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第59話 愉悦の思惑

 突如唯に襲い掛かる三人の刺客。

 だが、リーナの反撃によりその一人は軽々と倒されてしまい、残りの刺客は二人となっていた。

 リーナが発した力の影響で周囲にも被害が及んでおり、空が『CLT』を発動していなければ近隣住民も巻き込んでいただろう。

 家のリビングにいた甲斐斗は徐に立ち上がると、音が聞こえてきた方向を見つめた。

 すると空は状況がイマイチ掴めず甲斐斗に声をかけはじめる。

「か、甲斐斗さん? いったいこの町で何が起きているんですか……?」

「ハレスオズモブの残党がこの世界にきて唯を襲ったんだろう」

 甲斐斗の台詞に空と美癒は息を呑むと、空は慌てた様子で声を荒げた。

「という事は先程の衝撃は刺客の攻撃!? 早く唯さんの所に行かなくては!」

 直ぐにリビングから出て行こうとした空だったが、扉の前に立っている甲斐斗は落ち着いた非常を浮かべていた。

 甲斐斗だって心配なはず、どうして急がないのか空と美癒は不安がっていたが、甲斐斗は冷静に喋り始める。

「いや、大丈夫、そう焦るな。さっきの衝撃も唯を守る為にリーナが力を発揮しただけだろ」

「えっ……?」

「見に行くか、リーナの力を」



 所々地面に亀裂が走り建物が崩壊する町の中で、堂々と立ちはだかるメイド『リーナ』。

 リーナの言葉に二人の刺客は警戒したまま睨んでいると、リーナは冷たい視線を刺客に向けながら左手に持つ銃を一人の刺客に向けた。

 攻撃が来る、一人の刺客は咄嗟に銃弾の斜線上から逃れようと右に大きくステップをしたが、既に自分の周りを囲う兵器『フェアリー』がいる事に気付いていなかった。

 リーナは躊躇い無く引き金を引くと、左手に持っていた銃口から紫色のレーザーのような魔法が放たれ、同時に刺客を囲う無数のフェアリーからも同様の魔法が放たれた。

 全方向からの同時に攻撃の回避は不可能であり、全弾刺客に命中すると爆煙が刺客を飲み込んだ。

 もう残る刺客は一人しか残っていない、リーナからの攻撃を回避しようと刺客は警戒するが、視線を前方に戻した瞬間、既に目の前には紫色に輝く光の刃を構えたリーナが立っていた。

 躊躇も無く刃が刺客の胸を貫くと、リーナは両手に光り輝く魔法陣を召喚してみせる。

 リーナから一切の言葉は無い、両手の魔法陣から紫色の発行する球体を作り出すと、全身を撃たれた刺客、そして今まさに胸を貫かれた刺客へと球体を放った。

 再び辺りは光に包まれ、轟音と爆風が周囲を襲う。

 唯もまた爆風に耐えるように目元を腕で隠しながら堪え、爆風が止んだ後にその腕を下ろし目蓋を開けてみれば、そこには最早『町』と呼べる光景は広がっていなかった。

 見えるのは瓦礫と炎のみ、唯は唖然としたままその光景を見つめていると、全ての刺客を消し終えたリーナが徐に振り返り唯のもとへと近づいていく。

「お怪我はありませんか?」

 今まさに町を破壊し三人の刺客の命を奪ったにも関わらずリーナは平然とした表情でそう言うと、唯は小さく頷き自分の無事を伝えた。

「え、ええ。私は大丈夫……リーナ、貴方は……?」

 リーナは唯の目の前にまで来ると忠誠を誓うように跪き頭を深々と避けながら喋り始める。

「私は大丈夫です、心配して頂きありがとうございます」

 そう言ってリーナは立ち上がると、真っ直ぐ唯の瞳を見つめはじめた。

「お久しぶりです、唯様。再会出来て誠に光栄です」

「リーナ……」

 リーナはそれだけ言うとメイド服のポケットから紫色の紐を取り出し慣れた手付きで長髪を束ねてていくと、普段の髪型へと戻し再び口を開いた。

「リーナは唯を守る為に来た、だからこれからは……リーナが唯を守るからね」

 リーナの意思は揺ぎ無く固い、その瞳から感じられる力強さに唯は心配そうな表情を浮かべていると、騒ぎに駆けつけた空と美癒が愕然とした表情で辺りを見渡していた。

 その二人の後ろには甲斐斗が腕を組みながら立っており、崩壊した町には目もくれずリーナと唯の二人を見つめている。

「こ、これはッ……全てリーナさんの力だと言うのですか……?」

 空はそう言って荒れ果てた町をただただ見回していたが、美癒は直ぐにリーナの元に駆けつけると大きく頭を下げた。

「リーナさん! お母さんを守ってくれてありがとうございます!」

 刺客を追い払い母を守ってくれたのだと思った美癒はリーナにお礼を言うと、リーナは笑みを浮かべて頭を下げていた美癒をの体を優しく起こしていく。

「いいのいいの、これがリーナの役目だもんっ! どんな敵がきたってリーナにかかればちょちょいのちょいよ!」

 先程まで敬語口調だったリーナが普段の状態に戻っており、心配してくれた美癒を思って自分の力強さをアピールしていると、空が困惑した表情のままリーナに歩み寄っていく。

「リーナさん、貴方が一体何者なのか教えて頂けませんか?」

 並大抵の魔法使いではない事ぐらいこの光景を見れば分かる、家にいた時確かに感じた魔力の力があの『アディン』にも及ぶ程のものでもあったのだから。

「リーナは『第6MG』だよ」 

 すると、空に正体を聞かれたリーナは何の躊躇いも無くそう告げると、その言葉に空は空いた口が塞がらなかった。

 何故なら冗談とも思えてしまう程軽い感じに言われたその『MG』という言葉にどれだけの意味が有るのかを空は知っていたからだった。



『限定領域』の解除後、唯とリーナは再び買い物へ、美癒と空、そして甲斐斗が自宅のリビングに戻ってくると、未だに信じられない表情を浮かべた空が甲斐斗に尋ねてみた。

「甲斐斗さん、リーナさんの言っていた事。冗談ではないんですよね……?」

「ああ、あいつは間違いなく『MG』だ。その証拠はお前の目で直に見たから分かるだろ」

 そう言われた空は顎に手を当て深く頷いていると、美癒が不思議そうな表情を浮かべてある事を空に聞いてみた。

「空君、リーナさんが『ますたーがーでぃあん』だって事、そんなに驚く事なの……?」

 美癒にはイマイチ状況が掴めず『MG』について聞いてみると、空は自分が知っている限りの情報を話し始める。

「『MGマスターガーディアン』、その者は様々な世界を巡り『主』となる人を見つけると、その主を守る守護神となり、主の為ならば『いかなる事』も実行する者達です。MGの正式な数は不明、何故他世界を飛び回り『主』となる者を探すのかも不明。謎の多い人達なのですが、その絶大な力は守護神と呼ぶに相応しいものであり、単体で一つの世界、文明を滅ぼせる程強力だと言われています」

「リーナさんってすごいんだぁ~」

 説明を聞いた美癒の暢気な感想に空は少し呆気にとられると、自分の顎に手を当て顔をしかめてしまう。

「まさか『MG』に会えるなんて……色々と気になる事はありますが、どうしてリーナさんの主が唯さんなのでしょうか……」

『MG』は謎が多い為、どうやって唯とリーナが知り合ったのか空は気になっていると、リビングのソファの上で寝転がっていた甲斐斗は口を開いた。

「やめとけ、あんまり人の過去を詮索するもんじゃねーぞ」

「すみません、それもそうですね」

 甲斐斗に注意され空はこれ以上唯とリーナの関係について考えるの止めると、今度は甲斐斗とリーナとの関係を考え始める。

 りーナが来てから甲斐斗がどうも落ち着いていない理由、それが今回漸く明らかになった。

「甲斐斗さんがリーナさんを警戒していた理由がよく分かりました、今回は僕が『CLT』を発動できたので町の被害はありませんでしたからね」

「……まあな、あいつは唯を守る為なら容赦なく攻撃するだろうしヒヤヒヤしてたんだ。お前がいて助かったよ、ありがとな」

「いえ、お役に立てて良かったです」

 甲斐斗とリーナ、特別仲が悪い訳でも無い事がわかり安心した空はそう言うと不安が取れて自然と肩の力が抜けていくのであった。



 それから暫くして買い物を終えた唯とリーナが帰宅。

 皆で食事をとった後、それぞれが普段通りの時間を過ごしていく。

 すると、自室で本を読んでいた空の部屋の扉が数回ノックされ、外から美癒の声が聞こえてきた。

「空君ー! お風呂あいたよ~!」

 美癒の声を聞き空は手に持っていた本を本棚へと仕舞い扉を開けると、そこには本日二度目のお風呂を終え、寝巻き姿の美癒が首にバスタオルを掛けて立っていた。

「分かりました、入ってきますね」

 空はそう言って部屋から出ると、自室の扉を閉め仄かにシャンプーの香りを漂わせる美癒の横を抜けて一階の浴室へと向かっていく。

 そして更衣室に入った空は、今日起きた出来事について考えながら服を脱ぎ始めた。

(ハレスオズモブの残党がいたのにも驚きましたが、まさかリーナさんがMGだったなんて……色々な世界を巡り『主』の為に尽くす存在、謎も多く悪い噂を聞く事もありますが、リーナさんは悪い人ではなさそうで良かった……)

 一安心しながら空は全ての服を脱ぎ終え浴室に入る、先ずはかけ湯をする為バスチェアに座り桶を手に持った瞬間、浴室の扉が勢い良く開くとメイド姿のリーナが手を上げながら入ってきた。

「やっほー空ー!」

 何の躊躇いも恥じらいも無く意気揚々と入ってきたリーナに対し、空は手に持った桶で素早く股間を隠すと真っ赤になった顔で驚愕してしまう。

「リーナさんっ!? ど、どうして入ってきてるんですか!?」

「んー? お背中流してあげようと思ってねー」

 リーナはメイド服の袖を捲ると、空の後ろで膝を付きしゃがみこんでしまう。

「僕は大丈夫です! 一人でも体を洗えるんで!」

「照れない照れない~! 本当は嬉しいくせに~。それに背中流したらすぐ出て行くから、ね。いいでしょ?」」

 必死に抵抗する空に対しリーナは笑顔を見せつつも強靭な力で空の肩を掴むと、空は自力で脱出する事が不可能だと察してしまう。

「わ、分かりました。背中だけですよ……」

「は~い!」

 渋々承諾した空を見てリーナは返事をした後肩から手を放すと、壁に掛けてあったボディタオルと石鹸を手に取りきめ細かい泡を作り始める。

 そのまま泡立てたボディタオルを空に背中に当てると、丁寧かつ優しく洗い始めた。

 空は照れ臭がりながらもリーナが自分の背中を洗い終えるのを待っていると、リーナは空の背中を洗いながら声を掛けてきた。

「ねえねえ、空はアルトニアエデンから美癒を守る為にこの世界に来たんだよね?」

「ええ、そうですけど」

 リーナにはまだ何故空がこの世界に居るのかを直接話していなかった為少し驚くが、誰かかが話したのだと思い特に気にもならなかった。

「それってすごい事だよね。空にも家族や友達がいるんでしょ? それなのに全く知らない人の為に世界を超えて守りに来ちゃうなんて普通出来る事じゃないよ」

「そ、そうですね、言われてみれば僕も結構無茶をしたんだと思います。アルトニアエデンにいる家族や友達にも心配を掛けてしまいましたし、軍に逆らって転移魔法を使用しましたからね。でも、僕はこの世界に来た事を後悔した事はありません」

 空は自分の本心を語り始めると、リーナは空の背中からなぞるように肩にボディスポンジを当てると、そのまま空の腕を綺麗に洗いながら再び喋り始めた。

「でも、美癒を狙う刺客が沢山現れてるんだよね? 何人もの魔法使いと戦って、傷付いて、それでも空は本当に後悔してないの……?」

「……この世界に来て色々な事が有りました。辛い事や悔しい事も有りました……けど、それが僕の選んだ道です。むしろこの世界に来ていなければ、僕は一生後悔していたと思います」

 自分に嘘は吐きたくない。

 例えその選択が自分の人生にとって過酷な道になると分かっていても、自分に嘘を吐けば必ず後悔する。

 自分の人生、自分自身で選択し、自分の力で前に進む。だからこそ空は今を選んだ道を全力で生きている。

 リーナは空の語りを静かに聞きながら空の腕を洗い終えると、リーナの手が空の腕から足へとゆっくり移動しはじめる。

「それに、この世界に来て辛い事ばかりではありません。最初は美癒さんを守った後、僕はアルトニアエデンに戻ろうと思っていましたが、美癒さんや唯さんが僕を必要としてくれたお陰でこの世界で楽しく過ごせる事が出来ていますし、学校に通わせていただくなど僕には勿体無いぐらいの充実した日々を送らせていただいてますからね」

 自分の選んだ道を信じ進み続ける今、空の人生は少なくとも後悔をする程悲惨なものではない。

 空は今まで楽しい日々を思い出しながらこれまで過ごしてきた思いをリーナに伝えると、リーナもその意思を理解してか、少々間を置いた後静かに喋り始めた。

「そっか、空はまだ子供なのに自分と向き合ってしっかり道を選んでるんだ……立派だね」

 空の意思、覚悟を聞いたリーナはそう言って暫く沈黙してしまう。

 空もこれから何と言えばよいのかも分からずただただ黙っているが、ふと耳元でリーナに囁かれる。

「そーれーにー、空は男性としてこっちも立派そうだし~?」

「っ───!?」

 話すのに夢中で全く気付かなかったが、りーナの手は空の足から腰の辺りにまで伸びており、後ろに座っていたリーナが身を乗り出して覗き込むように空の肩から顔を出していた。

(い、いつの間に───!?)

 顔を赤らめ素早く体勢を変えてリーナから逃れようと試みる空を見てリーナは楽しそうに笑みを浮かべると、桶を手に持ち湯船の湯を掬うと空の背中を綺麗に流し始める。

「あはは! かっわいい~♪」

 見られたのではないかと空は照れ隠しでリーナから顔を背けていると、背中を流し終えたリーナは徐に立ち上がり浴室の扉を開けた。

「色々話してくれてありがとね。リーナ、空の事見直しちゃったな」

「えっ?」

「ふふっ、また洗ってほしい時があったら何時でも呼んでいいからね! それじゃー!」

 そう言ってリーナは浴室から出て行くと、背中を洗ってもらった空は湯船に浸かりながら大きく息を吐いた。

「見直す……?」

 最後に言われたリーナの言葉に空は何気なく疑問を感じていたが、今はリーナという嵐が去った静けさの中で湯船に浸かる心地良さを堪能しはじめていた。



 空の背中を流し終えたリーナは更衣室から出ると、その場で足を止め少しだけ俯いてしまう。

 その顔には先程のような柔らかい表情は無く、むしろ何か思い詰めたような表情を浮かべていた。

「……いるじゃん、『良い人』」

 だが、その思い詰めた表情から一変してリーナはニヤリと不適な笑みを浮かべると、足早に部屋の前から立ち去るのであった。

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