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第十三話 大量破壊兵器を確保せよ その①


 一〇月二三日。大陸派遣総軍司令官の北上は初月都督の下を訪れていた。二日間かけて調査した大量破壊兵器に関する報告を行うためだ。

 初月都督は目を合わせるといなやすぐに口を開いて問いかけてくる。


「大量破壊兵器について詳細は掴みましたか?」


 問いかける口調は冷静さが少し欠けており、気になって眠れなかったのか初月都督の目の下にはクマができていた。事が事なので当然のことなのかもしれない。


「内部に潜入させた工作員と内通者から得た情報によると、一揆勢の幹部は『神の炎』と『穢神の穢気』を保有しているから日本に負けることないと兵に鼓舞させているようです。それらは拠点の地下にある武器庫に保管されているようです」

 

 穢神の穢気……聞いたことのある単語ですねと初月都督は漏らす。同意するために北上総軍司令官は軽く頷いた。それは化学兵器である。統一戦のとき、中央部にて日本と戦ったイッシ教がそれを用いて自衛隊に被害を与えた事例がある。あのときは硫黄ガスと亜硫酸ガスであった。今回は同じであると限らない。マスタードガスやサリンガスを保有していないと否定することはできなかった。


「神の炎は何でしょうか?」

「一発で広範囲を焦土にして草木が生えない穢地にする破壊力を持つと説明している時点で一つしかありません」

「化学兵器、核兵器両方ですか……よりにもよって」


 初月都督は苦りきった顔をして頭を抱えた。


「しかし、これらの管理は一揆勢には手に余ると思うのですが?」


 初月都督は疑問を述べる。

 化学兵器は敵に対してのみ絶大な威力を発揮する訳ではない。使い方や管理を間違えると味方に多大な被害を与える劇物であった。安全に管理する知識を現代文明を知らない西部のウォルク人、しかもこの騒動が起こる前はただの百姓であった一揆勢にあるとは初月都督は思えないのだろう。

 その答えを北上総軍司令官は持っていた。


「実は……どうやらそれらの管理は北から来た連中が行っているようです。普段はマスクを被っているため素顔は全く分からないようですが」

「我々ほどではないが相当の技術は持っているということですか……連中が作ったと思われる兵器を分かることですが、まさかこんな兵器を持っているとは!!」

 

 今は亡き北朝鮮みたいな国のようだ。初月都督はそんなことを呟いて、とんでもないことになったなという表情を浮かべる。

 実を言うと、都督府そして日本は北から来た連中についての情報を持っていない。国交がないのは当然のことで、接触は全然なかったのだ。ただ、押収された兵器から見て彼らが所属する国家は近代化と工業化を達成していることは確実であった。


「一体何の目的で一揆勢には過ぎたおもちゃを与えたのですかね?」

「意図は不明です。あくまでも私見ですが、この騒動の長期化を図っているのかもしれません。現に拠点に対する総攻撃は延期されました」

「延期はあくまでも手段でしょう。それを行って何の目的を果たしたいんですかね」

「それは判断材料が乏しいので判断するのは困難です」


 真に厄介だと初月都督は言う。北上総軍司令官も同意であった。


「この事態、自衛隊はどう対応するつもりなのですか?」

「ミッドイーナのときの同様に、特殊部隊を潜入させて大量破壊兵器を確保か破壊させます。この作戦には特殊作戦団と特殊作戦突撃団を導入する予定です」

「しかし、今回は相当困難なのでは? 北から来た連中も何も備えをしているとは思えません」

 潜入できる道が存在せずおそらく警備も厳重だ。

「確かに戦闘員がいる可能性はあります。ですが時間をかける程に早期決着が困難になります。最悪、拠点周辺が汚染されても構わないのならば空爆で大量破壊兵器ごと拠点を吹き飛ばしますが」


 初月都督は考え込んだ。空爆で片づけることは容易い。だがそれにより北から来た連中の証拠が爆発によって粉々になるのは惜しかった。また非戦闘員ごと吹き飛ばすのは本国政府の都督府に対する印象を悪くし国民から反感を買われるのは避けたかった。


「それしかないようですね。分かりました、この作戦の実行を許可します」

「了解しました」


 初月都督の決断に北上総軍司令官は敬礼をする。


「必ず成功させて下さい。そして、なるべく特殊作戦団より先に確保して欲しいです」

「……はい」


 困難な状況である故か、初月都督は念を押すのを怠らない。

 流石にいかなる状況でも動じない太い胆を持ったこの人も、上手く行かず変化していっている状況に苛立ちと焦燥を抱いているようだ。本国政府は可能な限りこの騒ぎに介入することで事情により今まで都督府の独占状態であったウォルク地方での影響力を高めようとしている。

 まあ自分は自衛官としての役割を果たすだけだ。北上総軍司令官は自分にそう言い聞かせた。



 大陸派遣総軍司令部からの指示を受け待機していた特殊作戦突撃団が行動を開始した。

 この作戦には特殊作戦突撃団二個小隊が投入されており、目的はイッシ教一揆勢が立て籠もっているクラア城の地下の武器庫あると思われる大量破壊兵器を確保、それが不可能ならば破壊することであった。

 ミッドイーナのときのように透明魔法と防音魔法が掛けられているUH-60JとUH-1Jによって内部に潜入し、隊員たちにも同じ魔法を掛けることに敵をやり過ごすことを最優先して目標である地下を目指すことであった。

 それらの魔法に対する対策が施されたことを教訓として、道中での交戦に備えて多数の武器を戦場に持ち込む予定であった。


「全員、よく聞け。大量破壊兵器を高い確実で保有していると思われるイッシ教一揆勢が根拠地とし今現在立て籠もるクラア城についてのもう一度確認を行うぞ。あの城は少し前にミッドイーナ辺境伯領によって廃城となっていたが、イッシ教一揆勢によって再建され城としての機能が戻っている。周囲は平原で高い物見櫓を多数設置していて攻める側には困難を守る側には利点を与えている。警備は当然のごとく厳重で敵は殉教の意志を固めているため士気が高く徹底的に抵抗してくるぞ」

「だが、大量破壊兵器さえ何とかすれば敵には手札がなくなる。あとは好きに料理することができる。最後の山場は全員の奮闘を期待する」

「さて……降下だ、降下だ!!」


 透明魔法を掛けられて特殊作戦突撃団隊員たちは乗っていたUH-60Jから次々とラペリング降下していった。



 特殊作戦突撃団がクラア城に潜入を開始した頃。城西側の城壁近くに一人の兵士が巡回するために歩き回っていた。


「馬鹿に静かだな……」


 一〇分前に歩いたときは人の喋り声があったのに怪訝そうな表情を浮かべて気味の悪さを覚えると、彼の目の前に誰かが倒れていた。

 慌てて駆け寄り、触ってみると冷たくなっていた。誰の仕業か? その正体をすぐに悟った。敵に決まっている。


「死んでいる。て、て……てき、むぐぅ」

「……」


 彼は味方に敵襲を告げることはできなかった。

 後ろにいた何者かに口元を手によって押さえられたこの哀れな兵士はナイフが首に刺さり数秒後に絶命した。


「……」


 抜け殻となった彼を、顔をマスクで隠しており表情を窺うことができない一人の人間が無言で眺めていた。服装からして自衛官だ。醸し出す雰囲気と動作からして自衛隊が保有する特殊部隊のなかで最もの精鋭と呼ばれる特殊作戦団だ。

 異世界各地に派遣され、数々の戦果を挙げながら場数を踏んだこの部隊は日本に敵対関係にあるものたちから“暗殺部隊”、“死の部隊”と畏れられている彼らがこの城で作戦行動を取っていた。


「ここにはもう敵はいない。行くぞ」

「了解……」


 音がなく静かに特殊作戦団隊員の姿が夜の闇に溶け込んでいった。残されたのは一揆勢の死体のみ。そこには“死”しか存在しなかった。



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