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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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第69話 二月といえば

二月十四日。


いつもと同じ学校、いつもと同じ放課後。


……のはずなのに、今日は少しだけ空気が違う。


「俺たち、チョコもらえるかな」


そんな話をする男子たちの一方で、徹にはちょっと気になることがありました。


そして春子もまた、いつもとは少し違うようで……。


今回は、バレンタインのお話です。

「母さん、悪いんだけど、これ郵便局で出しておいてくれない?」


 朝食を終えた徹は、台所にいた由香里へ封筒を差し出した。


「郵便局?」


「うん。学校あるから行けないし」


「いいけど……」


 由香里は封筒を受け取ると、不思議そうに眺めた。


 少し厚みがある。


「何が入ってるの?」


「カセット」


「カセット?」


「うん」


「これ、誰に送るの?」


「ちょっと知り合いに」


「知り合い?」


 由香里が首を傾げる。


 徹は時計を見ると、鞄を手に取った。


「じゃ、行ってきます」


「いってらっしゃい」


 由香里は手元の封筒をもう一度見た。


「……カセット?」


 何のために送るのか分からないまま、封筒を台所の端へ置いた。


 二月に入ると、学校の空気も少しずつ変わっていった。


 三年生の卒業が近づき、校内では三年生を送る会の準備が始まっている。


 文化祭で演奏したバンドの中から三組が選ばれ、徹たちもその一組として出演することになっていた。


 演奏するのは二曲。


 一曲は、文化祭でも披露したインスト曲。


 もう一曲は『贈る言葉』だった。


 ただし、こちらも歌は入れないことになった。


 他にもバンドが出演する以上、歌ものにすれば選曲や雰囲気がかぶる可能性がある。


 それなら自分たちはインストでやってみよう。


 そう決めて、徹たちは新しいアレンジを考えていた。


 放課後。


 春子はギターで『贈る言葉』の主旋律を弾きながら、途中で手を止めた。


「春樹、そこからサックスでやってみない?」


「ここ?」


「うん。ずっとギターでメロディを弾くより、途中で変わった方がいいと思う」


「分かった」


 春樹がサックスを構える。


 もう一度、最初から演奏する。


 春子のギターで始まったメロディを、途中から春樹のサックスが引き継いだ。


 同じ旋律でも、楽器が変わるだけで印象が大きく変わる。


 最近はサックスの練習に力を入れているだけあって、春樹の音にも少しずつ安定感が出てきていた。


「いいじゃん」


 達也が演奏を止めて言った。


「俺もこっちの方が好き」


 こずえも頷く。


 春子は少し離れたところから春樹を見る。


「春樹、前より上手くなったよね」


「本当?」


「うん。ちゃんとサックスっぽい」


「前は何だったんだよ」


「サックスを持ってる春樹」


「ひどくない?」


 みんなが笑った。


 そんな、いつもの放課後。


 一月に春子と二人で出かけてからも、二人の関係が大きく変わったわけではなかった。


 告白したわけでもない。


 付き合っているわけでもない。


 学校では今まで通りだった。


 それでも徹には、以前とは何かが違うように感じられていた。


 特に二人になったときだ。


 話す距離が近い。


 以前よりもよく目が合う。


 そして春子は、目が合うとよく笑う。


 徹自身が春子への気持ちを自覚したから、そう感じるだけなのかもしれない。


 それでも、二人の間にあるものが少しずつ変わっているのは確かだった。


 数日後の放課後。


「徹、ちょっと来て」


 教室を出ようとしていた徹を、春子が呼び止めた。


「何?」


「いいから」


「なんだよ」


 そう言いながらも、徹は少し嬉しかった。


 春子は教室の隅へ向かう。


 窓際まで行くと、カーテンの陰へ少しだけ身体を入れた。


 完全に隠れているわけではない。


 ただ、教室に残っている生徒からは少し見えにくい。


「なんだよ、こんなところで」


「ちょっと聞きたいんだけど」


「何?」


 春子が徹を見る。


「徹って、お菓子何が好き?」


「……お菓子?」


「うん」


「なんだよ、急に」


「別に。ちょっと気になっただけ」


「そうだな……」


 改めて聞かれると難しい。


 甘いものを食べないわけではない。


 けれど、何が一番好きかと言われると。


「せんべいかな」


「せんべい?」


 春子が意外そうに聞き返す。


「うん」


「甘いものは?」


「食べるよ。饅頭とか好きだし」


「……なんか渋いね」


「そうか?」


「十四歳の答えじゃない気がする」


「ほっとけ」


 徹は苦笑した。


 考えてみれば、好みまで前世の影響を受けているのかもしれない。


「あっ」


 もう一つ思い出した。


「ティラミスは好きだな」


「ティラミス?」


「うん。あれは結構好き」


 前世でも好きだった。


 最近流行していると知ってからは、店で見かけると少し気になっていた。


「へえ、そうなんだ」


 春子はそれだけ言った。


「それだけ?」


「うん」


「何だったんだよ」


「だから、ちょっと聞いてみただけ」


 春子はカーテンの陰から出る。


「ほら、部活行くよ」


「……変なやつ」


 徹もその後を追った。


 結局、何のために聞かれたのかは分からなかった。


 ただ、わざわざ呼ばれて二人で話したことが、少しだけ嬉しかった。


 さらに数日後。


 放課後、部室へ向かう途中で達也が突然言った。


「なあ」


「何?」


「俺たち、チョコもらえるかな」


 徹は足を止めた。


「……チョコ?」


「もうすぐバレンタインだろ」


「ああ」


 そこでようやく思い出した。


 二月十四日。


 春樹も隣で笑う。


「達也、そんなこと考えてたの?」


「そりゃ考えるだろ。ゼロは寂しいじゃん」


「誰からもらうつもりなんだよ」


「さすがに春子とこずえはくれるだろ」


「なんで決定なんだよ」


「俺たち仲いいじゃん。義理くらいくれてもいいだろ」


「最初から義理なのか」


 徹が笑う。


「義理でも一個は一個だろ」


「必死だな」


 春樹が呆れたように言う。


「じゃあ春樹は、いらないのか?」


「もらえるなら欲しいけど」


「ほら」


「お前ほど期待してないよ」


 三人で笑いながら歩く。


 その途中。


 徹の頭に、数日前のことが浮かんだ。


『徹って、お菓子何が好き?』


「…………」


 春子の声が妙にはっきり蘇る。


 二月。


 お菓子。


 もうすぐバレンタイン。


(……いや)


 徹はすぐに打ち消した。


 たまたまだ。


 好きなお菓子を聞かれたからといって、それがバレンタインと関係しているとは限らない。


「どうした?」


 春樹に聞かれる。


「いや、何でもない」


 そう答えながらも、徹の中には小さな期待が生まれていた。


 二月十四日、金曜日。


 朝から校内は、いつもとは少し違っていた。


 女子が紙袋を持っていたり、休み時間になると誰かの机の周りが妙に騒がしかったりする。


 男子も気にしていないふりをしているが、明らかに落ち着かない者がいる。


 徹は朝から達也といつも通り話していた。


 こずえとも何度か言葉を交わした。


 ただ、春子とはまだ一度も話していない。


 同じ教室にいるのに。


 席にいる姿も何度も見ているし、休み時間にはこずえと話している声も聞こえてくる。


 なのに今日は、不思議なくらい徹との会話だけがなかった。


 一度、徹が何気なく春子を見ると目が合った。


「あ……」


 春子が何か言いかける。


 けれど、すぐに視線を逸らしてしまった。


(……何だ?)


 いつもなら普通に話しかけてくるのに。


 今日は妙によそよそしい。


 嫌われるようなことをした覚えはない。


 むしろ、落ち着かないように見える。


(……緊張してる?)


 そこまで考えて、徹は自分の考えに苦笑した。


(何を期待してるんだ、俺は)


 けれど、一度気になってしまうと、どうしても春子の姿を探してしまう。


 結局、その日は一度もまともに話さないまま放課後になった。


 軽音楽部の練習が始まると、春子はいつもの春子に戻った。


 少なくとも、そう見えた。


 文化祭で演奏した曲を一度合わせ、そのあと『贈る言葉』を何度か繰り返す。


 ギターからサックスへ。


 サックスから再びギターへ。


 少しずつ形になってきた。


「今日はこんなもんかな」


 徹が言うと、春樹がサックスを下ろした。


「もう疲れた」


「でも結構よくなったじゃん」


 春子が笑う。


「本番までには何とかなりそうだね」


 いつもの声。


 いつもの笑い方。


 ただ、ときどき徹と目が合うと、ほんの一瞬だけ視線が揺れる。


 気のせいかと思うほどの、小さな変化だった。


(……やっぱり何か変だな)


 徹がそう思ったとき、


「あっ、そうだ」

 

 こずえが鞄を開けた。


「忘れるところだった」


 中から小さな包みをいくつか取り出す。


「はい。バレンタイン」


「おお!」


 真っ先に声を上げたのは達也だった。


 こずえは順番に配っていく。


 達也。


 春樹。


 徹。


 そして春子にも。


「私にも?」


「友チョコ」


「ありがとう」


 春子が笑って受け取った。


「こずえ、ありがとう!」


 達也が包みを持ち上げる。


「よかった。一個もらえた」


「そんなに心配してたの?」


「ゼロと一じゃ全然違うから」


「義理だけどね」


「義理でも一個は一個だ」


「前にも聞いたぞ、それ」


 徹が笑う。


「徹だって嬉しいだろ?」


「まあな。こずえ、ありがとう」


「どういたしまして」


 小さなチョコを鞄へ入れる。


 そのとき、徹は何となく春子を見た。


 春子はこずえからもらった包みを手にしていた。


 目が合った。


「あ……」


 春子が何か言いかける。


「ん?」


「……何でもない」


 そう言って、春子は包みを鞄へしまった。


 それだけだった。


(……ないのかな)


 ふと、そんなことを思った。


 春子から何かもらえると約束していたわけではない。


 それなのに、少し残念だった。


(俺、結構期待してたんだな……)


 そう気づくと、なんだか恥ずかしくなった。


 やがて片づけも終わり、達也たちが帰り始める。


「じゃあな」


「また明日」


 徹も鞄を肩に掛けた。


「俺も帰るか」


 そのときだった。


「徹」


 後ろから春子に呼ばれた。


「ん?」


 振り返る。


 春子が立っていた。


 さっきまでみんなと普通に笑っていたのに、今は明らかに様子が違う。


 鞄の持ち手を両手で握っている。


「今日、このあと時間ある?」


「え?」


「何か予定ある?」


「いや……ないけど」


「そっか」


 春子は小さく息を吐いた。


 それでも次の言葉はすぐには出てこない。


「……春子?」


「ちょっと待って」


「何を?」


「いいから」


 春子はそう言って、もう一度息を整えた。


 頬が少し赤い。


 徹を見たかと思えば、すぐに視線を落とす。


 こんな春子を見るのは珍しかった。


 やがて意を決したように顔を上げる。


「じゃあ……」


 ほんの少し間が空く。


「これから、うちに来ない?」


「…………」


 徹の思考が止まった。


 二月十四日。


 バレンタインデー。


 その日の放課後。


 好きな女の子から、家に来ないかと誘われている。


「徹?」


 春子が不安そうに顔を覗き込む。


「……え?」


 徹の口から出てきたのは、それだけだった。

最後までお読みいただきありがとうございます。


好きなお菓子を聞かれ、少しだけ期待してしまった徹。


ところがバレンタイン当日になっても、春子からは何もなし。


自分でも思っていた以上に期待していたことに気づいたところで、最後の一言です。


「これから、うちに来ない?」


徹の思考が止まるのも無理はないですね。


朝からどこか落ち着かなかった春子が、何を考えていたのか。


そして、なぜ徹を家へ誘ったのか。


次回、二人にとって大切な時間になりそうです。


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