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リーンカーネーション・サーガ:極点物理の支配者 〜亡国の王子はルールスペースで世界の理を再構築する〜  作者: 八咫烏


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幕間:鋼の巨鳥、異空に墜つ

1945年、太平洋上空。

高度三万フィートを維持する五機の『B-29』――超空の要塞。

その銀色の機体は、太陽の光を跳ね返し、静謐な死の使いのように雲海を切り裂いていた。

編隊の中央を飛ぶ一機には、人類の歴史を不可逆的に塗り替える「特別な貨物」が積み込まれている。コードネーム『テスト用原子爆弾』。その質量がもたらすであろう熱線と衝撃波の観測、そして護衛が、ダニエル・ノートン少佐率いるこの飛行隊の任務だった。


「……こちらダニエル。全機、異常はないか」


『こちら二番機、オールグリーン。少佐、この空は静かすぎます。まるで鏡の中を飛んでいるようだ』

通信機越しの部下の声が、妙に遠く感じられた。  突如、機体を包み込んだのは、気象予報にはなかった**「墨のような濃霧」**だった。


「なんだ、この霧は……。全機、高度を上げろ! 雲の上に出るぞ!」


ダニエルは操縦桿を引き絞った。四基のライト・サイクロン・エンジンが咆哮を上げ、過給機が悲鳴を上げる。

しかし、高度計の針はピクリとも動かない。

それどころか、エンジンの回転数は上がっているのに、機体はまるで見えない力に押さえつけられるように、霧の深淵へと吸い込まれていった。


「計器が狂っている! 磁気嵐か!? 方位磁針が独楽のように回っていやがる!」


視界が白銀から灰色、そして完全な闇へと塗り潰された瞬間。

耳を突き刺すような高周波の耳鳴りが響き、ダニエルの意識は一瞬だけ、真空の底へと沈んだ。


◇◇◇◇◇


静寂が戻ったとき、霧は嘘のように晴れていた。

だが、眼下に広がるのは、蒼い太平洋ではなく、果てしなく続く**「黄金色の草原」**だった。


「……どこだ、ここは。大陸だと? 進行方向にこんな陸地があるはずがない」


燃料は底をつきかけていた。高度を保つことができず、エンジンの一基から黒煙が上がる。ダニエルは即座に決断を下した。


「全機、動力降下。あの平原に不時着する! 機体を壊すな、貨物を守れ!」


銀色の巨鳥たちが、激しい砂煙を上げて草原にその腹を擦りつける。

ひしゃげる外板の悲鳴。爆風のような静止の衝撃。

ダニエルは額から流れる血を拭い、拳銃(コルト・ガバメント)を手に取って機外へ飛び出した。


「生きている奴はいるか!? ヴィクター! 貨物は無事か!」


「なんとか……生きていますよ、少佐。ですが、ここは……」


ハッチから這い出してきた技師ヴィクターが、呆然と周囲を見渡した。

彼らを囲んでいたのは、槍や原始的な弓を手にした、見たこともない「怪物」たちだった。

狼の耳、虎の牙。

それを持つ人型の生物――獣人の集団が、空から墜ちてきた鉄の巨獣を、畏怖と敵意の入り混じった眼差しで見つめていた。


「少佐、奴ら……仮装にしちゃ、耳の動きが自然すぎですな」

「ああ、認めたくないがな、ヴィクター。どうやら俺たちは、地図の書き漏らしを踏み抜いたらしい」


一触即発の緊張。  その獣人の群れを割って、一頭の巨大な白い竜が舞い降りた。

竜の背から、一人の青年が優雅に飛び降りる。

金と青の左右非対称な瞳。

若き日のアドリアン・アレキサンドルⅥ世――当時はまだ、帝国の「第二王子」と呼ばれていた男だった。

アドリアンは、目の前の壊れた鉄の巨鳥と、異質な服を着た人間たちを興味深げに眺めた。

それから、ダニエルの腰にあるガバメントを指差し、不敵に微笑む。


「……面白い。その『鉄の道具』、そして空を駆ける技術。我が大陸の魔法とは、根本から論理が異なるようだな」


アドリアンは獣人たちを下がらせ、ダニエルの目の前まで歩み寄った。


「貴公らの名は? ……いや、名など今はどうでもいい。その『力』、死蔵するには惜しい代物だ」


ダニエルは銃口を下げず、相手を睨み据えた。 「俺たちはアメリカ合衆国軍人だ。ここはどこだ。文明のある場所へ案内してもらおうか」


「文明か。ならば、俺が作ってやろう。……異邦人よ、俺の覇道に付き合え」


アドリアンは、まるで世界のすべてが自分の所有物であるかのように、広大な草原を指し示した。


「この大陸は退屈に満ちている。旧態依然とした魔法と血筋に縛られたこの世界を、俺が塗り替える。……従え。さすれば、そなたらの『帰還』のために、この国の資源と魔力をすべて提供してやろう」


ダニエルはヴィクターと視線を交わした。

計器は死に、無線はノイズしか拾わない。

唯一の帰還の望みは、目の前の「野心」を瞳に宿した王子だけだった。


「……帰れるんだな? 嘘だったら、あんたの頭をこの弾丸でぶち抜くことになる」


「約束しよう。俺の望みは大陸の統一だ。貴公らの『鋼の論理』があれば、それは容易い」


これが、後の『黒竜将軍』ダニエル・ノートンと、ウルク帝国皇帝アドリアンの契約――**「地獄の産業革命」**の始まりだった。  異世界に墜ちた原爆と五機のB-29。その存在が、この世界の理を根底から狂わせることになるとは、その時の彼らにはまだ知る由もなかった。

本日もお読みいただきありがとうございます!

14年前に書いた思い入れのある作品を、今の全力で毎日リメイク投稿しております。

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