キャビテーションの鉄槌
帝国軍の鋼鉄艦内。
白衣を纏った異世界人、ヴィクター・メンゲレの前に、キースはグロムが試作した『収束光投射筒』を構えて対峙していた。
「……無駄だと言ったはずだ。我々『人間』に魔法は効かない。不確定なマナの術式など、私という真理の前では無に等しい」
ヴィクターが操る強化甲冑が迫る。ユーリが放った水弾は、彼の体に触れる直前に霧散した。
「キース、今だ! 魔法そのものではなく、その先の『物理現象』をぶつけるんだ!」
「おうッ! 喰らいな……全開バリバリだ!」
キースが叫び、バレルのトリガーを引く。
バレルに光のマナを注ぐ。通常なら拡散するはずの光が、内壁の耐熱鏡で反射を繰り返し、鋭い一条の線となる。
ティファの風が光を束ね、エリザがバレルの先端に真空の層を作る。そしてユーリが、悲鳴を上げる魔石に限界まで冷気を流し込んだ。
――チィィィィィィンッ!!
放たれた極細の熱線が、ヴィクターの右肩を掠め、背後のゴーレムの装甲を瞬時に赤熱・融解させた。
「な……!? 魔法を消去したはずなのに、熱が……装甲が溶けているだと!?」
「ヴィクター。君は術式を消せても、収束された光がもたらす『熱量』という物理現象までは消せない。フォトン・バレルは、魔法を『物理的な暴力』へと変換する装置なんだ」
「……出力、限界。……バレルの温度、臨界点突破。ユーリ、最大冷却を」
エリザの警告に、ユーリが必死にバレルを抱え込む。蒸発する水蒸気の中で、彼女の瞳が青く輝いた。
「リンネ、キース! 次で決めて!!」
◇◇◇◇◇
艦底に風穴を空け、小竜たちを救出した僕たちは、島を離れる間際に水竜の元へ戻った。
水竜は深く頭を下げ、その大きな瞳から溢れた一滴の雫を、そっとユーリへと差し出した。
「……リンネ、これ。ユーリが持っていてほしいって、竜さんが言ってる」
それは澄み渡る青い光を放つ、**『水竜の雫(遠隔マナ受信用結晶)』**だった。
ユーリがそれを手に取った瞬間、地底湖の全マナが、まるで一本の糸で繋がれたように彼女へと流れ込んだ。
「……高密度の、水属性マナ。……これは、ただの宝石じゃない。……水竜との、専用回線」
エリザの分析に、僕は目を見開いた。
「……なるほど。これがあれば、ユーリはどこにいても水竜から膨大なマナを供給される『移動式中継局』になれるということか」
「あ……。リンネ、わかるわ。この雫を通して、水竜さんの力が流れ込んでくる……。これがあれば、私、もっと強力にキースのバレルを冷やせる。それだけじゃなくて……」
ユーリの背後に、巨大な水の翼が幻視される。
キースの『フォトン・バレル』はあくまで出力を放つ「出口」に過ぎない。だが、ユーリが手に入れたこの雫は、システム全体の出力を底上げする「エネルギー源(心臓部)」そのものだ。
「すごいよ、ユーリ。君がこのシステムの『核』になったんだ。水竜のマナを遠隔で受信し、キースのバレルに供給すれば……次に出会う時、あのヴィクターのゴーレムは、ただの鉄屑になるだろうね」
「うん! 私、リンネの描く未来のために、この力を使いこなしてみせるわ!」
バカンスの終わりに得たのは、強力な新兵器と、それを運用するための無限に近いエネルギー(ユーリの雫)。
僕たちは、帝国という巨大なシステムを「物理」で解体するための、完璧なユニットへと進化を遂げたのだ。
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