↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/82

第63話 今度こそ二人で

年が明け、一九九二年。


春子とのすれ違いを引きずったまま新学期を迎えた徹は、久しぶりに春子と顔を合わせます。


どこかぎこちない二人。


今度は徹の方から、一歩踏み出します。

十二月三十一日。


 居間のテレビからは、年末特番の賑やかな笑い声が流れていた。台所では由香里が正月料理の準備を続けていて、醤油と出汁の匂いが暖房の効いた部屋に漂っている。


 徹はこたつに入ったままテレビへ目を向けていたが、さっきから内容はほとんど頭に入っていなかった。


 気を抜くと、三日前のことを思い出してしまう。


『私、みんなで行こうって言った?』


 あのときの春子の顔が、何度も浮かんでくる。


 もう何度考えたか分からない。


 春子が自分をどう思っているのかも、自分が春子をどう思っているのかも、結局まだ答えは出ていなかった。


「徹」


「ん?」


 顔を上げると、向かいに座っていた優子が呆れたような顔をしていた。


「いつまでクヨクヨしてんの?」


「してないよ」


「してるって。この前からずっとそんな感じじゃん」


 徹は思わず黙った。


 自分では普通にしているつもりだったのだが、どうやら家族には通用していないらしい。


「もう年越すよ?」


「分かってるよ」


「だったら、来年まで持ち越さないようにしたら?」


「それが簡単にできたら苦労しないって」


 そう返すと、優子は肩をすくめてテレビへ視線を戻した。


 結局、何も解決しないまま一九九一年は終わった。


 一九九二年。


 正月は家族や親戚と過ごした。新年の挨拶をして、料理を囲み、親戚たちの話を聞く。賑やかな時間の中にいる間は、徹も普通に笑い、普通に新しい年を迎えた。


 そうしているうちに三が日が過ぎ、冬休みも残り少なくなった。


 答えはまだ出ていない。


 それでも一つだけ、はっきりしていることがあった。


 春子とこのままなのは嫌だった。


 一月八日。


 新学期初日の教室には、冬休みを終えた生徒たちの声が溢れていた。


 旅行へ行った話、お年玉の話、宿題を最後まで残して大変だった話。あちこちで久しぶりに会った友人同士の会話が弾んでいる。


 徹も何人かと挨拶を交わしながら、自分の席へ向かった。


 その途中で、春子を見つけた。


 友達と話していた春子も、ほとんど同時に徹に気づいた。


 一瞬だけ、視線が重なる。


「……あけましておめでとう」


「あけましておめでとう。今年もよろしく」


「うん。今年もよろしく」


 そこで会話が途切れた。


 春子は何か言いかけたように見えたが、結局そのまま友達の方へ戻っていった。


 怒っているようには見えない。


 けれど、以前ならそれだけで終わることもなかった。冬休みに何をしていたのか、お年玉はいくらもらったのか、そんな他愛のない話を一つくらいしていたはずだ。


 徹も何か話そうと思ったが、言葉を探している間にタイミングを逃してしまった。


 席へ座って鞄を机の横へ掛ける。


 教室はいつもと変わらず賑やかなのに、春子との間だけ妙な隙間が残っている気がした。


 春子も同じなのかもしれない。


 休み時間に何度か目が合った。


 けれど春子は、そのたびに何となく視線を逸らす。徹も声をかけるきっかけを掴めない。


 別に喧嘩を続けたいわけじゃない。


 おそらく春子だってそうだ。


 ただ、あの日から初めて顔を合わせたせいで、どうやって以前の空気へ戻ればいいのか分からなくなっている。


 昼休みになり、春子が席を立った。


 このまま今日まで何も話さなかったら、明日も同じことになる。


 徹も席を立った。


「春子」


 呼び止めると、春子が足を止めた。


「……なに?」


 振り返った顔には怒りはない。ただ、何を言われるのか少し身構えているように見えた。


「去年はごめん」


 春子の目がわずかに動いた。


 しばらく徹を見つめてから、小さく頷く。


「……うん」


「次の日曜日、空いてる?」


「えっ?」


 春子が瞬きをした。


「新しくできたカフェがあるらしいんだけど、一緒に行かない?」


 今度は返事がなかった。


 春子は驚いたように徹を見ている。


「……誰と?」


「俺と」


「二人?」


「うん。二人で」


 その言葉を聞いた途端、春子の表情が変わった。


 朝から二人の間にあった固いものが、するりとほどけていく。


「……そっか」


 春子は顔を横へ向けた。


 けれど、口元が緩んでいるのは隠せていない。


「行く?」


「行く」


 返事だけは驚くほど早かった。


「じゃあ、日曜日な」


「うん」


 春子がこちらを見る。


 さっきまでどう話せばいいのか分からなかったのが嘘のようだった。


「……春子」


「なに?」


「にやけてる」


「にやけてない!」


 すぐに返ってきた言葉に、徹も思わず頬が緩んだ。


 いつもの春子だ。


 たったそれだけのことに、胸の奥に残っていた重たいものが少し軽くなった。


「じゃあね」


「うん」


 春子が自分の席へ戻っていく。


 その足取りは、朝より明らかに軽かった。


「なあ」


 横から声をかけられた。


 振り向けば、達也が怪しむような目を向けている。


「春子と何話してたんだ?」


「なんで?」


「なんでって、見てみろよ。あいつ、めっちゃにやけてるぞ」


 徹が視線を向けると、春子は友達と何か話していた。


 確かに妙に機嫌がいい。


「何話したんだよ?」


 達也がもう一度聞いてくる。


 徹は少し考えてから答えた。


「内緒」


「はあ? なんだよそれ!」


 達也が食いついてきたが、徹はそれ以上話さなかった。


 今度の日曜日のことは、誰にも言うつもりはなかった。


 翌九日の放課後。


 新年最初の軽音部に五人が揃うと、春子はすっかり以前の調子へ戻っていた。


「やっぱり春子、今日もご機嫌だね」


 達也が訝しそうに春子を見る。


「普通だけど?」


「昨日から明らかに違うんだよな」


「しつこい」


 春子はそう言いながらも、まるで怒っていない。


 徹と目が合うと、また口元が少し緩んだ。


「ほら! 今!」


「うるさいって!」


「何の話?」


 隣のクラスからやって来た春樹が不思議そうに尋ねる。


「俺にも分からん。こいつらなんか隠してる」


「隠してない!」


 春子が即座に否定する。


 徹は黙っていた。


 そのうち話題が変わり、春樹が思い出したように口を開いた。


「そういえば僕、サックス買ったんだ」


「マジで?」


 今度は達也の興味が一気に春樹へ移った。


「うん。お年玉と貯めてたお金を合わせて」


「二十八日に見てたやつ?」


「いや、別のやつ。初心者ならこっちの方がいいって店員さんに教えてもらって」


 春子も興味を示す。


「もう吹けるの?」


「音は出るよ」


「じゃあ吹けるじゃん」


「音が出るのと演奏できるのは全然違うよ」


 春樹は真面目な顔で答えた。


 そんなやり取りを聞きながら、徹は久しぶりにいつもの五人へ戻ったような気がしていた。


 そして翌日、一月十日の放課後。


 部室へやって来た五十嵐は、五人を見回すと椅子を引き寄せた。


「ちょうど揃ってるな。お前たちに話がある」


「なんですか?」


「三月の三年生を送る会だ」


 五十嵐の話では、今年は軽音部にも演奏の時間が用意されるという。


 文化祭に出演した八バンドの中から、三年生にもう一度聴きたいバンドを選んでもらい、そのうち三組が出演することになったらしい。


「その三組に、DIGITAL FANTASYも入ってる」


 一瞬、誰も声を出さなかった。


「えっ、私たち?」


 春子が最初に反応した。


「そうだ」


「マジか!」


 達也が嬉しそうに声を上げ、こずえも驚いたように顔を上げる。


 春樹も目を丸くしていた。


 文化祭では、直前に春樹の声が出なくなるというトラブルがあった。


 予定通りの演奏ではなかったし、失敗もした。


 それでも、もう一度聴きたいと思ってくれた人がいる。


 徹はそれが素直に嬉しかった。


「三月まで時間はある」


 五十嵐が続ける。


「文化祭とまったく同じものをやる必要もない。せっかくだから、お前らなりに何か考えてみろ」


「違うことか……」


 達也が呟く。


 すると春子が、ふと春樹を見た。


「サックス」


「え?」


「インストの途中に、ちょっとだけ入れてみるのは?」


「僕、始めたばっかりだよ」


「全部じゃないよ。一部分だけ」


 春樹はすぐには答えず、少し考え込んだ。


「……三月まであるなら、少しくらいはできるようになるかな」


「いいじゃん。それ」


 達也も乗り気になり、こずえも小さく頷いた。


 徹の頭にも、文化祭で演奏したインストの音が蘇る。


 そこに今までなかったサックスの音が加わったら、どんな曲になるのだろう。


 まだ何も決まっていない。


 けれど、考える時間は十分にある。


 春子との間にあったぎこちなさも消えた。


 春樹は新しい楽器を手にした。


 そして五人には、次に向かう場所ができた。


 三年生を送る会。


 一九九二年のDIGITAL FANTASYは、新しい目標へ向かって動き始めた。

最後までお読みいただきありがとうございます。


春子との間に残っていたぎこちなさも、徹が自分から動いたことでようやく消えていきました。


そして春樹は新しい楽器を手にし、DIGITAL FANTASYにも「三年生を送る会」という新たな目標が。


一九九二年、徹たちの日々がまた少しずつ動き始めます。


続きも読んでみたいと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。