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リーンカーネーション・サーガ:極点物理の支配者 〜亡国の王子はルールスペースで世界の理を再構築する〜  作者: 八咫烏


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熱砂の港と無彩色の酸素

カストラート王国へ亡命してから、二年の月日が流れた。


十歳を迎えた僕――リンネ・アルベールと、従妹のユーリ。

 この世界では十歳から十五歳まで魔法学校に通うのが通例であり、僕たちもその例に漏れず入学を数日後に控えていた。獣人の血がもたらす成長は凄まじく、十歳にして僕たちの身長は160センチに達している。


大陸の南に位置するカストラートの陽光は、肌を焼くほどに鋭い。

 僕は緑に染めた髪を後ろで一つに結び、半袖のシャツに短パンという軽装で、王都南の港を歩いていた。


「ねえリンネ、あっちの店に綺麗な杖があったわよ!」


隣で同じ背丈の体を跳ねさせるユーリ。双子の兄妹(ということになっている)僕たちが並んで歩けば、道ゆく人々が「美しい姉妹だ」と溜息を漏らす。母譲りの整いすぎた顔立ちは、中性的な少年というより、勝気な美少女にしか見えないようだった。


活気ある港の喧騒の中、その「不純物」は突如として現れた。


「おい、待ちやがれガキッ! 帝国兵にぶつかってタダで済むと思ってんのか!」


怒声と共に、一人の少女が僕の横をすり抜けていく。ティファ・エヴァンス。商家の娘らしい質の良い服を着ているが、今は恐怖に顔を強張らせていた。

 背後からは三人の帝国兵。ただ肩がぶつかっただけの因縁を口実に、年端もいかぬ少女を路地裏へと追い詰めていく。港の人々は関わりを恐れ、蜘蛛の子を散らすように目を逸らした。


「……ユーリ、荷物をお願い。少し『掃除』してくる」


「えっ、ちょっとリンネ!? ……もう、あの子は!」


僕はユーリの制止を背に、音もなく地を蹴った。


***


路地裏の突き当たり。兵士たちがティファを壁際に追い詰め、卑俗な笑みを浮かべていた。


「へへ、いいツラしてるじゃねえか。お嬢ちゃん、身体で詫びを入れてもらおうか」


一人がいやらしく舌なめずりをしながら、ティファの肩に手をかけようとする。少女は絶望に瞳を潤ませ、ガタガタと震えていた。


「ねえ、何かいいことするの? だったらボクもまぜてよ」


冷ややかな、鈴の音のような声が路地に響いた。

 兵士たちが驚いて振り返る。そこに立っていたのは、場違いなほどに整った顔立ちをした、緑髪の「美少女」だった。


「……あ? なんだこの別嬪さんは。どこかの令嬢か?」


「おあつらえ向きだ。二人まとめて可愛がってやるよ!」


兵士の一人が下卑た笑みを浮かべて近づいてくる。僕は無表情のまま、一歩踏み出した。


「『支配空間(ルールスペース)』――定義:酸素分子の排斥(パージ)。」


僕を中心に、世界から「色彩」が消え去った。

 モノクロームの空間内、僕は僕自身の周囲を除き、大気から酸素だけを選択的に排除した。


「が……っ、はあ……っ!?」


突然、帝国兵たちの顔が土気色に変わった。

 喉を掻きむしり、目を見開いて虚空を掴む。肺は空気を吸い込んでいるはずなのに、血中に酸素が供給されない。脳が急速に機能を停止し、意識が闇に落ちる恐怖。

 リボルバーを抜く暇さえ与えない。わずか数秒で、三人の大男は泥水の上に重なって崩れ落ちた。


「不純物は、こうして取り除かないとね。……物理的に」


空間を解除すると、不快な魔力(ノイズ)と共に色彩が戻ってきた。気絶した兵士たちを見下ろし、僕は座り込んだままのティファに手を差し伸べる。


「大丈夫? 怪我はない?」


「……あ、あの……ありがとうございます。……お姉様?」


やはり女だと思われたか。訂正するのも面倒なので、僕は小さく苦笑いした。


「リンネ・アルベールーーーッ!!」


背後から、怒鳴り声と共にユーリが駆け込んできた。彼女は気絶した兵士たちを一瞥すると、僕の耳を力一杯引っ張った。


「あんたって子は! もし見つかったらどうするのよ、この馬鹿兄貴! お父様の立場も考えてっていつも言ってるでしょ!」


「痛いよ、ユーリ。……合理的に解決しただけだ」


「どこが合理的よ! はぁ……。ごめんなさいね、お嬢さん。この子、見た目は綺麗だけど中身がこれなのよ」


ユーリは呆れたように溜息をつくと、ティファの汚れを払って優しく微笑みかけた。


「私はユーリ。こっちの向こう見ずなのはリンネ。……怖かったでしょ? 気分転換に、近くのカフェで冷たい物でも飲みに行きましょう」


ティファはまだ信じられないものを見るような目で僕を見つめていたが、ユーリの明るさに導かれるように、小さく頷いた。


八歳のあの日、すべてを失った僕の「ルール」が、この熱い港町で新しい歯車を回し始めていた。


挿絵(By みてみん)

本日もお読みいただきありがとうございます!

14年前に書いた思い入れのある作品を、今の全力で毎日リメイク投稿しております。

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