第十一話 潜入 その②
日進二尉が思いを馳せている頃、チームβは城の守備隊と交戦していた。城に繋がる下水道から侵入し、領主が引きこもっていると思われる礼拝堂に向かっていた途中で発見されて今に至る。
銃声が響く。この音は狭い空間で反響していき周囲に拡散していった。音源は、特殊部隊仕様のAK-74とPKS汎用機関銃、ボルトアクション方式のライフル銃と水冷式の重機関銃によるものだ。
無数の火箭が混じり合う。敵から向けられた殺意にチームβの隊員は壁を盾にしてしのいでいた。
「あと一歩のところで……足止めか」
チームβリーダーの千歳二尉は軽く舌打ちをした。透明魔法を使って順調に進んでいたが罠に引っかかり魔法が強制的に解除され、姿が露呈されたことにより敵に捕捉され攻撃を受けたのだ。
「まさか敵が透明魔法の対策を打っているとは思いもしませんでした。しかしあの陣地は厄介ですね……」
目の前に作られた敵の防御陣地は、机など物品と土嚢を積んで作られた人の背丈ほどある即席のバリケードを盾にしながら水冷式重機関銃を撃ちまくって弾幕を形成している。その激しさは正面から突っ込めば瞬時に蜂の巣になると思える位で、チームβメンバーが盾にしている壁の端をボロボロにしていた。
「不味いぞ。このままだとターゲットに逃げられてしまうぞ」
千歳二尉は焦燥ににじんだ声で呟く。副隊長の千代田三尉も同意する。
「ですね、早くこの陣地を突破しなければ……黒本三曹、国後三曹、あの陣地に向けて手榴弾を投げ込め!!」
「了解!!」
部下の黒本三曹と国後三曹は危険を顧みず顔を出して敵の防衛陣地に向けてRGD-5手榴弾を投げて込む。
「それぇ」
「いけ!!」
二つの手榴弾は、一つは陣地内でもう一つは手前に落ちた。安全ピンを外し信管は点火していためたすぐに紅い花が咲いた。二つの花は敵兵を殺傷し機関銃を破壊する。それにより形成されていた弾幕が消えてなくなる。
「よし、上手く行ったぞ」
「突撃!!」
できた隙を決して見逃さない。リーダーが指示を下すと、陣地めがけて突撃――。
「死ね」
「くだはれ」
「うおおおぉ」
喊声と怒声を響かせながら敵に襲いかかる。
格闘術で標的とした敵兵を拘束しそのまま首をへし折る――銃器に装着されている銃剣で突き刺し――ダガーナイフで喉笛を切り裂く――トマホークで兜ごと頭蓋骨を叩き割りか片手を切り落とす。様々な方法で敵を次々と物理的に無力化――殺害していった。
特にトマホークの動きは目ざましく。ナイフよりも殺傷力が高く日本刀とは違って素人でも扱いやすくしかも扱いやすい。相手を切り――その刃で突き、切り裂き、叩き割り――柄の鋭い先端で深く差し、敵からの攻撃を防御――それ自体を相手に投げて殺傷する。城内での戦闘を主な任務としているため、CQB《近接戦闘》とCQCを重視している特殊作戦突撃団の隊員にとってはナイフに次ぐ近接戦の相棒だ。
圧倒的な強さを敵に示す。近接戦の技術を骨の髄まで刻み付けている特殊作戦突撃団隊員の実力は戦士階級の騎士に匹敵していた。それに実戦経験も加わるのだから敵に負ける筈はない。
鬼神の如き動きに、敵の一部は逃げ始めた。
「逃げる奴に構うな!! 目指すはターゲットである領主だ。奴がいると思われる礼拝堂に一目散に向かうぞ!!」
時間がもうないかもしれない。敵に構っている暇はなかった。全速で廊下を駆け抜け、立ちはだかる敵は素早く排除していった。
「ここが礼拝堂です」
突破してから五分が経っただろうか。目標が目の前にあった。
「開きません。内側から鍵を掛けています」
「おそらくそれだけではなく障害物も置いてあるな。爆破してこじ開けることにしよう」
C-4爆薬を使用し爆破を実行した。鍵や障害物など無意味だと言わんばかりに派手な爆発音を轟かせながら障害が吹き飛ばされる。
「突入!!」
沸き立った煙が晴れ始めるといなや、千歳二尉は突撃の指示を下した。
◇
チームβが礼拝堂内部に突入した頃、オーウェンは外に繋がる大門の開け閉めを行う場を訪ねていた。そこを守っていた兵士の一人が彼に声を掛けた。
「オーウェン指揮官!!」
「驚いたな。こんななかで自暴自棄とならずに仕事を果たしているとは……ご苦労様」
オーウェンは彼ににこやかに話しかける。
「いえ、くそ真面目に仕事を果たすしか取り柄がありませんので。何かここに用ですか?」
「ああ、ちょっとミッドイーナ辺境伯領の店じまいを行うためにね」
「……何を言っているんですか?」
意味が分からないという表情を浮かべている兵士。
彼を見ながらオーウェンは無表情となって機械的な声で指示を出す。
「やれ!!」
入ってきた兵士たちがなかにいた人々を拘束し、門を開くための準備を行い始める。
「何をやっているんですか? こんなときに門を開いたら敵が入ってきます」
兵士は静止しようとするが、オーウェンで剣を突きつけられる。
「鈍いな君は。そのためにやっているのではないか?」
呆れた声に彼は全てを理解した。
「内通していたのですか?」
「答える義理はない。死にたくなければ従うんだな」
「くっ」
皮肉げに呟くオーウェンによって首元に剣を突きつけられてしまえば何もできない。何かをすれば首をはねられてしまう。指揮官は本気だ。目つきから簡単に分かる。ただ無意味に死んでいくことは嫌だった。
固く閉じられていた門が徐々に開いていく。
「さて……終わりの始まりだ」
オーウェンは独り言を漏らす。
自衛隊が門に迫っていた。
◇
「そうか……ミッドイーナが落ちましたか」
冬月補佐官から報告を受けた初月都督は喜色を浮かべた。気がかりであったものが成功裏で終わったことにホッと安堵するのと同時に良かったと思っているようだ。
「大陸派遣総軍からの報告によると、内通者の手引きにより開いた大門から第1現地人師団が内部に侵攻。内通者の工作と潜入部隊によって戦闘によって抵抗らしい抵抗はなく市街地の制圧は完了したようです。続いて城内の攻略が行われ、こちらも内部の侵入を許したことで城にて抵抗していた敵の士気は完全に崩壊してしまい次々と投降したようです」
「思ったより呆気なかったですね。潜入部隊は標的を確保したのですか?」
「はい。抵抗はありましたが……第一、第二標的を無事に確保しました」
初月都督は少しばかり驚いた顔をした。
「意外ですね。第一標的はとにかく、第二標的までも確保するとは。とうに自害していると思いました」
「報告によると、自害しようとしていたようです。結局実行することはできずに確保されたようです。一切抵抗せずに怯えた様子であったようです」
「殺しに来たと思ったのですかね? 第一声に神と言わなければ何もできない男は神がいないと何もすることができないと一例ですね……」
確保された領主の情けない姿を想像してしまい初月都督は吹き出しそうになる。こんな情けない人間で周りから嘲笑末路を辿らないように気をつけなければ……。
同感とばかりに冬月補佐官も満面の笑みを浮かべる。その顔にある種の怖さがあった。
「全くです。あの愚か者が確保されミッドイーナが陥落したことで、残す敵は廃城で立て籠もるミッドイーナを包囲していた一揆勢残党と未だ勢力を維持しているイビナ教一揆勢の二つです」
「取りあえず終わりが見えてきたな?」
「はい。まだ油断はできません。一揆勢と領主勢に武器を売った連中がどんな手を打ってくるのか未知数です」
「ふむ」
気を引き締めるように言う冬月補佐官に、初月都督は頷いた。
ドアをノックする音が聞こえてきた。入室を許可すると冬月補佐官の部下が入ってきて彼女に耳打ちをした。みるみるうちに顔が険しくなっていった。
嫌な予感を初月都督は覚えた。
「都督、本国から電話が入ってきました……」
「何、誰だ?」
冬月補佐官が声帯を震わせて出た言葉に、初月都督は渋い顔をした。
「厄介事が海を渡ってやって来たぞ……」
やれやれと頭を左右に振って傍にある電話の受話器を手に取った。
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