白亜の講堂、鏡の向こうの面影
僕、ユーリ、ティファ、エリザ、そしてキース。
全員が同じ「1年Aクラス」に名を連ねていた。魔法の適性や家柄を考慮した結果なのだろうが、この偶然は僕にとって、復讐と再構築のための盤面が整ったことを意味していた。
講堂へと向かう廊下を歩きながら、僕はふと前世の記憶を反芻していた。
椿真次として生きた時代、中学、高校と、僕の入学式に両親の姿はなかった。仕事に追われる彼らにとって、息子の節目は「形式上の行事」に過ぎず、僕はいつも一人で冷たい体育館のパイプ椅子に座っていた。
(……一人で出席するのが、僕にとっての『当たり前』だったのに)
だが、講堂の重厚な扉が開かれた瞬間、視界に飛び込んできた光景に胸の奥が微かに揺れた。
魔法学校の入学式。それはこの国において、未来の戦力と指導者を披露する最重要儀式だ。会場の両脇に設けられた貴族専用の貴賓席。そこには、僕の新しい「家族」の姿があった。
義父、エイナス・アルベール侯爵。
端正な顔立ちに、知性を湛えた緑の瞳と深い緑の髪。彼は僕と目が合うと、宰相としての厳格な面を崩さず、それでいて誇らしげに小さく頷いて見せた。
そして、その隣に座る義母、ミリア・アルベール侯爵夫人。
鮮やかな青い髪と、透き通るような青い瞳。彼女の顔を見た瞬間、僕は息が止まりそうになった。
ミリアは、僕の亡き実母メアリの妹――つまり僕の叔母にあたる。その容貌は姉であるメアリと瓜二つだった。温厚で少し病弱な彼女は、無理を押して出席してくれたのだろう。膝にかけた毛布の上で、僕に向かって優しく手を振っている。
「リンネ、お母様がこっち見てるわよ。……泣きそう?」
隣でユーリが茶化すように囁く。
僕は「そんなわけないだろ」と短く返したが、視界がわずかに熱くなるのを否定できなかった。母を失ったあの日、火の海に消えたはずの面影が、今こうして僕の新しい生を見守っている。
式典は粛々と進んだ。校長の長ったらしい祝辞も、魔導士たちの派手なデモンストレーションも、僕の脳内では単なる物理現象の羅列として処理されていく。
式が終わり、僕たちは割り当てられた教室へと移動した。
一六〇センチの僕とユーリが教室の扉を潜ると、そこにはすでに先着していた生徒たちがいた。一七〇センチの長身で、金髪を輝かせているキースが真っ先に手を振ってくる。
「おっ、リンネにユーリ! 席、俺の近くが空いてるぜ!」
キースの陽気な声が、緊張感の漂う教室の空気を一気に解きほぐす。ティファとエリザも合流し、僕たちは教室の後方、窓際の席を確保した。
教壇に立った担任の教師が、静かに黒板を叩く。
「さて、今日から君たちは魔導士の卵だ。まずは互いを知ることから始めよう。……出席番号一番。自己紹介を」
いよいよ、偽りの「風属性」を纏った僕の、学園生活という名の「ハッキング」が始まる。
僕は椅子から立ち上がり、一歩前へ出た。
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