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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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第53話 夏の終わりと、最初の歌詞

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


葵のライブイベントも終わり、夏休みも後半へ。


お盆の墓参りを済ませ、DIGITAL FANTASYでは文化祭に向けた新曲作りが続いています。


曲は少しずつ形になってきましたが、今度の曲には春樹の歌がある。


つまり当然、必要になるものが一つ。


誰が歌詞を書くのか。


そして夏休みが終わると、文化祭に向けて思わぬ話が待っていました。

葵のライブイベントが終わってからも、夏休みは続いていた。


 とはいえ、俺の生活が急に夏休みらしくなったわけではない。


 午前中は勉強をして、時間があれば経営についての本を読む。競馬について調べたり、音楽を聴いたりする時間も増えた。


 そして週に何度かは、DIGITAL FANTASYのメンバーと集まる。


 去年までの俺なら、夏休みなんて将来のために使えるまとまった時間、としか考えていなかっただろう。


 でも今年は少し違った。


 花火大会へ行ったり、みんなで音楽の話をしたり、くだらないことで笑ったり。


 五十年以上生きた記憶を持つ俺が、中学生の夏休みを楽しんでいる。


 少し前なら妙な気分になったかもしれない。


 今はもう、そんなことも考えなくなっていた。


 お盆には、家族で石丸家の墓参りへ行った。


 石丸家を訪れるのは初めてではない。


 以前の俺なら、この家に来るだけで神経を尖らせていた。


 前世の母、黒沢和子。


 今の母、長浜由香里。


 二人をつないでいる石丸という血筋。


 この一族に不思議な力を持つ者がいることも、古い蔵に残されていたものについても、すでに調べている。


 だから今日は何かを探しに来たわけではない。


 墓石に水をかけ、花を供え、線香に火をつける。


 俺も家族の隣で静かに手を合わせた。


 黒沢恒一としてなのか。


 長浜徹としてなのか。


 以前なら、そんなことを考えたかもしれない。


 でも今は、長浜徹としてここにいる。


 それでいい。


 墓参りを終えて石丸家へ戻ると、源三じいちゃんが縁側に腰を下ろした。


「由香里、身体はもう大丈夫かい」


「うん。おかげさまで。もう普通に生活できてるよ」


「そうか。それならええ」


 源三じいちゃんは安心したように頷いた。


 去年、母さんは脳腫瘍で入院した。


 手術の日を待っていた時間。


 病室で過ごした夜。


 今でも思い出せる。


 去年、母さんは脳腫瘍で倒れ、手術を受けた。


 あのときのことは、今でもよく覚えている。


 病室で過ごした時間も、手術を待っていたときの不安も。


 だからこそ、こうして母さんが源三じいちゃんと普通に言い合っている姿を見ると、少しだけ安心する。


 今ではすっかり元気になった。


 それだけで十分だった。


「お父さんこそ大丈夫なの?」


 今度は母さんが源三じいちゃんを見る。


「何がじゃ」


「何がじゃ、じゃないでしょ。一度倒れてるんだから」


「もう何ともない」


「無理してない?」


「しとらんよ」


「本当に?」


「由香里は昔から心配性じゃのう」


「誰のせいよ」


 二人のやり取りを聞いていた優子姉ちゃんが笑う。


 俺もつられて笑った。


 石丸家といえば、俺にとってはずっと自分が生まれ変わった理由につながる場所だった。


 でも、今日はそれだけじゃない。


 母さんの実家で、じいちゃんがいて、家族で墓参りに来る。


 ただそれだけの日だった。


 こういう日があってもいい。


 いや、こういう日の方がいいのかもしれない。


 そんなお盆が過ぎても、DIGITAL FANTASYの新曲作りは続いた。


「ここ、もう一回!」


 春子の声が部室に響く。


 達也がドラムスティックを構え直し、こずえもベースに指を置く。


 俺はキーボードの鍵盤に手を乗せた。


「春樹、今度は入れる?」


「大丈夫。たぶん」


「たぶんって」


「歌詞がないんだから、ラララで歌うしかないだろ」


 春樹が不満そうに返した。


 曲そのものは、かなり形になってきている。


 問題は一つ。


 歌詞がない。


 今までのDIGITAL FANTASYはインストだった。


 春樹が加わったことで初めて本格的に歌のある曲を作ることになったものの、当然ながら誰も作詞経験なんてない。


「やっぱり徹じゃない?」


 休憩に入ったところで、春子が突然言った。


「何が?」


「歌詞」


「なんで俺?」


「曲の元を作ったの徹でしょ」


「みんなで作っただろ」


「でも最初のイメージは徹じゃん」


 嫌な方向に話が進んでいる。


 助けを求めて達也を見る。


「俺は無理」


 早い。


「まだ何も聞いてないけど」


「歌詞だろ? 無理」


 こずえは?


「……徹がいいと思う」


 逃げ道が一つ消えた。


 最後の希望を春樹に向ける。


「歌う人が書くのが普通じゃない?」


「普通とは限らないよ。作詞と作曲と歌唱は全部別の技術だし、むしろ曲の世界観を最初に考えた人間が書いた方が全体として統一感が出る可能性が」


「分かった。もういい」


 音楽の話になると本当に止まらない。


「じゃあ決まりね」


「勝手に決めるなよ」


 そう言いながら、俺はテーブルの上に置かれたノートを見た。


 作詞。


 前世でもやったことはない。


 音楽はたくさん聴いてきたし、この時代には存在しない曲だって山ほど知っている。


 だからこそ、未来の歌詞をそのまま使うなんて論外だった。


 自分たちの曲なら、自分たちの言葉で作るべきだ。


 それに。


 将来、本当に芸能プロダクションを作るなら、歌がどうやって生まれるのか知っておくのも悪くない。


 作詞家になるつもりはないけど、経験しておけば見えるものもあるだろう。


「……まあ、これも経験か」


「やるの?」


 春子が身を乗り出す。


「やってみるよ。ただし期待するなよ」


「期待しとく」


「今の話聞いてた?」


 こうして俺は、五十年以上の人生で一度も経験したことのない作詞をすることになった。


 ところが、これが想像以上に難しかった。


 夏休みの残りは、驚くほど早く過ぎていった。


 そして九月。


 新学期が始まった。


「夏休み、短すぎるだろ」


 始業式の日、達也が机に突っ伏していた。


「十分あったでしょ」


 春子が呆れる。


「体感では一週間だ」


「遊んでたからじゃない?」


「夏休みは遊ぶためにあるんだよ」


 少し前までなら、俺は達也の言葉を理解できなかったかもしれない。


 今なら、ほんの少し分かる。


 それでも夏休み中に勉強は進めたし、新曲も作っている。


 我ながら欲張りな中学生だ。


 放課後。


 久しぶりの軽音部に集まった俺たちは、顧問から文化祭についての説明を受けた。


 十月に行われる文化祭。


 俺たちも当然、ステージに立つつもりだった。


 だが。


「今年は出演希望が多い」


 その一言で、部室の空気が変わった。


「時間の都合で全バンドを出すことはできない。だから今年は部内で選考をする」


「選考?」


 春子が聞き返した。


「演奏を見て、文化祭に出演するバンドを決める。選考は二週間後だ」


 部室がざわついた。


 二週間。


 俺は春樹と顔を見合わせた。


 春樹が加入して、初めて作っている歌入りのオリジナル曲。


 曲はほぼ形になっている。


 演奏も練習すれば間に合う。


 問題は。


「徹」


 春子が俺を見る。


「歌詞、まだ途中だよね?」


「……途中というか」


「どこまでできた?」


「一番の半分くらい」


「それ、途中って言う?」


「俺の中では途中だよ」


 達也が吹き出した。


 春樹は笑っていない。


「長浜くん」


「何?」


「二週間なら、歌詞はもっと早く必要だよ。俺も歌い込まないといけないから」


「分かってる」


「できれば三日」


「急に厳しくない?」


「歌うの俺だからね」


 もっともな意見だった。


 俺は鞄からノートを取り出す。


 何度も書いては消した跡。


 未来の名曲をいくら知っていても、それは俺の言葉じゃない。


 自分の言葉で誰かに聴かせる歌を書く。


 こんなに難しいとは思わなかった。


「徹」


 春子が俺の顔を覗き込む。


「間に合う?」


 俺はノートを閉じた。


「間に合わせるよ」


 せっかく春樹が入ったんだ。


 五人で作った曲を、文化祭で演奏したい。


 それくらいは、もう俺自身のやりたいことになっている。


 こうして新学期早々。


 俺の人生初の作詞には、いきなり締め切りができた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回は夏休みの終わりから新学期へ。


石丸家への墓参りでは、由香里も源三じいちゃんも元気な姿を見せてくれました。


そしてDIGITAL FANTASY初の本格的な歌入りオリジナル曲。


なぜか作詞担当になったのは徹でした。


未来の名曲をたくさん知っていても、自分の言葉で歌詞を書くのはまったく別の話。


「これも経験」と引き受けた徹でしたが、新学期早々、文化祭の出演をかけた部内選考が決定。


しかも選考まで二週間。


人生初の作詞に、いきなり締め切りまでついてきました。


果たして五人は、文化祭のステージに立てるのでしょうか。

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