銀嶺の咆哮、亡国の王子の決意
カストール王国とウルク帝国の国境線。激戦に次ぐ激戦で疲弊した両軍は、折しも降り始めた雪と、これ以上の消耗を避けるための軍備再編を理由に、一時停戦に合意した。
静寂が支配する戦場。だが、その静寂は次なる嵐の前触れに過ぎなかった。亡国エルウィンの第二王子、アルベール・ウィンディー・エルウィンが、祖国奪還の第一歩として、帝国領との境界に位置する要衝「ヘルシンキ砦」の攻略を決断したのだ。
アルベールはこの作戦の成否を分ける切り札として、一人の少年を招集するため、リオン遊撃隊隊長リオン・ウィード・ヴォルタールを密使として放った。
◇◇◇◇◇
リンネの自邸。そこには、学園祭の騒動を乗り越え、絆を深めたユーリ、ティファ、エリザ、キースたちが集まっていた。そこへ、かつての恩師であるリオンが姿を現す。リンネはただならぬ気配を感じ、リオンを別室へと促した。
重い扉が閉まると同時に、リオンはその場に跪き、騎士の礼を取った。
「――お久しぶりでございます、リーン殿下。いえ、エルウィン王国第四王子殿下とお呼びすべきでしょうか」
「……リオン先生、その呼び方はやめてください。僕は今はただのリンネです」
苦い顔をするリンネに、リオンはアルベール王子の招集と、砦攻略への協力を静かに、しかし切実に求めた。
◇◇◇◇◇
「……やっぱり、リオンさんが来たってことは、そういうことなのね」
扉を勢いよく開けて入ってきたのは、ユーリだった。彼女は最初から、リンネが亡国の王子であることを知っていた数少ない理解者だ。動揺を見せないユーリに対し、廊下で聞き耳を立てていたティファが、顔を真っ白にして部屋に飛び込んできた。
「ちょ、ちょっと待って……! リンネが、エルウィンの王子様!? 亡くなったはずの第四王子だったっていうの!?」
椅子をひっくり返さんばかりの勢いで驚くティファに続いて、エリザとキースも呆然とした表情で部屋を覗き込む。
「王子様が、あんな泥まみれで魔導回路をいじってたのかよ……」
「信じられない……。でも、リンネがリンネであることに変わりはないわ」
リンネは一人で行くつもりだったが、仲間たちの瞳には既に迷いはなかった。ユーリがリンネの隣に立ち、リオンを真っ直ぐに見据える。
「リオンさん。リンネ一人を行かせたりしません。私たちも、その戦いに行きます」
ティファたちも、驚きを飲み込み、力強く頷いた。
◇◇◇◇◇
出発の朝。リンネがいつか来る帝国との決戦のために密かに開発し、調整を続けてきた「切り札」がその姿を現した。長大な88ミリ砲を搭載した重戦車だ。
冬の冷たい空気の中、リンネを育てた義父が若者たちの前に立った。
「……リンネ、そして皆。多くは語らん。だが、必ず全員が生きてこの家に戻ると、私に約束してくれ。一人の欠員も許さん」
厳格な義父の声がわずかに震えている。リンネたちはその言葉を深く胸に刻み、敬礼を返した。
一方、義母はそっとユーリの手を取り、優しく抱きしめた。彼女はユーリがリンネに抱く、家族以上の深い想いを察していた。
「ユーリ。……あの子のこと、お願いね。あの子の心を支えられるのは、あなたしかいないから」
「はい、お母さん。……必ず、リンネと一緒に帰ってきます」
母の温もりに背中を押され、ユーリは決意を新たにした。
雪が激しさを増す中、アハトアハトのエンジンが重低音を響かせ、大地を震わせる。亡国の王子の旗を掲げ、鋼鉄の獣は凍てつくヘルシンキ砦へと向けて進軍を開始した。
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