天空を射抜く杭、極大投射の理
空に咲く黒い花――八八ミリ高射砲の弾幕を潜り抜け、満身創痍の銀翼が高度を上げていく。
二番機のエンジン一つが火を噴き、四番機の尾翼が欠けながらも、ダニエル少佐率いるB-29の編隊は、死の包囲網を脱しようと必死の加速を続けていた。
「高度一万を突破! 地上の火薬兵器の射程外だ。……ヴィクター、生き残った機体で体勢を立て直す。この屈辱、必ずや倍にして返してやるぞ」
コックピットで血を流しながら、ダニエルは地上の「鋼鉄の塔」を睨みつけた。
だが、その塔の頂上で、一人の少年が愛銃のグリップを握り直していることには気づいていなかった。
―水の緩衝材、絶対の固定―
「……逃がさないよ。君たちが連れてきた『死』の報いは、空の上で受け取ってもらう」
僕は第五高射砲塔の縁に立ち、コルト・ガバメントを水平に構えた。
これから放つのは、拳銃弾をマッハ12.5まで加速させる電磁投射。その反動は、僕の華奢な体など一瞬で粉砕し、塔ごと吹き飛ばすほどの質量エネルギーだ。
「ユーリ、僕を止めてくれ。一ミリも動かさないで」
「任せて! ――『水竜の雫』、共鳴……最大出力!!」
ユーリが掲げた「水竜の雫」から、膨大な魔力が溢れ出す。
それは柔らかな、しかし鉄よりも硬い**「水の緩衝材」**となって僕の全身を包み込んだ。水魔法特有の粘性と圧力が、僕を塔の床面と完全に一体化させ、あらゆる衝撃を吸収・相殺する「絶対的な砲架」へと変える。
― 極大電磁投射―
「……よし。定義開始」
僕は脳内の演算を極限まで引き上げ、**『ルールスペース』**を空間に固定した。
定義: 銃口から延長五十メートルを「超伝導レール」として仮想構築。
定義: 弾道上の空気抵抗をゼロに固定。
ガバメントの銃身から、青白いプラズマが糸を引くように伸びていく。
ユーリが「水竜の雫」で増幅した魔力を、僕はそのままレールガンの電力ソースとして「変換」し、仮想レールへと流し込む。
「目標、敵一番機。……放てッ!!」
――ッギィィィィン!!
大気が断裂する高周波の音が響く。
ガバメントから放たれた弾丸は、銃口を出た瞬間に加速を開始。ユーリの「水の緩衝材」が、発射の瞬間に僕を襲った数トンの反動を完璧に受け止め、塔の下へと逃がした。
地上から雲の上まで、一瞬だけ青白い「光の杭」が打たれたかのように見えた。
―衝撃波の爪痕―
B-29の一番機――ダニエルの座乗機の直下で、空気が爆発した。
直撃ではない。弾丸が、機体のわずか数メートル横を通過したのだ。
だが、マッハ12.5で運動する物体が引き起こす衝撃波は、もはや物理的な質量兵器に等しい。
「なっ……!? 右翼が……消えた!?」
ダニエルが叫ぶ暇もなかった。超音速の衝撃波に触れた瞬間、厚いジュラルミンの右翼が、紙細工のように根本からねじ切れ、一瞬で蒸発した。
さらに、弾丸はそのまま上空へ突き抜け、背後にいた三番機の胴体を「真空の刃」となって一文字に貫通した。
「……計算通りだ」
僕は熱を帯びて青く変色したガバメントの銃身を見つめた。
ユーリの魔法によるサポートがなければ、今頃僕は衝撃でバラバラになっていただろう。彼女は肩で息をしながらも、「水竜の雫」の輝きとともに僕を守りきった。
4. 戦火の幕引き
翼を失ったダニエルの機体が、死の舞踏を踊るように回転しながら、雲の彼方へと落下を始める。
生き残った二機のB-29は、もはや戦意など微塵も残っておらず、黒煙を吹きながら帝国の方向へと敗走していった。
「……終わったのね、リンネ」
「ああ。……でもダニエルは、僕たちが『物理』で戦う術を持っていることを知った。次はもっと、狡猾な手段で来るはずだ」
魔法を信じない少年と、最高の魔力を持つ少女。
二人の「計算」と「魔法」が、世界最強の軍勢を空から引きずり下ろした。
王都の空には、平穏を告げる秋の風が吹き抜けていた。
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