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第十二話 警告、不穏な報せ


 一〇月二一日。ウォルク地方西部上空には青色の鉄の鳥が飛翔していた。その姿は俊敏で自由自在に動き回って獲物を仕留める(ファルコン)を思わせる。この鉄の鳥は日本のもので爆弾やミサイルを抱え地上や海上にいる敵を確実に仕留めるバイパーゼロという愛称で呼ばれている航空自衛隊の主力戦闘機だ。

 F-35Jが本格的に配備される前に転移してしまい。そんななかで航空自衛隊も戦力増強が施されたものの、F-35Jを配備したくとも量産する土台はなくしかもこの異世界ではこの第五世代戦闘機の戦闘力は過剰であり、前の世界では性能が急速に陳腐化していたF-15JとF-2の再生産が行われたのだ。

 ウォルク地方をはじめとして異世界でのサバイバル戦争で活躍し日本という国家の生存に貢献してきた。その貢献は今も行われている。

 長い苦労の末、F-35Jの量産の目途はついたものの予算の都合で配備の速度はゆっくりとしたものとなると思われ、F-2はしばらくの間は現役だと思われている。


「ノース3からノース・アイ。編隊はあと少しで目標の空域に到達する。任務内容に変更はないか?」

『こちらノース・アイ。位置を確認した。任務の内容に一切の変更はない。到達次第、ただちに任務を実行せよ』

「了解」


 西部上空に進出したE-2C早期警戒機からの指令に、裾野一等空尉は落ち着いた口調で返答した。

 樺太北部にある豊水市(元オハ)に近くに作られた航空自衛隊の基地――豊水基地から離陸した第10航空団所属のF-2改修二型一二機はイビナ教一揆勢が支配している領域に派遣された。

 本来ならば、ウォルク地方を含め大陸上空は大陸各地にある基地に配備されている第11航空団と対地支援団の管轄で彼らがここに派遣されるのが筋である。本国に配備されている航空部隊が大陸上空で任務を行うのは転移当初の頃を除いてなかったことで異例のことだ。

 彼らに与えられた任務はイビナ教一揆勢に日本の力を見せて“警告”をすることであった。そのために各機は二機一隊の構成で支配区域の各地に分散していた。


(久々の実戦だ……)


 タンカー船を襲撃していたクラーケンに爆撃を敢行したのが初陣であった裾野一尉は二年ぶりの実戦任務に武者震いをした。レーダーディスプレイを覗いてみると自機や僚機以外には何もいない空であった。僚機を操縦しているパイロットはこの任務が初陣である。ある程度、実戦の空気を覚えるいい機会であった。自分の初陣はとてもハードなものであった裾野一尉は、お前は楽そうで良かったな、実に羨ましいなと思ってしまう。


「こちらノース3からノース4へ、あともう少しで任務だ、問題はないか?」

『こちらノース3、問題はありません。むしろ初めて任務を行えるのですから……興奮して武者震いしています』

「……頼もしいことだ」


 僚機のパイロットと会話している間に、編隊は目標の空域に到達した。


「降下せよ!!」


 編隊各機と言ってもたったの二機であるが、編隊長機を最初に続々と降下していく。スロットル・レバーや操縦桿、フット・ペダルなどを操作して機体の姿勢を制御しみるみるうちに高度が下がっていった。

 市街地を編隊は通過する。機体から発せられる轟音がまるで咆哮の如く周囲に拡散する。今の時刻は九時四四分。いくら西部のウォルク人が現代社会の恩恵を受けない暮らしを送っていても既に皆は起きている筈だ。全員、機体とその騒音によって二ホンが来たことを確実に勘付いただろう。

 イビナ教一揆勢は、日本所属だと言うことを示す日の丸が付いた鉄の鳥を見てどう思っているだろうか? そんな好奇心が裾野一尉の脳裏にフッと湧いた。連中にとってF-2は初めて遭遇する飛行機だろう。今頃どんな顔をしているのか興味があったが高速で動き回るこの機体のコックピットから確認することはできなかった。まあ任務に関係がないのでどうでもいいことである。すぐに心の片隅に追いやって操縦に専念する。


「……」


 親指を兵装の投下スイッチの上に乗せる。投下ポイントはあともう少しだ。

 時間で換算すると……あと一〇秒。

 九――。

 八――。

 七――。

 六――。

 五――。

 四――。

 三――。

 二――。

 一――。

ゼロ!!

迷わず投下スイッチを軽く押す。すると編隊長機の主翼下に搭載してあったMk.82通常爆弾一二発の固定が解除され重力に引き寄せられる。僚機も同じことを行っていた。

爆弾を降下し終えると裾野一尉は即座に機体を上昇させる。そして内心で思う。


(全く……脅すためとは言え爆弾をしこたま使用するとは……いくら本国では余剰気味になったとは言え一度|モンスタースタンピード《MSP》が起これば足りなくなるんだぞ)


「さて、どんな選択をするのやら」


 機体を水平にさせ、投下ポイントに視線を向けると計二四の爆発という紅い花が見事に咲き乱れていた。圧倒されそうな光景だ。

 裾野一尉はボソッと呟く。

地上では確実に振動と轟音が発生しイビナ教一揆勢とそこにいる者たちの心を揺さぶっているであろう。ウォルク地方の支配者、鉄の鳥など未知の道具を保有し絶大な力を持っていることなど位しか日本のことをあまり知らなかった連中にとって、日本と敵対するとどうなるかいい警告になる。

 その警告がどんな結果を引き起こすかは、裾野一尉には分からなかった。



 日本が行った“警告”は案の定、イビナ教一揆勢を強烈に揺さぶった。どこもかしこも天と地がひっくり返ったように混乱してしまった。


「参ったな。どこも混乱して一致した結論がすぐには出ない。一部は独断で二ホンに服従することを決めたようだ。早く決めないと時間切れで二ホンに攻撃を受けることなる」

「教えに従えば、徹底的に抵抗する以外あり得ませんが。二ホンの力は圧倒的で、本当の敵であった領主勢は既に二ホンによって潰されています……」


 イビナ教の信者は、都市周辺にあるスラムに居住する貧民、不便なところで部落を作ってひっそりと住んでいる不可触賎民、皮革加工など穢れたもので商売している商人など長年にわたって差別や迫害を受けていた人たちを中心としていた。

 どんな宗教かと言うと日本人から同じウォルク人からも頭がおかしいと呼ばれ、常に時の権力と権威に逆らい続け信仰を守り続けてきた。また相次ぐ戦乱のなかで信仰のよりどころである教会を守ってきた経緯から自衛意識は強くかなりの武闘派であった。

そのためか権力者側からは反権力を掲げる危険な宗教として常に弾圧されていた。日本の統治下に入ってからは信仰の自由が保障され弾圧されることはなくなったが、不信が根強いのか一部は今になっても頑迷に反権力を掲げており監視対象となっており時折事件を起こし逮捕者を出している。


「うむ」

「どうしますか?」

「申し出に従うしかないな」

「何でこうなったんだろう? 俺たちは領主に対して一揆を起こしただけで二ホンに喧嘩を売った訳ではなかったのに……」

「連中にとっては違ったのだろうな」

「どういうことだ?」

「一揆を起こしたこと自体が奴らにとって放置することができない出来事だったんだ。けっこう前に会った中央から来た旅商人から二ホンは物事を武力で解決するのを好んでいない………いや嫌っていると聞いた。やっぱり一揆を起こす前に二ホンのことを信用して訴えておくべきだった」

「今さらだよ」

「ああ……全くだ」


 流石の武闘派宗教も日本の圧倒的な逆らえないようだ。時を経るごとに分裂していき日本に降っていった。



「どうやら、イビナ教一揆勢は脅しによって自壊しているようですね」

「脅しではなく警告ですよ……」


 初月都督の呟きに、冬月補佐官が注意する。

 本国から離陸した航空部隊による拠点の近くでの爆撃、『一週間以内のうちに降伏せよ。そうすれば一揆に加担した罪は問わない。降伏しなければ拠点を爆撃してきれいさっぱり元通りにして地の果てまで追いかける』という内容の申し出をビラにしてそれを航空機から撒いてイビナ教一揆勢に伝えたことに、警告という名の脅しと変わりなかった。

 政治とヤグザって変わらないなとそんな感想を初月都督は抱く。


「そうでしたね。徹底抗戦派が出るとしても、もはやイビナ教一揆勢は脅威ではありませんね」


 中央部のイビナ教勢力の反発に散々悩まされてきた経験から戦わずして無力化されることは嬉しいことであった。大陸での影響力を再び示すために本土にいる自衛隊部隊を投入することを決定した本国政府様様である。この騒ぎの後をめぐって二日前に内閣総理大臣と電話会談する羽目となってしまい頭痛の種となっているのだがこの点に関しては感謝するべきだろうと初月都督は考えていた。


「あとは一揆勢残党だけですね。様子は?」

「軍使による降伏の勧告を拒否し、抗戦の意志を崩しません」

「軍使は無事でしたか?」

「はい、すんなりと返されたようです」

「使者を殺せばどうなるか……西部のウォルク人も分かっていたようですね。まああれだけ痛めつけられても戦おうとするのですから意思を曲げることはないでしょうね」

「その通りです」


 絞り出すように初月都督は結論を述べた。


「これは殲滅やむなしですね」


 しばらくして、部屋の外に出ていた冬月補佐官が戻ってきた。険しい顔立ちをしており初月都督に嫌な予感を抱かせた。


「都督、北上総軍司令官が面会を求めています。重要な報せがあると」

「何でしょうね……通しなさい」

「都督閣下、大変なことになりました」


 慌てた口調で鼻息を荒くする北上総軍司令に、まだ厄介事でも飛んできたなと初月都督は思いながら窘める。


「どうしたのですか? 慌ただしい。内容を説明して下さい」

「一揆勢残党が立て籠もっている拠点内に大量破壊兵器を持ち込んでいるという情報が複数入りました」


 あまりにもとんでもない報せに初月都督は言葉が出なかった。やっと出せるようになったのは二、三分後であった。


「……これは面倒なことになりました。もし核兵器で自爆したりしたら」

「はい、とてつもない損害が出ることになります。今現在、詳細の情報を掴むため総力を挙げております」




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