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第29話 擦れ違う思い

 午前三時、美癒と鈴の二人は空と甲斐斗と共に鈴の家にまで来ていた。

 鈴はこっそりと玄関の扉を開け、中の様子を伺うと美癒を手招きして家の中に入っていく、それを見て美癒は後ろに振り返りついて来てくれた甲斐斗と空に頭を下げた後、鈴と共に家の中にはいっていった。

 すると空と甲斐斗は自宅まで戻る為二人で横に並び歩き始めるが、甲斐斗は少し落ち着かない様子で歩いている為、気になって空が声を掛ける。

「美癒さんが心配なんですよね、刺客が現れたというのに僕達の事を気遣って家に戻っていてほしいというなんて、美癒さんらしいです」

 空と甲斐斗は何時刺客が来てもいいように美癒を二十四時間完全に警護するつもりだったが、それを聞いた美癒は二人を心配し必要以上の警護はしないように頼んだのだ。

 しかし、幾ら美癒に頼まれたからとはいえ、また何時刺客が来るのかも分からない状況の為空と甲斐斗は美癒を説得しようとしたが、鈴が『うちが守るから心配ないで!』とやる気満々の言葉を吐き、何かあったら即連絡をするという条件で渋々二人は納得し、更に空は自分が持っている『CLT』のライセンスを龍馬が自分に与えたように鈴にも与えていた。

「あの鈴って奴が魔法使いだったのには驚かされたが、刺客相手にどこまで戦えるやら……美癒を守る以上、雑魚じゃ困る」

 そう言って甲斐斗は頭を掻きながら溜め息を吐き、二人は唯のいる自宅へと戻るのだった。



 一方その頃、美癒と鈴は電気も点けず忍び足で廊下を歩いてると、突如灯りが点き光が二人を照らしたかと思えば、二人の前には腕を組み不機嫌な表情で桜が立っていた。

 桜にバレないように行動していた二人は声をあげて驚いてしまうが、それでも桜は動じることなく二人を睨むように見つめている。

「美癒、鈴。こんな時間に何処に行っていたんだッ?」

 美癒は今まで見たことの無かった桜の怒った表情、険しい雰囲気に動揺していると、美癒の隣にいた鈴は直ぐに手に持っていた漫画本を出した。

「ご、ごめんな! 実は美癒っちとコンビニまでこの本買いに行っとったんよ! 桜はぐっすり寝てて態々起こすのも悪いと思ってこっそり行ってしもた」

「『少女ステップ』……そうか、確かに今日はその本の発売日か。しかし、だからと言ってこんな晩い時間に外に出る事が許された訳ではない」

 桜は両手を振り上げ美癒と鈴の頭に手を伸ばすと、二人は頭を叩かれると思い肩に力を入れ目を瞑ってしまう。

 だが、二人の頭は桜に優しく撫でられると、そのまま二人を抱きしめ始めた。

「全く、どれだけ私が心配したと思っているんだ」

 本気で心配していたからこそ桜は不安だった。それは美癒と鈴にも痛い程伝わり、二人は申し訳ない気持ちで一杯だった。

 それは単に桜を不安にさせてしまったというのもあるが、真実を隠す為に桜に嘘を付かなければならない罪悪感もあったからだ。

 美癒が刺客から狙われている事も鈴が魔法使いだという事も桜は知らない、それは桜を危険な目にあわせたくない為の必要な嘘だった。

 桜は謝る二人を抱きしめた後、体から離すと少し笑みを浮かべながら腕を組んだ。

「罰としてみゆみゆと鈴は私の抱き枕として一緒に寝てもらうからな、目一杯抱きしめてやる。覚悟するといい」

 そう言って桜は和室へと戻っていくと、美癒と鈴は互いに視線を合わせ桜が機嫌を治してくれた事に安心すると、二人は足早に和室へと戻った。



 しかし、実際には桜の心境は複雑なものだった。

 何故ならあの時、桜は全てを見てしまったのだから。

 魔法を扱う刺客、鈴の変身、美癒の魔法───自分の目で見る事によって、現実と受け入れるにはそう時間もかかりはしなかった。

 鈴と美癒がコンビニに向かった後、実は桜も目を覚ましていたのだ。

 布団を見れば二人の姿は無く、桜は咄嗟に鈴の習慣を思い出した。

 今日の曜日を見て、恐らく鈴は何時ものコンビニへと向かい本を買いに行ったのだろうと。

 鈴は決まって漫画の発売日になると買いに行く事は桜も知っており、直ぐに私服に着替えるとコンビニへと向かった。

 コンビニまで歩いていると、遠くの方で鈴と美癒の姿が見え、桜は思ったとおりと安心し二人に近づこうとした時、男が二人の前に現れると、美癒は鈴の手を引き林の中にある公園へと走り出してしまった。

 桜は何が起きたのか分からず、美癒達が心配になり駆けつけてみると、そこではまさに鈴が変身を遂げている瞬間を目撃してしまう。

 桜は咄嗟に茂みに隠れその状況を見つめていた、出て行くことなど桜には出来なかった。

 何故なら目の前で起きている現実は、まるで夢を見ているような異様な光景だったからだ。

 自分の腕を摘み寝惚けていない事を確認したものの、錯覚を見ているのかと思う程の展開、鈴と獣のような男が魔法を駆使して戦う姿、そして美癒の魔法の一部始終を桜はただただ見つめ続ける事しか出来ない。

 結局桜は戦いが終わった後も暫し放心状態でその場に立ち尽くしていた。

 何故鈴にはあのような力があるのか、何故男に狙われていたのか───考えれば考える程桜の頭はこんがらがり、頭を抱えながら一人自宅へと帰宅する。

 まさか自分の知らない所で二人が魔法を使い、戦っているなどと思っても見なかった桜は自宅へと戻った後、自室へと戻り再びパジャマ姿に着替え始める。

 なんと二人に声を掛ければいいのか分からない。

 真実を聞く事も出来る。だが、真実を自分から聞かなくてはならない事に桜は少なからず抵抗があった。

 自分達の間に隠し事はないと思っていた、互いに心を通わし嘘偽りの無い親友関係だと信じている。

 だからこそ桜は二人から直接、正直に話しを打ち明けてもらいたいと思ってしまう。



 だが、結局二人が桜に秘密を、真実を打ち明ける事はなかった。

 まるで自分だけ蚊帳の外の存在だと思い疎外感を感じてしまうが、それでも桜は二人が真実を話してくれると信じている。

 和室で寝ている桜は美癒と鈴を抱き枕にしてしがみ付くと、収まらない興奮の中、目蓋を閉じ続けるのだった。



 それから数時間後、カーテンの隙間から朝日が差し込むと、桜は眠りから目を覚ましゆっくりと起き上がる。

 昨日は色々とあったが美癒と鈴を抱き枕代わりにしたお陰で意外にもぐっすり眠れ、桜は目元を指で擦っていると、隣にいたはずの美癒と鈴の姿が無いことに気づいた。

(いない!? まさかまた───っ!)

 桜は飛び起きると美癒と鈴を探しに和室を出て廊下を走るが、ふとリビングを見ると楽しそうに喋りながら朝食の準備を進めている美癒と鈴の姿がそこにあった。

 てっきりまた誰かと魔法を使って戦っているのではないかと思っていた桜は足を止め二人の和やかな雰囲気を見て固まっていると、起きてきた桜に気付いた美癒と鈴が笑顔で挨拶をしてくれた。

「おはよう桜さん! 丁度良かった、今朝食が出来た所なの」

「おはよー桜~! 美癒っちと朝食作ったんよ、はよ一緒に食べよう!」

 普段と何一つ変わらない二人の態度に桜は少し動揺するものの、その心の揺れを隠すように振舞っていく。

「お、おはよう。そうだな、頂くとするか」

 桜はリビングにあるテーブルに座り美癒と鈴が作ってくれた朝食を食べていく。

 昨日買ってきた材料で作られた朝食はどれも美味しいものばかりだったが、桜は鈴と美癒の事が気になり料理の味所ではなかった。

 すると、そんな不自然な桜を見た鈴が首を傾げてしまう。

「どうしたん、昨日はあんなに美味しい美味しい言うてたのに。今日はやけに静かやね」

 さすがは鈴と言った所だろう、普段と何かが違う桜の様子に逸早く気付くと、桜は勢い良く朝食を頬張っていく。

「ふっ、美味し過ぎて味に没頭し声を出す事すら忘れていたのさ」

 桜はそう言って美癒に視線を向けると、美癒は嬉しそうに笑みを見せた。

 どうやら二人の秘密を桜が知っている事に美癒と鈴は気付いていない、桜は何時二人から真実を話してくれるのかと思いながら朝食を食べていたが、結局二人から魔法の事について話しは何一つされることはなかった。


 朝食が終わり美癒は食器を持って台所に向かうと、鈴は洗濯物を洗う為に洗濯機が置いてある脱衣所へと向かった。

 すると桜もまた脱衣所へ向かうと、洗濯機を操作する鈴に向かって声を掛ける。

「鈴、美癒と料理の勉強が出来て良かったな」

「うん! これで桜に美味しい料理をいっぱい作って上げられるからね、楽しみにしててな」

 洗濯機のボタンを押しながら鈴はそう言うと、桜は本題へと話を切り替える。

「ありがとう。所で、鈴は私に何か隠し事……というか、なんだ、その……話したい事とかあるか?」

 鈴が真実を話しやすい状況を作るために桜はそう言って鈴の返事を待つと、鈴は後ろに振り返り悩み始める。

「ん? うちが桜に話したい事……? 特になんもないけど……あっ!」

「何だ、私に話したい事があるのか!?」

 遂に鈴から真実を告げられると思い桜は緊張した面持ちで鈴の言葉を待つと、鈴は腕を組みながら語り始める。

「桜は本当寝相悪いな! 昨日だってうちと美癒っちを抱き枕にするーって言って寝てたけど、それから色々勝手に動いて大変やったんやからね! あと、いつも漫画の原稿を締め切りギリギリまで粘るのもやめてな! それからそれから──」

 言い出したら切りが無いと言わんばかりに鈴の口から桜に向けての不満と要望が出てくるが、そこにもやはり魔法の事についての話しは一切無く、それでも桜は鈴の話しを聞いていると、鈴は全てを話し終えたのか満足そうな表情を浮かべていた。

「──っと、こんなもんやな! うちは桜に隠し事なんて何一つないから全部言ってしもた」

 そんなはずがない。桜は知っている、鈴が自分に対し隠している重要な事を。

「そうか、色々とあるもんだな……改善するように努力しよう」

 桜は鈴の言葉を聞き動揺を隠しながらそう言うが、心の中では鈴から真実が語られないことに少なからずショックを受けていた。

 桜と鈴、二年前から共に暮らし二人は親友として過ごしていた。

 桜は鈴が自分に隠し事をするとも思ってなく、心から分かち合える存在だと思っている。

 だからこそ、今回の件については桜は自分から聞くのではなく、鈴の方から打ち上げて欲しいと願っていた。

 しかしそれは叶わなかった。鈴だけでなく美癒もまた桜に真実を話そうとはせず、魔法使いであるという事を隠し続ける。



 結局、美癒と鈴から真実を語られる事は無かった。

 その事に桜は少なからず落胆してしまう。

 隠し事をされる事に桜は戸惑いを感じるが、自分から直接二人に聞く事は出来ない。

 桜はどうしていいか分からず複雑な心境のまま二人と共に過ごしていくが、桜は我慢の限界が来てしまった。

 しかし、それでも直接二人に話しを聞きだそうとは思わず、桜はふと何かを思い出したかかのような素振りを見せると玄関へと向かおうとする。

「っと、すまない。ちょっと野暮用があったんだ、少しの間出かけてくる」

 本当は野暮用なんて無い、ただこの空気に耐え切れないだけだった。

 隠し事無く何でも語り合える仲だと思っていた桜、疑心が桜を纏う様に積み上げられ、二人の言葉を聞きもせず家を後にしてしまう。


 桜は途方に暮れるようにただただ歩き続ける、目的もなければ行く当てもない、コンビニでも寄って軽く買い物を済ませた後に帰ろうと思っていた。

 横断歩道の信号は赤、すぐそこにはコンビニが見え、桜は信号が青になるのを待ち続ける。

 だがその時、一人の幼い少女が赤信号にも関わらずに横断歩道を渡り始めていた。

「危ないッ!」

 横からは大型トラックが接近してきており、このままではトラックが少女を轢いてしまう。

 桜は迷わず横断歩道へと飛び込み少女を救おうと抱かかえたが、既にトラックは桜の目前にまで迫ってきていた。

 間に合わない。

 トラックの勢いは衰えない、このままトラックが直撃すれば死は免れない。

 桜は少女を力強く抱きしめると、せめてこの少女の命だけでも救おうと自分を盾にして立ちふさがる。



「レジスタル・リリース」

 その時、聞き覚えのある台詞が聞こえてきた。

 だが、その声は鈴のものではなく男性の声であり、桜は何が起きたのかと瞑っていた目蓋を開く。

 そこには光輝く魔法陣がトラックの前に現れ桜を守るようにして存在していた。

 光の魔法陣は眩しい光りを発しながらトラックをいとも簡単に受け止めていると、一人の青年が颯爽と少女を抱きしめる桜を抱かかえる。

 何が起きたのかも分からず桜はただただ青年に抱かかえられていると、安全な場所へと移動した青年は優しく桜を下ろした。

 それと同時に桜は抱きしめていた少女を離すと、少女は桜に向かって深々とお辞儀をした後、『お姉ちゃんありがとう!』と言って、足早に何処かへ行ってしまう。

 とにもかくにも、一人の少女の命を救えた事に安心し桜はほっと一息吐いたが、直ぐ後ろに振り返り自分と少女を助けてくれた青年の方に目を向けた。

 すると青年も桜の方に顔を向けると、体を見渡しながら心配そうに声をかけてくる。

「大丈夫? 怪我はないかい?」

「あ、ああ。大丈夫だ、ありがとう……」

「うん、それは良かった。それじゃ私はこれで──」

 青年は桜が無事なのが分かると足早にその場から立ち去ろうとしたが、すかさず桜が青年の腕を掴んでしまう。

「ま、待ってくれ! さっきの力、お前も……魔法使いなんだな!?」

 青年は腕を掴まれたまま固まっており、後ろに振り返ることなく桜の話を聞き続ける。

「実は私には魔法使いの友達がいるんだ。先程の言葉も魔法を使う為に必要な呪文のようなものなんだろう? 頼む、魔法について何でもいい、私に教えてくれないか……?」

 桜の言葉に青年は黙ったまま聞いていたが、ふいに後ろに振り向くと大きく頷いてみせた。

「……うん、いいよ。君は何か思い詰めているみたいだからね。本当は魔法の事について話す事は禁じられているんだけど、私は困っている人を放っておけない性質なんだ。私で良ければ魔法について話してあげられるけど」

「ああ、是非お願いしたい。っと、自己紹介がまだだったな、私の名前は城神桜だ。よろしく頼む」

 桜の名前を聞いた青年はにこりと笑みを浮かべると、青年は自分の胸元に手を当て名を伝えた。

「私の名はゼオス。よろしくね、城神さん」

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