第27話 結ばれた仲
突如美癒と鈴の前に現れた刺客『ヴォルフ』。
木々が生い茂る公園に逃げ込んだ美癒と鈴だったが、ヴォルフの強力な回し蹴りにより鈴は血反吐を吐きながら木に叩きつけられてしまう。
絶体絶命の状況に追い込まれていた美癒、自分が素直に連れて行かれる代わりに鈴を助ける為、助けを呼ぼうとスマホを操作しようとした時、鈴の強烈な一撃がヴォルフを吹き飛ばした。
そして鈴は美癒を守る為に『衝撃の魔法使い』へと変身を遂げ、戦闘態勢に入ったヴォルフの前に立ちはだかる。
ヴォルフは目を光らせ拳を構えると、先程までは無かったはずの獣ような耳が突如現れる。
「狩りの始まりだ」
ヴォルフがそう呟いた直後、鈴の周りに無数の白い狼が召喚させると一斉に鈴に飛び掛り襲いかかる。
その四方からの一斉攻撃を見ていた美癒は思わず鈴の名を叫んでしまう。
だが鈴は美癒の方を向き笑みを見せると、その手に持った武器を高速で振るいその場から一歩も動く事無く狼を叩き飛ばしてしまった。
高速攻撃により全ての攻撃を弾き飛ばした鈴。しかし、魔法で作り出した狼などヴォルフにとっては囮に過ぎず、その跳躍力を活かし一瞬で鈴の目前まで迫ってきていた。
刹那の瞬間に見えるヴォルフの獣の瞳、それに対して鈴もまた鋭い視線で睨み返しており、互いが振るった一撃は完璧なタイミングで打つかり弾き合う。
だが一撃では終わらない、目にも止まらぬヴォルフの高速攻撃、それに対して鈴も後方に下がりながらも高速で武器を振るいヴォルフの攻撃を弾き続けていた。
「お前、女の癖にやるじゃないか」
それでも鈴の動きには限界があった。
鈴が反撃を狙おうと振り下ろした攻撃をヴォルフは寸前で交わすと、握り締めた拳を鈴の腹部へと再び振り下ろす。
腹部に強烈な一撃を食らった鈴。だが、鈴は歯を食いしばりその痛みに堪えると、大きく拳を振り下ろし隙だらけのヴォルフを見て大きく武器を振りかぶった。
(マジか。この女、俺の拳をまともに受けて耐えただと──)
その思考の直後に振り下ろされた鈴の武器でヴォルフは打たれ弾き飛ばされる。
鈴に弾かれる直前、衝撃に耐えようと両手を交差し防御に成功していたが、その威力にヴォルフは中々踏み止まれず吹き飛ばされ続けると、背に木が当たる前になんとか耐えてみせると両腕を動かし状態を確かめる。
その間、鈴は再び血反吐を足元に吐き散らすと。口元の血を拭い再び武器であるハリセンを構えてみせた。
「まだまだぁ゛っ……美癒っぢには、手ぇ出させんでぇ………っ!」
鈴は威勢の良い言葉を吐きヴォルフを睨んでみせたが、その膝は震えており、立っている事さえ難しい状態なのは美癒でも分かった。
「お願い……もう止めてっ!」
これ以上鈴の傷つく姿を見たくない。美癒は涙を流しながら鈴の元に駆けつけようとしたが、鈴は美癒を止めるように手を突き出し、にこりと微笑んだ。
「大丈夫、うちは全然平気やけん」
そんなはずがない、そんな訳がない。限界に近い状態……いや、既に限界を超えているのかもしれない状態に美癒は涙を流しながらその場で立ち竦んでしまう。
「鈴、ちゃん……っ!」
「えへへっ、まさかストーカーがこんな強敵やなんてな……もしかして、さっき話してくれた物語は全部美癒っちの体験談なんかな」
鈴は薄々気づき始めていた。コンビニに向かうまでに話してくれた美癒の話は余りにも出来すぎていた。
もし、魔法の存在を知らない人間が美癒の話を聞いても作り話しとしか思わないだろう。
だが鈴は違う。鈴は今までその力を封印しこの世界で平穏に暮す為に魔法を使わなかっただけで、正真正銘の魔法使い。
「もしそうなら……今まで辛かったやろうな」
鈴は俯きながらそう言うと、武器を握り締める手に力が込み上げてくる。
「訳も分からず狙われて、その事は友達の誰にも話せんし、毎日自分を狙う刺客に怯える生活……」
武器を握り締める拳の力は更に強まっていき、その力強さは鈴の瞳にも表れていた。
「うちが守る……うちの大切な友達……いんや、親友に……指一本触れさせんっ!!」
──その鈴の威勢にヴォルフは驚いていた。
まさかこのご時勢にそんな戯言を吐く人間がいるとは思っていなかったからだ。
ヴォルフには鈴の意気込みが眩し過ぎる程に美しいとも思えた。
「良い威勢だな。……だが、この世は所詮『弱肉強食』なんだよ」
その言葉が鈴と美癒に聞こえた時、既に鈴の懐に飛び込んだヴォルフの膝が鈴の腹を抉るように蹴り上げていた。
その衝撃で鈴の意識は飛び、蹴り飛ばされると地べたに這い蹲り微動だにしない。
「鈴ちゃんっ!!」
美癒は急いで鈴の元に駆けつけようと走って向かうが、鈴の寸前まで近づいた瞬間にヴォルフが美癒の前に現れる。
「弱者はただ強者の糧となる為の存在に過ぎない。心が強くても力の弱い奴は何をやっても意味がない、俺に挑んだのも無謀な選択だったな。さてと、天百合美癒。俺と共に来てもらうぞ──」
ヴォルフがそう言って美癒の腕を掴もうとすると、美癒はヴォルフなど目もくれず横に避けると、倒れている鈴の元に駆けつけていく。
「……っておい、俺の話しを聞いてたか?」
無視されたヴォルフは後ろに振り向き面倒くさそうに頭を掻くと、美癒は倒れた鈴を抱かかえていた。
「うっ……ぐ……っ……」
苦しそうに悶える傷ついた鈴の姿に美癒は涙が止まらず、その涙の雫が鈴の頬へと落ちていく。
「鈴ちゃん……私の為に、こんなに傷ついてっ……」
ボロボロの鈴の姿を見て美癒は鈴を抱きしめると、それを見ていたヴォルフは溜め息を吐き強引に鈴から美癒を引き離そうとする。
「気は済んだか? ならさっさと俺と──」
「嫌です!! 私は鈴ちゃんを置いて行けない……せめて鈴ちゃんを病院に連れて行ってからじゃないと、私は……!」
「調子に乗るなよ。俺の依頼はお前を依頼主の元に届ける事だが、俺はお前の手足を圧し折って無理やりにでも連れて行く事が出来るんだよ。今そうしてないのはせめてもの情けを掛けているからだけどな、俺の仕事に支障を来たすなら容赦はしないぞ」
鈴を抱かかえる美癒の後ろには両目を鋭く光らせる一人の獣が腕を組み立っており、その獲物を狙う瞳が鈴ではなく美癒に向けられていた。
美癒の背後から伝わってくるおぞましい殺気、鈴は身動きがとれないものの美癒の為を思って自分から離れようとした。
しかし、それを美癒は許してはくれなかった。
美癒は頑なに鈴から離れようとせず、鈴を抱きしめ続ける。
「それでも、私はこのまま鈴ちゃん見捨てる事なんて出来ないっ……!」
「……ああ、そうかい。分かったよ」
美癒の熱意を見て、ヴォルフは険しい表情でそう呟く。
そして次の瞬間、美癒はヴォルフに左肩を掴まれると強引に鈴から引き離され、そのまま後ろに投げ飛ばされてしまう。
「きゃっ!……っ……!」
肩を掴まれ引き離されただけ、だがその力は人間の限界を軽く超えており、美癒は激痛が走る左肩を抑えながら体を起こす。
すると目の前では鈴の髪を掴んだまま持ち上げたヴォルフが指先を揃えその鋭利な爪を鈴の首に差し向けていた。
「つまり、この女が死ねばその心配は無くなるって事でいいよな」
いい加減ヴォルフはうんざりしていた。
今回の依頼は美癒を連れて帰るだけ、ただそれだけのこと。
万が一、情報通り美癒を守る魔法使いが現れたとしても、ヴォルフはそれに打ち勝ち美癒を連れて早々と帰るつもりだった。
そう、元々ヴォルフには殺意などない。
だが今は違う、ヴォルフは自分に牙を向けた相手にだけは容赦はしない。
例えそれが女、子供だろうと。それが『弱肉強食』の世界であり、ヴォルフの知る本物の世界だ。
この場にヴォルフを止められる者はいない。美癒は左肩の激痛に耐えながらも立ち上がり、ヴォルフに近づこうとした。
(絶対に、させない……ッ)
しかし、美癒の気持ちとは裏腹にヴォルフは既に手を振り上げ攻撃の体勢を整えており、美癒の居る距離からでは止める事は不可能。
鈴は苦しそうな表情で項垂れており、もはや抗う力は残っていない。
(鈴ちゃん……鈴、ちゃんっ……!)
このままでは鈴は殺される。
守ってくれる人は誰もいない、助けてくれる人は誰もいない。
美癒は涙を流しながら自分の非力を悔やみつつ、それでも鈴を助けようと前に進もうとした時、ヴォルフは鈴を見つめながら呟いた。
「この世は、弱肉強食」
その直後、ヴォルフは躊躇い無くその鋭利な爪を鈴の首目掛け突き出した。
即ちそれは、鈴の『死』が確定した瞬間だった。
死ぬ。
美癒にはその光景がスローモーションのように映っていた。
鼓動が止まると錯覚する程ゆっくりな時間、ヴォルフの手は振り下ろされると鈴の首目掛け一直線に突き出されており、その爪先が今まさに鈴の首に触れようとしている。
死ぬ。
鈴が、大切な親友が、殺される。
それも魔法によって、自分を守る為に、無慈悲に殺されてしまう。
美癒の頭に今までの鈴との思い出が走馬灯のように蘇るが、その光景が全て赤く染められていく。
血で汚れていく世界。
魔法で穢れていく世界。
そんな世界を、美癒は決して望まない。
「やめてえええぇぇぇ───ッ!!」
何故なら魔法とは人々を幸せにする、『不可能を可能』に変える力なのだから。
美癒が泣き叫んだ直後、美癒の足元に突如真っ白に輝く魔方陣が一瞬で浮かび上がる。
その眩しい光、そして強力な魔力の存在にヴォルフは背を向けていても気づいた。
鈴の首を抉る寸前で止められたヴォルフの右腕、何事かと思い後ろに振り返ってみせると、そこには眩い光に包まれた美癒が一本の純白のステッキを握り締め立っており、ヴォルフはふと呟いた。
「……何だ、その力は」
今まで見た事のない程の複雑な魔方陣が美癒の足元に広がっているが、その魔方陣は巨大でヴォルフの足元にまで広がっていた。
ヴォルフはイマイチ状況が掴めず唖然としていたが、その光の中に立っている美癒の力強い視線に気づく。
「私の大切な親友を───傷つけないで!!」
美癒はステッキを両手で握り締め無我夢中に願った。
もしこの世に魔法があるのなら、その力で大切な人を救いたい、守りたいと本気で願い続ける。
まるでその思いが通じたかのように、美癒の足元に広がっている魔方陣が眩しい光を放った。
強大な魔力の存在にヴォルフは多少動揺したものの、相手は武器もまともに扱えない一人の少女、自分の仕事を遂行しようと思考を働かせようとした瞬間、ある気配に気づいた。
湧き上がる気力、込み上げる力、蘇る魔力。
ヴォルフは視線を美癒から鈴に向けた直後、振り下ろされたハリセンによる強力な一撃がヴォルフの顔面に炸裂する。
(なッ……なん、だと───ッ!?)
動揺が隠せないヴォルフ、それは無理もなかった。
先程まで虫の息だったはず、抗う力は何一つ残されていなかったはず。
そのはずなのに、そこに立っている鈴は傷一つない全回復状態で立っていたのだから。
動揺していたのはヴォルフだけではない、鈴もまた自分の体を癒してくれる光の力に驚いていた。
「すごい、体の痛みが全部消えてく……うちの全身を包み込むような心地良い魔力、暖かい」
鈴は目を瞑りその暖かい光に身を委ねるように胸に手を当て深呼吸すると、目を見開きヴォルフを睨んだ。
「今のうちなら、いけるッ!!」
鈴は威勢の言葉を吐き武器を構えると、吹き飛ばされたヴォルフの方へと飛び掛る。
するとヴォルフは拳を構えその獣の瞳を光らせると、全身から魔力を開放し鈴を待ち構えながら叫んだ。
「調子に乗るなよ女ァッ! 不意打ちが当たったぐらいで好い気になってんじゃねえよッ!!」
もう手加減などしない、全身から殺気を放ち完全な殺意を持ってヴォルフが牙を剥く。
鈴とヴォルフ、互いに向かい合って跳ぶと、お互い大きく振りかぶって強大な一撃を放つ。
その互いの攻撃にヴォルフは目を見開き愕然とした。
粉砕される爪、弾かれる右腕──ヴォルフの攻撃は全くといっていいほど通用しなかったのだ。
鈴の攻撃は続く。ヴォルフが体勢を崩したのを見ると、高速で武器を振るいヴォルフの全身を滅多打ちにしていく。
(何だこいつの動き!? さっきまでの女じゃねえ、まるで別人じゃねえか……ッ!)
まるで歯が立たないヴォルフは鈴の攻撃を受けながら動揺していると、鈴は両手に力を込め全身の魔力を武器に送り込むと、笑みを浮かべながら大きく叫んだ。
「うちのとっておきの魔法、その目でよく見ときやっ!!」
鈴の握る武器が眩い光を放つと、鈴は渾身の一撃をヴォルフに叩き込む。
「大ッ!」
鈴が振り下ろした一撃はヴォルフ右の腕を叩く。
その衝撃でヴォルフは吹き飛びそうになるが、鈴は直ぐに武器を構えなおすと続いてもう一撃を振り下ろす。
「爆ッ!!」
そう言って振り下ろされた武器が、今度はヴォルフの左腕に直撃する。
まるで同時に叩かれたのかと錯覚する程の左右からの高速の攻撃、その衝撃によりヴォルフの全身は硬直してしまい全く身動きが取れない。
(マズイ、このままだと───っ!!)
一方的に負ける。
ヴォルフは鈴相手に何も出来ずに終わってしまう。
それだけは決して許されない、なんとしてでもこの状況を打破しなければならない。
しかし、そのヴォルフの意思は鈴の最後の一撃によりいともたやすく粉砕されてしまう。
「衝ォおおおお───ッ!!!」
三連撃目、最後の一撃。武器を振り上げヴォルフの腹部に直撃すると、その威力にヴォルフは目を見開き意識が飛ぶと、放たれた一撃の威力によりそのまま空の彼方へと吹き飛ばされてしまった。
まるで月に届くのではないかと思う勢いで闇夜の空に消えしまうヴォルフ。
その光景を見ていた鈴は武器を肩に乗せ一息つくと、後ろに振り返り美癒に向かってブイサインを出した。
「よっしゃ! うちと美癒っちの勝利や!」
笑顔でブイサインを見せる鈴に、美癒は目に涙を浮かべながらも安堵で笑みを浮かべる。
気づけば美癒の足元に広がっていた魔方陣も、両手に持っていたステッキも消えてなくなっていた。
美癒はそんな事よりも鈴が心配ですぐさま駆け寄ると、鈴の表情から笑みが消え疲労でその場に跪いてしまう。
「鈴ちゃん!」
倒れそうになる鈴を支えるように美癒は腕を伸ばすと、鈴はそのまま意識を失い美癒に支えられながら眠りについてしまった。
美癒と鈴の戦いは終わった。
だが、その一部始終を闇夜に紛れ見ていた者達がいた。
その一人は異世界にある宮殿の自室から一枚のカードを通し美癒達の戦いを見守る青年、ゼオス。
美癒のほんの僅かに発揮した可能性を見て、目を輝かせながら笑みを浮かべている。
「素晴らしいね、私の目に狂いが無かったって事かな。……それにしても、私以外に刺客を送り込む人がこうもいるなんて……おや?」
ゼオスはカードを通し美癒と鈴を見ていたが、その近くの林に隠れている一人の少女の姿が視界に入った。
「……うん、良い事思いついた」
ゼオスはその少女を見てほくそ笑むと、手に持っていたカードをポケットの中に入れ、再び自室で紅茶を優雅に嗜むのであった。




