紺碧の休息と、深淵の守護者
青い空、白い砂浜、そして眩しい日差し。
アルベール侯爵家所有のプライベートアイランド「アクアマリン島」でのバカンスは、僕の予想以上に「賑やか」なものとなった。
「リンネ、見て! この海、透き通って底まで見えるわよ!」
清楚で白色の大胆なビキニ姿のユーリが、波打ち際で僕を呼んでいる。
彼女の白く柔らかな肌が太陽に照らされ、眩い。
「……計算通り。屈折率が極めて低く、透明度が高い。良質なプランクトン管理の結果だね」
「もう、そういう理屈はいいのよ! はい、あーん。これ、島特産の冷えたマンゴーよ」
僕はユーリに押し切られる形で、砂浜に敷いたパラソルの下、彼女からフルーツの「あーん」を受けていた。キースは体を砂に埋めて「これが貴族の夏か……」と絶望とも悦楽ともつかない声を上げている。
「リンネ様、あの……。私の、この水着、変じゃないでしょうか……?」
ティファが、フリルの付いたビキニの水着を恥ずかしそうに押さえながら、僕の隣に座った。
彼女の整ったラインは、この青い海によく映えている。
「……似合っているよ、ティファ。光を反射して、君の清潔感を際立たせている」
「……あ、ありがとうございます……!」
その時、波打ち際に一人立っていたエリザが、静かにこちらを振り返った。
緑の機能的な水着に身を包んだ彼女は、まるで海から現れた精霊のようだ。
「……休息、終了。島の奥地……強い、マナの歪み。確認、すべき」
エリザの淡々とした言葉に、僕は意識を切り替えた。
この島には古い伝説がある。島の最奥にある洞窟には、かつて王国の守護を担った「水竜」が眠っているという。
「……行こうか。バカンスの続きは、探検の後だ」
***
島の中心にそびえる火山の麓、植物に覆われた巨大な岩の裂け目。
それが洞窟の入り口だった。
奥へ進むほど空気は冷え込み、湿気が肌にまとわりつく。
僕は『ルールスペース』で周囲の地形をマッピングしながら、暗闇の中を進んだ。
「……静かすぎる。風が、止まっている。……不自然」
エリザが呟く。
彼女の言う通り、洞窟内は本来あるはずの空気の対流が死んでいた。
やがて僕たちは、洞窟の最奥――地底湖へと辿り着いた。
天井から降り注ぐ微かな光が、青く澄んだ水面を照らしている。そして、その湖の中央に横たわっていたのは、全長二十メートルはあろうかという、美しくも痛々しい巨躯だった。
「……あれは、古代の水竜?」
ティファが声を震わせる。
透き通るような青い鱗を持つその竜は、しかし、その腹部に巨大な「黒い槍」が突き刺さっていた。槍の周囲からは魔力が漏れ出し、湖の水を汚染し、竜の生命力を削り取っている。
「グルゥ……ッ……」
水竜が僕たちの気配を察し、濁った瞳を向けてきた。激痛のせいか、その周囲ではマナが荒れ狂い、不用意に近づけば引き裂かれかねない。
「……重度の、外傷。及び、魔力汚染による敗血症に近い状態。……放置すれば、死ぬ」
エリザが冷静に分析する。ユーリが即座に杖を構えた。
「私が水魔法で浄化してあげる! このままじゃ可哀想よ!」
「待って、ユーリ。そのまま魔法を当てれば、竜の体内で拒絶反応が起きる。あの槍はただの武器じゃない。竜の固有振動数を狂わせ、細胞を内側から破壊する『対竜兵器』だ」
僕は一歩、水面に足を踏み入れた。
「キース、光で竜の瞳を眩ませてくれ。意識を逸らすだけでいい。エリザ、ティファ、僕が槍を引き抜く瞬間に、周囲の圧力を下げて出血を抑えてほしい。……ユーリは、僕が合図した瞬間に、傷口に『飽和食塩水』と同じ浸透圧の魔法水を流し込め。細胞の膨張を防ぐんだ」
「……了解。私は、あなたの指先を支える」
エリザが静かに手をかざし、洞窟内に真空の層を作り始める。
「……物理で、竜を救う。面白い試みだね」
僕は心の中で呟きながら、現代医学と物理学の粋を集めた「手術」を開始した。
復讐のために磨いたこの力で、失われるはずの命を繋ぎ止める。
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