鋼鉄の審判、ヘルシンキに轟く
雪に覆われたヘルシンキ平原の先に、帝国軍が占領するヘルシンキ砦が姿を現した。帝国にとってこの地は自領の認識であり、防衛設備は魔法をある程度減衰させる特殊な壁面と、魔導結晶を用いた速射魔導砲が数門ある程度に過ぎない。
「距離2000。……敵の射程はせいぜい200メートルだ」
戦車のハッチから身を乗り出すリンネが冷静に告げる。砦の壁に並ぶ帝国兵たちは、魔導装甲(強化装甲)に身を包み、自慢の魔導砲を構えていたが、彼らの目にはまだ、遥か彼方に佇む「鉄の箱」の脅威は映っていなかった。
「……始めよう。一方的な、教育だ」
◇◇◇◇◇
ドォォォォォォォン!!
空気を震わせる轟音と共に、アハトアハトから放たれた徹甲弾が空を裂いた。
数秒後。魔法を弾くはずの砦の壁が、魔法反応すら起こす間もなく、圧倒的な物理エネルギーによって爆散した。
「な、何が起きた!? 敵の姿すら見えんぞ!」
帝国兵たちがパニックに陥る。魔導結晶による連射は確かに脅威だが、10倍以上の距離から、魔法耐性を無視して物理的に壁を粉砕してくる化け物を前に、帝国の「常識」は通用しなかった。
リンネは容赦なく次弾を装填させる。
「次、左翼の魔導砲。……撃て(フォイア)」
◇◇◇◇◇
戦車が雪原を蹴立ててゲートに肉薄すると、リンネはハッチから飛び出し、戦場の最前線へと踊り出た。その手には使い込まれたコルトガバメント。彼は走りながら脳内の「ルールスペース」を展開し、仮想世界でレールガンの加速機構を構築。実体化したタングステン弾をガバメントの銃身へと送り込む。
「最後は、僕が道を作る。――全軍、僕に続け!」
銃口から青白い放電が迸り、放たれたタングステン弾は音速を超え、衝撃波を撒き散らしながら鉄門を、そして背後の司令部までをも一直線に消し飛ばした。
「今だ、突撃!!」
リーンの咆哮に、後方に控えていた一千のエルウィン再興軍が魂を揺さぶられた。
「「「うおおおおおおお!! リーン殿下! リーン殿下万歳!!」」」
地響きのような歓声が上がり、兵たちは先頭を駆けるリーンの背中を追って砦へと雪崩れ込んだ。
◇◇◇◇◇
混乱の極致にある砦の司令室。狼狽える帝国軍司令官の前に、銀色に輝く銃を構えたリーンが立ちはだかる。司令官は腰の重厚な剣を抜き放ち、魔導装甲の出力を最大にして斬りかかった。
だが、リーンは銃を収めると同時に、腰に下げたタングステン製の刀を抜き放つ。
「ルールスペース、励起。――周波数固定―高周波ブレード!」
刀身が目に見えない速度で超振動を始め、キィィィィンという高周波の不協和音が室内に満ちる。高周波ブレードと化したその一撃は、帝国の誇る魔導装甲を、まるで熱したナイフでバターを切るかのように、抵抗もなく両断した。
「エルウィンを汚した罪、その命で購え」
断魔の閃光。司令官は断末魔すら上げられず、その場に崩れ落ちた。
砦の頂、瓦礫の山でリーンが旧エルウィン王国の王旗を掲げると、一千の兵士たちが狂ったようにリーンの名を連呼した。
「「「リーン殿下万歳!! エルウィン万歳!!」」」
その熱狂の渦を後方から見つめる第二王子・アルベールの掌には、弟への賞賛ではなく、自分を脅かす存在への焦燥感からくる冷や汗が滲んでいた。
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