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第28話 戸惑いの連鎖

 ヴォルフとの戦いを終えた美癒と鈴。

 鈴は戦いの直後に気を失ってしまい、美癒は鈴を背負うと唯のいる自分の家へと帰宅していた。

 深夜にチャイムが鳴り、誰かと思いパジャマ姿で玄関の扉を開ける唯だが、美癒と鈴の姿を見て直ぐに刺客に襲われたのだと理解できた。

 直ぐに唯は二人を一階にある和室に連れて行くと、布団を敷きその上に優しく鈴を寝かせる。

 体に外傷は無いものの余程疲れているのだろう、鈴は静かに寝息を立てたまま起きる気配がない。

 一階で何やら慌しい声が聞こえてきた為、自室で寝ていた空もまた一階へと降り和室に入ってくると、遅れて甲斐斗も和室へと入ってくる。

 そして美癒は直ぐに事情を三人に説明しはじめるが、腕を組み壁に凭れ掛かりながら話しを聞いていた甲斐斗の頭の中は混乱していた。

(やっべえええぇぇッ! あれだけ偉そうに刺客なんて出ない、大丈夫だとか言ったのに、なんでその日の夜に即出てくるんだよ!? どうすんだよこれ、この状況、俺の信用も信頼もガタ落ちじゃねえか……)

 空も唯も美癒も甲斐斗を信用していたが、結局美癒の前に刺客が現れ命の危険に晒された。

 この紛うことなき事実に甲斐斗は罪悪感と責任感を押し潰されそうになってしまう。

(絶対責められる……空からも唯からも、そして美癒も俺に非難の声を浴びせてくるんだぁぁぁ……)

 甲斐斗は内心、いつ自分に矛先が向けられるのは怯えつつ美癒の話しを聞いていく。

 そして美癒が刺客に襲われ鈴が絶体絶命のピンチに迎えた時の事を話し始めた。

 その内容に皆は驚いてみせる。美癒の友達が実は魔法使いであった事もそうだが、レジスタルが無く魔法が使えないはずの美癒が魔法を使ったとされるのだから。

「私は無我夢中で鈴ちゃんを助けたいって思ったら、急に魔法陣が出てきて、気づいたら両手にステッキを持ってて。もう消えちゃったけど、あれは絶対に魔法だったよ!」

 美癒には何故あのような事が出来たのかは分からない。

 今は魔法を使う所かステッキすら出せず、あの時のような力を自分の体から感じないものの、あれは間違いなく自分の魔法だと思っている。

「美癒さんが魔法を……レジスタルはないはずなのに、どうして……」

 空は不思議そうに顎に手を当て悩んでいると、唯は嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「あら、魔法が使えるようになるなんて良かったじゃない! おめでとう、美癒」

「うん! ありがとうお母さん。魔法の力で私は鈴ちゃんも守れたし、本当に良かった!」

 美癒が魔法を使った。

 その話しを聞いた途端、甲斐斗は険しい表情で無言のまま美癒を見つめ続けていた。

 先程まで自分が考えていた事など全て忘れ、今はただ美癒が魔法を使えた事について考えている。

 甲斐斗の真剣な表情、そしてその視線に気づいた美癒は甲斐斗の方を向くと、少し困ったように首を傾げる。

「か、甲斐斗? どうしたの? そんな怖い顔して」

 美癒に名前を呼ばれた甲斐斗はふと我に返り組んでいた腕を解くと、頭を掻きながら少し視線を落とし喋り始める。

「いや、ほら……あれだ。助けに行ってやれなくてすまなかった、お前を狙う刺客が出ないと高を括っていたんだが……俺のミスだ。空も唯もすまない、俺の勝手な判断のせいでこんな事になってしまって……」

 甲斐斗は責められる覚悟でそう告白すると、三人は先程から甲斐斗が落ち着かない様子だった理由が漸く分かり、まず最初に口を開いたのは美癒だった。

「ううん、甲斐斗が謝ることなんてないよ。いつも甲斐斗や空君に守られてばかりで無理させてきたのは私の方だし、悪いのは刺客の人だもん」

「いや、だがな。一応俺はお前達を守る為にいる訳で……」

 それに続いて空もまた口を開き喋りはじめる。

「それは僕も同じです。理由はどうあれ僕も美癒さんを守れませんでした、甲斐斗さん一人の責任ではありません。それに僕に家に戻るよう強く言ったのは、僕に無理ばかり掛けさせまいと気を遣ってくれたんですよね。心遣いありがとうございます」

「えっ? えっと。その、えーっとな……」

 美癒と空の言葉に甲斐斗は何て返していいのか分からずしあたふたしていると、最後は唯が語り始めた。

「色々あったけど結果的に皆無事だった訳だしいいじゃない、今は美癒達の無事を祝いましょう」

 唯はそう言って微笑みかけてくれると、美癒と空もまた優しい表情で甲斐斗を見つめてくれる。

 そんな三人の言葉を聞いた甲斐斗は、逆に拍子抜けしてしまい唖然としていた。

「お前等……良い奴すぎるだろ……」

 誰一人甲斐斗を責める者はいない、いるとすればそれは甲斐斗自身だけだった。

「ま、まぁ。そう言ってくれると俺も助かる……あ、ありがとな」

 甲斐斗は再び視線を逸らしそう言うと、三人は照れている甲斐斗を見て思わず笑みを零した。

 すると、先程まで静かに眠りについていた鈴がふと目蓋を開き目を覚ましてしまう。

「むにゃん……。あれ、ここは……?」

 鈴はイマイチ状況が掴めず半開きの目で辺りを見渡すと、美癒は満面の笑みで鈴に抱きついた。

「鈴ちゃん! 気が付いたんだね、良かったぁ!」

「美癒っち……そっか、うちは魔法を使って美癒っちを守った後、気を失ってたんか」

 鈴は気を失う前の出来事を鮮明に思い出していく。

 夜道に突如現れた魔法使い、美癒を守ろうと今まで封じていた力を解放し戦うものの苦戦、命を奪われようとした時、美癒の光に包まれ全身に力が漲ると、その力で魔法使いを遥か彼方へと吹き飛ばした。

「美癒っちが無事でほんとに良かった……これならもう、うちも思い残す事は無いな」

「えっ? どういう事……?」

「美癒っちはもう知ってると思うけど、うちは別世界から来た魔法使いやねん。今までその力を使わない事を条件にこの世界で暮らしてたんやけど、うちは使ってしもた……勿論その力で美癒っち守れたから悔いは無いけど、うちは元の世界に帰らなあかんねん……」

 鈴は別世界の人間にして魔法使い、なのに何故この世界で暮しているのか。

 それは美癒だからこそ分かっていた。美癒は桜から聞かされた話を思い出す。

 鈴は、桜と一緒にいたいからこの世界に残った。

 鈴は選んだのだ、魔法のある世界と桜のいる世界。どちらが自分にとって望む世界なのかを。


 魔法使いが魔法の無い世界で暮らす以上、魔法の存在は消さなくてはならない。

 もし魔法を使用すれば強制的に元の世界に帰らされ、処罰を受ける事になる。

 すると、鈴の話を聞いていた空が思いつめたような表情で鈴に一つの疑問を聞いてみた。

「鈴さん、ちなみにその別世界というのは何て名前の世界ですか……?」

「え? アルトニアエデンって名前やけど……え、うちが魔法使いって信じてくれるん?」

「っ!? 信じるも何も、僕もアルトニアエデンの魔法使いです。ここにいる唯さんや甲斐斗さんも同様に魔法使いなんですよ」

 まさか鈴がアルトニアエデンの人間だとは思わなかった空はそう言って説明すると、鈴は目を丸くして空を見つめた。

「う、うそぉっ!? 皆魔法使いなん!? 美癒っちの言ってた物語の通りやな……あ、でもっ、この世界で魔法なんて使ったら処罰されるんとちゃうん?」

「ええ、ですが今は何ともありません。それに僕達が魔法を使うのは別世界から来た魔法を使う刺客から美癒さんを守る為です。僕と違って鈴さんはこの世界に無断で来た訳でもありませんし、世界の均衡や秩序を乱してはいないので処罰はされないはずです」

 空は軍に反抗し無断で転移魔法を発動した為、重大な罪となったが。元々鈴はこの世界で暮しており、今までは魔法を使う事などなかった。だが魔法で命を狙われた以上、自分もまた魔法を使い身を守ったのであれば罪はそれほど重くないと空は考えていた。

「……尤も、今はアルトニアエデンの軍も忙しい状況なので僕達に構っている暇が無いだけなのかもしれませんけどね」

「そうなんや……ほんならうちも、この世界に残っててええんかな……?」

「ええ、大丈夫だと思いますよ」

 空の言葉を聞いて一安心する鈴だったが、直ぐにある事に気づくと思いつめた表情で空に問いかけた。

「……美癒っちの身に何が起きてるのか、うちにも詳しく話してくれんかな?」



 それからその場にいる美癒と空から入学式から今までの事の状況を説明していく。

 鈴はその話しを真剣に聞いていると、今日までの話を全て聞き終えた後、寝ていた布団から起きて見せる。

「話しは大体分かった! うちの大切な美癒っちを狙うなんて言語道断ッ! 空っち! 美癒っちの護衛、うちもやらせてもらうでっ!」

「ちょっと待ってください、相手は戦闘専門のプロの刺客です、今回は無事でしたけど、何時また刺客が現れ戦闘になるか分からないんですよ」

「あかんなー空っち。美癒っちがこんなに大変なのにうちが何もせんわけないやん、こういう時は一緒に協力して美癒っちを守ろう! って言うもんやで!」

 その鈴の話しを聞いていた唯は笑顔で鈴の両手を握ると嬉しそうに握り締めた両手を上下に降り始めた。

「美癒を守ってくれるなんて心強いわね、空君や甲斐斗と一緒に協力して美癒を守ってあげてね!」

「うちに任しときや! もしまた美癒っちを狙う刺客が現れたらうちのハリセンで叩きのめしたる!」

 鈴と唯は仲良く手を握り締めあいながら熱い視線を交わすと、美癒はやる気満々の鈴に声をかけた。

「ありがとう、鈴ちゃん。鈴ちゃんがそう言ってくれて私も嬉しいよ!……でもね、もしまた今日みたいな事があったら絶対に無理とか危険な真似はしないでね。私は鈴ちゃんの傷つく姿なんて見たくないから……」

 美癒はあくまでも自分より周りの人達の方を心配していた。

 確かに自分は何者かに狙われている、そしてそんな自分を守ってくれる魔法使いの空と甲斐斗がいてくれるが、美癒はいつも自分の為に戦ってくれる二人が心配だった。

 だから鈴が増える事で美癒の心配がまた一つ増える事になり、美癒は優しく鈴の頭を撫でると不安でたまらない気持ちになっていく。

 すると美癒の話しを聞いていた甲斐斗と空が美癒の前に立つと、先に空が口を開いた。

「安心してください、美癒さんの大切な人達は全て僕が守ります。勿論、それは仲間の皆と協力してですけどね」

 そう言って空が横に立っている甲斐斗に視線を向けると、甲斐斗もまた美癒に向かって話しはじめた。

「まぁ最強の俺が居るから何とかなるだろ。お前だけは絶対に俺が守るからな」

 美癒を守る頼もしい三人の姿。

 その姿を見て美癒は深々と頭を下げると、今一度お礼の言葉を述べた。

「皆、ありがとう!」

 こうして美癒の良き理解者が一人増え、事は丸く収まっていった。


 

 その頃、鈴の家では一人、桜が自分の部屋にある鏡を見つめていた。

 灯りもつけず月夜の僅かな光に照らされる自分の姿を見つめながら、ある言葉を呟いた。

「レジスタル・リリース……か」


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