか?
「…………ギャラいくらですか?」




