鉄の咆哮、量産の理
カストラート王国の地下工房には、かつての魔導具製作所にはなかった、鋭く冷たい金属の匂いが充満していた。
作業台の上には、ジョーンズ軍曹の部隊から鹵獲した未知の兵器が並んでいる。
「……なるほど。これが『火薬』という化学エネルギーを、閉鎖空間での膨張圧力に変換し、鉛の塊を放つ機構か」
僕は『M1ガーランド』と『コルト・ガバメント』を、ルールスペースの精密スキャンによって分子レベルまで分解・解析した。
魔法回路を一切持たない、純粋な物理法則の結晶。それは魔力を持たない僕にとって、最も信頼に足る「対話」の手段だった。
◇◇◇◇◇
「ルールスペース・フェーズ2――『等価量産』」
僕は解析した設計データを空間に固定し、王城の備蓄庫から運び込ませた高質の鋼材を、分子配列ごと組み替えていく。本来、ダニエル・ノートンら異世界人が帝国に提供しているのは、リボルバーや初期の鉄製戦艦といった「時代遅れ」の技術に過ぎない。彼らにとってこの世界の住人がどうなろうと知ったことではなく、帰還の手段を探すための片手間に協力しているだけだからだ。
だが、彼らが秘匿していた『M1ガーランド』を、僕は手に入れた。
カシャン、カシャン、と小気味よい金属音が響き、寸分違わぬパーツが次々と作業台に積み上がっていった。
「リンネ、王城から工兵たちが到着したわよ」
ユーリが、当惑した表情の工兵たちを連れてきた。彼らは、魔法を使わぬ「鉄の筒」を前にして、どう扱えばいいのか戸惑っている。
「集まってくれ。今日から君たちには、この『自動小銃』と『拳銃』の組み立て、およびメンテナンスを覚えてもらう」
僕は工兵たちに、1000丁分のパーツを分配した。
フォトン・バレルは強力だが、製造に高度な魔導技術を要し、魔力のない兵士には扱えない。だが、この銃火器なら、引き金を引く指さえあれば誰でも死神になれる。
「これは魔法ではない。物理だ。正しく組み立てれば、君たちは魔導師を凌駕する射程と連射力を手にする」
◇◇◇◇◇
数日間にわたる指導の末、地下工房には1000丁の『M1ガーランド』が整然と並んだ。
弾薬もまた、鹵獲した成分を元に、ルールスペースで雷汞と無煙火薬を合成し、数万発を量産した。手榴弾も同様だ。
「……壮観ね。これが全部、あの音速の弾を吐き出すわけ?」
ユーリが、完成したばかりのガーランドを手に取って呟く。
「ああ。これで行き渡らない人員の兵装問題は解決する。十万の地上軍が来ようと、この『鉄の雨』からは逃げられない」
僕は自分用に、一丁の『コルト・ガバメント』を選び、腰のホルスターに収めた。
これは単なる拳銃ではない。僕がルールスペースを重ね合わせれば、銃身をレールガンの加速軌道へと一時的に書き換え、音速の数倍で弾丸を撃ち出す「決戦兵装」へと変貌する。
◇◇◇◇◇
準備が整ったその時、義父エイナスが慌ただしく工房に姿を現した。
「リンネ! 帝国の先遣隊が国境を越えた。その数、およそ五千! 奴ら、技師が遊びで作ったという『強化装甲』を纏っている!」
僕はガバメントのグリップを強く握った。
ダニエルはこの侵攻には加担していない。彼らにとって帝国軍の勝利など無価値だ。だが、その無関心のせいで流出したわずかな「遊び道具」が、この世界の住人にとっては絶望的な脅威となっている。
「……丁度いい。彼らが秘匿したかった『次世代の暴力』で、その遊び道具を粉砕してやります」
僕はユーリに視線を送った。彼女は静かに頷き、左腕の『アイギス』を起動させる。
「行こう、ユーリ。マリアンヌの墓標に、最初の勝利を報告しに」
僕たちは、1000丁の鉄の咆哮を携え、硝煙の渦巻く最前線へと向かった。
物理と魔法、そして異世界の知識が交錯する、真の「戦争」が幕を開けようとしていた。
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