帝国の空爆開始。B-29の咆哮と、88mm高射砲の初陣
その音は、地平線の彼方から不気味な「震え」としてやってきた。 カストラート王国の王都。平和な朝を切り裂いたのは、魔物の咆哮でも、魔法の爆発音でもない。四発のライト・サイクロン・エンジンが奏でる、重厚で威圧的な金属の重低音――**『B-29』**の爆音だった。
「……来た。高度九千、予測通りだ」
王都北方に聳え立つ第五高射砲塔。
その屋上で、僕は測距儀を覗き込みながら呟いた。
雲一つない蒼穹の彼方、太陽の光を反射させながら飛来する、銀色の十字架が四機。
「リンネ、見えるわ! あの銀色の鳥……なんて速さなの!?」
隣で水魔法の「遠見のレンズ」を展開するユーリが、顔を強張らせた。
彼女の視覚は、僕のルールスペースと共鳴し、敵機の正確な座標を脳内に直接投影している。
「怯まなくていい、ユーリ。……この高度なら、僕たちの『理』が届く」
◇◇◇◇◇
―「超空の要塞」対「鋼の巨塔」―
B-29のコックピットで、ダニエル・ノートン少佐は眼下に広がる王都を見下ろし、忌々しげに奥歯を噛み締めた。 かつて五機編成だった彼の艦隊は、数年前、当時まだ子供だったあの「白髪の小僧」によって一機を撃墜されている。
あの日以来、彼の自尊心には消えない傷が刻まれていた。
「ヴィクター、見ろ。あんな巨大な石塔を建てて、我々を迎え撃つ気らしい。……中世の連中が考えることは、相変わらず的外れだな」
「少佐、あの高度まで魔法が届くとは思えませんが……」
「当然だ。この高度九千メートルは、この世界のあらゆる攻撃が届かない『絶対領域』だ。……全機、爆撃準備。切り札(原爆)を使うまでもない。今回の積み荷は**『M69焼夷弾』**だ。この木と石の街を、一滴の油も残さず焼き尽くしてやる」
ダニエルが爆撃開始のレバーに手をかけた、その時だった。
―88mm高射砲、斉射―
「全砲塔、連動開始。仰角八十五度。……信管設定、高度九千で空間固定」
僕はルールスペースを展開し、五基の砲塔に配置された二十門の**『88mm高射砲』**に意識を繋げた。 本来なら気圧や気温で変動するアナログな計算を、僕は「ルール」として上書きする。
定義:全弾丸の初速をマッハ2.5に固定。弾道誤差、ゼロ。
「放てッ!!」
――ズドドドドンッ!!
王都全体が震えるほどの衝撃波と共に、二十条の火柱が天を突いた。
魔法の光線ではない。火薬の爆発エネルギーによって押し出された、数キログラムの鋼鉄の塊が、重力を嘲笑うかのように垂直に上昇していく。
「なっ……!? 下から何か飛んできやがったぞ! 魔法じゃない、実体弾だ!」
B-29の機体周辺に、突如として**「黒い花」**が咲き乱れた。
―VT信管の洗礼―
ガガッ! ドォォォン!!
「直撃していない!? なぜ爆発する!?」
ダニエルが叫ぶ。これこそが僕の切り札、『近接信管(VT信管)』。
弾丸が敵機に「接近」しただけで爆発し、破片を撒き散らす物理の罠。
「ユーリ、風の魔力で破片を加速させて!」
「わかってるわ! ――『真空の刃』!!」
ユーリが空中に展開した風の魔法が、炸裂した砲弾の破片にさらなる指向性と速度を与える。
本来ならB-29の厚い外板を貫くには運が必要だが、僕たちの「物理」と彼女の「魔法」が合わさった時、それは回避不能な散弾の嵐へと変わる。
バリバリバリッ!!
編隊の端を飛んでいた二番機の左翼エンジンが火を噴いた。
「二番機、被弾! 油圧低下! 少佐、地上の連中、我々の高度を完全に読み切っています!」
「馬鹿な……!? 一体誰が……まさか、あの時の小僧か!?」
―降り注ぐ「火の雨」―
だが、ダニエルも歴戦の軍人だ。被弾しながらも、強引に機首を王都へと向ける。
「構わん、爆門開け! M69をバラ撒け! 街を火の海にしろ!」
爆弾倉から、筒状の物体が数千個、束になって放出された。
空中でバラけ、燃焼しながら落下してくるナパーム剤を充填した焼夷弾。
これが着弾すれば、王都は消せない炎に包まれる。
「……させないよ。ユーリ、第2段階だ」
「ええ! 水魔法・最大展開――『大気の涙』!!」
僕はユーリの魔力をルールスペースで増幅し、王都上空の「湿度」を局所的に飽和状態へと書き換えた。落下する焼夷弾の周囲に、強制的に巨大な雨雲を発生させ、酸素を遮断する。
「ダニエル・ノートン。君たちの『空の論理』は、僕がここで叩き落とす」
王都の空に、鉄と炎、そして霧が交錯する。
かつて一機を失ったダニエルの恐怖が、確信へと変わる。
地上にいるのは、魔法使いではない。自分たちと同じ、あるいはそれ以上の「科学と論理」を操る怪物なのだと。
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