国境の防衛戦。鉄の雨と、絶対障壁
カストラート王国の北門へと続く街道。
地平線を埋め尽くすのは、帝国の傲慢を形にしたような五千の軍勢だった。
先頭を行くのは、異世界の技師ヴィクターが「遊び半分」で設計したという五百機の強化装甲部隊。鈍く光る厚い鉄板を全身に纏い、蒸気と魔力の混合機関で駆動するその姿は、この世界の騎士たちにとってはまさに「動く要塞」だった。その後方に、一千の重装騎士団と三千五百の歩兵が、勝利を確信した足取りで続く。
「……リンネ、来たわよ。あの鉄の塊、魔法を弾く気満々ね」
塹壕の最前線、僕の隣でユーリが呟いた。彼女の左腕には、鈍く銀色に光る『アイギス』が装着されている。
「それでいい。彼らが信じている『鉄の防御』が、ただの重石に変わる瞬間を教えてあげよう」
僕は背後の塹壕に並ぶ軍勢を振り返った。
一千人の非魔導師兵には僕が量産したM1ガーランドを。そして、工兵隊の中でも希少な光魔法の使い手五百人には、僕が再設計した量産型フォトン・バレルを配備している。
「全軍、射撃用意。……引き金は、僕の合図で引け」
◇◇◇◇◇
帝国の指揮官が剣を振り上げた。
「突撃! 魔法の届かぬ距離から一気に踏み潰せ!」
五百の強化装甲が地響きを立てて加速する。彼らの想定では、カストラート軍が放つ火球や雷撃は、その厚い装甲に届く前に霧散するはずだった。
――五百メートル。
――四百メートル。
通常の攻撃魔法の有効射程を越えたその時、僕は右手を振り下ろした。
「――放てッ!!」
ドバババババンッ!!
戦場に、連続した爆音が轟いた。
一千丁のガーランドから放たれた鉛の礫が、目に見えぬ「鉄の雨」となって帝国軍を襲う。ヴィクターの装甲は、魔法の「面」の圧力を分散させるためのものであり、一点に衝突する超音速の「質量の暴力」を想定していない。
装甲を貫通し、内部の操縦者をズタズタにする弾丸。一発では耐えられても、八連発のクリップが吐き出す弾幕の前では、どんな鉄板も無意味だった。
◇◇◇◇◇
だが、生き残った強化装甲が強引に距離を詰めてくる。
ここで、僕は次の合図を送った。
「工兵隊、フォトン・バレル起動! ユーリ、風と水の補助を!」
「了解! ――『流体収束』、展開!」
ユーリが水竜から魔力を分けてもらい、風と水の魔力を編み上げ、フォトン・バレルの銃口前方に「レンズ」を形成する。
五百人の光魔法使いが引き金を引くと、純粋な光の奔流がユーリの作った魔力レンズを通過した。水魔法が光を極限まで屈折・収束させ、風魔法が空気の熱膨張を抑えて直進性を固定する。
――キィィィィン!!
放たれたのは、単なる光線ではない。高密度に圧縮された熱線レーザーの束だ。
その光は強化装甲を「貫通」するのではなく、瞬時に鉄板を「蒸発」させ、溶断した。先頭の数機が、まるで熱したナイフを押し当てられたバターのように両断され、爆発四散する。
◇◇◇◇◇
「怯むな! リボルバーとカノン砲で応戦しろ!」
パニックに陥った帝国軍が、ダニエルから与えられた旧式兵器を乱射する。
「ユーリ、展開!」
「任せなさい!――『絶対障壁』!!」
ユーリが腕を掲げると、前面に青白い六角形の光壁が展開された。
砲弾がアイギスに触れた瞬間に砕け散る。
あらゆる運動エネルギーをゼロに固定するこの障壁の前では、帝国の「遊び道具」など無力に等しかった。
◇◇◇◇◇
僕は腰の『コルト・ガバメント』を抜いた。
「ユーリ、障壁を維持して。……指揮官を排除する」
僕はルールスペースを銃身に重ね合わせる。
摩擦係数をゼロに。磁気導体を付与。電磁誘導加速軌道を構築。
――ドォォン!!
拳銃とは思えない雷鳴。
音速の五倍を超えた一弾は、後方で指揮を執っていた帝国軍将校を、その背後の馬ごと「蒸発」させた。
沈黙が戦場を支配する。
五千の軍勢は、わずか数分の「物理学の蹂躙」によって三割を失い、完全に戦意を喪失していた。
「……撤退だ! 奴らは悪魔だ!」
敗走する帝国軍。
僕は熱を持ったガバメントをホルスターに収め、静かに息を吐いた。
「ダニエル少佐。君が『遊び』で流した技術は、この世界の命を奪うには十分すぎた。だから僕は、それを『教育』で上書きさせてもらったよ」
僕はユーリの肩を叩き、マリアンヌの墓標がある丘の方角を一度だけ見つめた。
これが初戦だ。エルウィンを、故郷を取り戻すための計算は、まだ始まったばかりだ。
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