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リーンカーネーション・サーガ:極点物理の支配者 〜亡国の王子はルールスペースで世界の理を再構築する〜  作者: 八咫烏


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収束する光と、見えざる砲身

 学園の敷地外れにある、現在は使われていない旧第三演習場。

分厚い石壁に囲まれたその場所で、僕の思い描く「兵器」の第一段階――光学兵器のプロトタイプ製作が始まろうとしていた。


「……準備、完了した」


エリザが静かに呟いた。彼女の視線の先には、三十メートルほど離れた場所に設置された分厚い鋼鉄の標的がある。

 僕の指示通り、エリザはその標的に向かって、直径十センチほどの「風のトンネル」を構築していた。中の空気を極限まで薄く――真空状態に保つための、魔力による隔壁だ。


「リンネ様、外周の圧力固定、ボクが引き受けます! エリザの真空が崩れないように、風の膜を二重にしますね」


ティファが真剣な面持ちでエリザの隣に立った。

彼女の持つ風の制御力は、エリザのような鋭利さはないが、広範囲を均一に保つ安定感に優れている。エリザが「真空の芯」を作り、ティファがそれを維持するための「外殻」を支える。

風属性二人による、完璧な**真空導管(バキューム・チューブ)**だ。


「助かるよ、二人とも。光が空気中の塵や水分で散乱するのを防ぐための『見えない砲身』だ。……キース、準備は?」


「おう! いつでもいけるぜ。けどよ、俺の光は辺りを照らすだけの……」


170センチの長身を屈め、キースが不安げに手元の巨大な魔晶石を見つめている。

彼の光魔法は出力こそ高いが、指向性がなく四方八方に散らばってしまうのが欠点とされていた。


「キースの光は『熱』のポテンシャルを十分に持っているよ。ただ、矢印の向きがバラバラなだけだ。……ユーリ、冷却を」


「任せて! 水の皮膜で魔晶石を包み込んでおくわ。リンネ、合図して!」


ユーリが魔晶石の周囲に薄い水の膜を張り巡らせる。光を極限まで収束させれば、副産物として膨大な熱が発生する。

魔石自体が自重で融解しないための、水属性による強制水冷システムだ。


「キース、魔晶石に光を注ぎ込んでくれ。全力だ」


「……分かった。俺の全力、見せてやるよ!」


キースが両手を魔石にかざすと、眩い閃光が放たれた。

通常なら周囲を無差別に照らすだけのその光を、僕は『ルールスペース』で捕捉する。


「『支配空間(ルールスペース)』――定義:全反射鏡(キャビティ)、及び誘導放出。」


魔晶石の内部構造の屈折率を書き換え、両端を完璧な「鏡」へと変える。

 キースの放った光の粒子(フォトン)は、外へ逃げることを許されず、魔石の内部で反射を繰り返し、幾万倍にも増幅されていく。

バラバラだった光の波長と位相が、一つの強大な「波」として完全に同調(コヒーレント)していく。


「……熱い! リンネ、魔石が保たないわ!」


ユーリが叫ぶ。水冷の皮膜が猛烈な勢いで蒸発し、白い湯気を上げていた。


「今だ、キース! エリザとティファのトンネルへ向けて、一点だけ『鏡』を解放しろ!」


「おおおおおッ!!」


キースの咆哮と共に、臨界点に達した光が魔石から解き放たれた。


――チィィィィィィンッ……!


爆発音はなかった。

 ただ、耳鳴りのような高周波の音と共に、一直線に伸びた「純白の線」が、二人の少女が作り上げた真空の砲身を駆け抜けた。


音が光を追い越すことはない。

 標的となった厚さ十センチの鋼鉄板は、衝撃を受けることもなく、中心に真ん丸な大穴を空けて赤熱し、ドロドロの鉄の涙を流して崩れ落ちた。さらにその背後にあった旧演習場の石壁すらも貫通し、奥の森の木々を炭化させてようやく光の線は消滅した。


「……標的、貫通。及び、融解。……恐ろしい光」


エリザが、その淡々とした瞳に微かな驚愕を浮かべて呟いた。


「すごい……鉄が、まるでお湯みたいに……。これが、リンネ様の理論なんですね」


ティファは荒い息をつきながらも、その光景に目を奪われていた。


「う、嘘だろ……?」


キースはへたり込み、溶解した鋼鉄を交互に見比べた。


「俺の、ただの『灯かり』が……こんなバケモノみたいな威力を……?」


「キースの出力、エリザとティファの砲身、ユーリの冷却。そしてボクの『指向性』の付与。これが、ボクたちが帝国を討ち果たすための新しい魔法……**光学熱線(レーザー)**だ」


僕は熱を持った魔石を冷やすユーリの頭を撫でながら、静かに告げた。


「えへへ、私の冷却とみんなの協力のおかげね!」とユーリが得意げに笑う。


「キース、怯えることはない。出力を絞り、光を点滅させれば、この技術は『数百キロ先まで一瞬で情報を伝える手段』になる。君の『国を豊かにしたい』という夢にも直結する力だ」


「……通信、か。なるほどな」


キースは力強く頷いた。


帝国を焼くための兵器は、こうして若き魔導士たちの手によって産声を上げた。

魔法至上主義のこの国で、物理法則という絶対の真理が、静かに牙を剥き始めた瞬間だった。


本日もお読みいただきありがとうございます!

14年前に書いた思い入れのある作品を、今の全力で毎日リメイク投稿しております。

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