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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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■ 第7話 変わるもの、変わらないもの

時間は、誰にでも平等に流れていく。


 けれど同じ一年でも、

 子供にとっての一年と、人生をやり直している者にとっての一年は、まるで重さが違う。


 変わっていくもの。

 変わらないもの。


 その両方を見ながら、俺は少しずつ前へ進んでいた。

小学校に上がった。


 桜が咲き、真新しいランドセルを背負って校門をくぐる。


 周りの子供たちは落ち着きなく騒ぎ、親たちは少し誇らしげな顔をしている。


 そんな光景を横目に、俺は妙に冷静だった。


 そりゃそうだ。


 中身は五十歳の男である。


 人生二周目で、ランドセルに感動するほど純粋ではない。


 とはいえ、少しだけ不思議な気持ちにはなった。


 もう一度、小学生からやり直している。


 前の人生では気づけなかったことを、今度は最初から見られる。


 それは、ある意味で贅沢なのかもしれない。


 入学式のあと、クラス分けが発表された。


 俺は一組。


 恒一は二組。


 別のクラスだった。


 少しだけ拍子抜けした。


 幼稚園の頃は自然と一緒にいたが、小学校に上がれば環境も変わる。


 それだけのことだ。


 だが、その“それだけ”が、少し胸に残った。


 もっとも、俺はもともと友達と群れるタイプではない。


 前の人生でもそうだったし、今も根本は変わらない。


 休み時間に大勢で騒ぐより、一人でいる方が気楽だった。


 周囲から見れば、少し変わった子供だったかもしれない。


 けれど構わなかった。


 俺には、やることがある。


 この人生では、前より上へ行く。


 そう決めていた。


 勉強は前倒しで始めていた。


 漢字も算数も、学校で習う内容は正直ぬるい。


 家でこっそり先の内容まで進める方が、よほど面白かった。


 問題があるとすれば英語だ。


 前の人生でも苦手だった。


 だからこそ今回は逃げない。


「お母さん、えいご、ならいたい」


 そう言ったとき、由香里は少し驚いた顔をした。


「英語? 徹が?」


「うん」


「すごいじゃない。どうしたの?」


 どうしたも何も、将来困るからだ。


 だがそんなことは言えない。


「なんとなく」


 由香里は笑いながら、「じゃあ調べてみるね」と言ってくれた。


 ついでに、ピアノも習い始めた。


 これは別に音楽家を目指すわけではない。


 ただ、前の人生で漠然と感じていた。


 芸能や人前に出る世界をやるなら、音楽の基礎はあって損しない。


 将来、事務所のようなものを立ち上げることになるなら、なおさらだ。


 もっとも、小学生がそんなことを考えているとは誰も思うまい。


 周囲から見れば、少し教育熱心な家庭の子供だ。


 それで十分だった。


 恒一とは、自然と会う機会が減っていた。


 クラスが違う。

 帰る時間も微妙にずれる。

 お互い新しい環境がある。


 子供同士の関係なんて、そんなもので離れていく。


 俺も特に追いかけなかった。


 前の人生で散々知っている。


 人との縁は、近づくときは近づくし、離れるときは離れる。


 無理に握っても仕方がない。


 そう思っていたある日の休み時間だった。


「とおる」


 声をかけられた。


 顔を上げると、教室の入口に恒一が立っていた。


 二組の名札をつけたまま、少し照れくさそうにこちらを見ている。


 久しぶりだった。


 毎日学校で顔くらいは見かける。


 だが、こうして真正面から話すのは、かなり久しぶりな気がした。


「よう」


 思わず、年齢不相応な返事をしてしまう。


 恒一は首を傾げた。


「よう?」


「……なんでもない」


 危ない危ない。


 中身が出すぎた。


 恒一は笑って、俺の机の横に来た。


「これ見て」


 差し出されたノートには、キャラクターのような絵が描かれていた。


 ロボットらしきもの。

 剣を持った少年。

 怪獣のような敵。


 線はまだ子供っぽいが、勢いがある。


 俺はその絵を見て、昔の記憶がふっと蘇った。


 ――そうだ。


 漫画家になりたいと思っていた時期があった。


 ノートに延々と落書きをして、物語まで考えていた。


 誰にも言わなかったけれど、本気で憧れていた。


「うまいじゃん」


「ほんと?」


「ほんと」


 恒一は嬉しそうに笑った。


 変わらないな、と思った。


 こいつはやっぱり俺だ。


 何年経っても、根っこのところは同じだ。


 夢中になるものに一直線で、不器用で、少し寂しがり屋だ。


「また、あそぼうぜ」


 恒一が言った。


 その言葉に、少しだけ胸が温かくなる。


「いいよ」


 俺は素直に答えた。


 そこからまた、恒一との交流が少しずつ戻っていった。


 毎日べったりではない。


 だが、たまに休み時間に話し、放課後に寄り道し、絵を見せてもらう。


 そのくらいが、今の俺たちにはちょうどよかった。


 一方で、俺のもう一つの楽しみも始まっていた。


 競馬だ。


 もちろん馬券は買えない。


 小学生だし、金もない。


 だが新聞やテレビで結果を確認することはできる。


 俺はG1だけはかなり覚えていた。


 誰が勝ったか。

 どの馬が強かったか。

 有名なレースほど記憶に残っている。


 だから、答え合わせのように結果を見ていた。


 そして――


 ちゃんと勝っている。


 記憶通りに。


 それは、妙な安心感だった。


 前の人生の記憶は本物だ。


 俺の中の知識は、使える。


 つまり。


 二十歳になれば、勝負できる。


 貯めた金を元手に、人生を一気に動かすことも不可能ではない。


 危ない考えだとは分かっている。


 だが、前の人生で何も持てなかった男にとって、その可能性は甘美だった。


 もっとも、今はまだ小学生だ。


 ランドセルを背負い、宿題をし、ピアノへ通い、英語教室でABCを習っている。


 そんな姿で人生逆転を企んでいるのだから、笑える話だった。


 夕方、家へ帰る道で空を見上げる。


 春の雲がゆっくり流れていた。


 変わるものもある。


 恒一との距離。

 俺自身の未来。

 この先の人生。


 だが、変わらないものもある。


 夢を見ること。


 何かをやり直したいと思うこと。


 そして――


 まだ見ぬ“君”へ繋がっていく、この道だ。


 そのときはまだ、何も知らなかった。


 この先、記憶通りにはいかない出来事が起こることを。

第7話を読んでいただきありがとうございます。


 今回は小学校編スタートとなりました。


 徹は着々と二度目の人生の準備を進め、

 恒一との関係も少しずつ新しい形に戻っていきます。


 そして、競馬の記憶が本当に通用することも確認できました。


 順調に見える徹の人生ですが、

 この先、少しずつ“記憶通りではない変化”も起き始めます。


 次回もよろしくお願いします。

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