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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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第48話 新しい縁

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


期末テストで突然の学年一位となった徹。


これまで目立たないようにしていた学校生活も、その日を境に少しずつ変わり始めます。


そして、一位になったからこそ生まれた新しい出会いも。


今回は、徹のこれからに長く関わっていく人物との始まりのお話です。

期末テストの順位が発表された日の放課後、徹は担任の増谷先生に呼ばれ、職員室へ向かった。


 窓の外には梅雨らしい灰色の雲が広がっている。開け放たれた窓から湿った風が入り込み、積み上げられたプリントの端をかすかに揺らしていた。


「長浜、そこ座ってくれ」


 四十一歳の増谷先生は、自分の机の横に置かれた椅子を指した。


「はい」


 徹が腰を下ろすと、増谷先生は机の上に置いていた成績表へ目を落とした。


「今回の期末、四百九十三点で学年一位。去年から成績は良かったが、ずいぶん伸びたな」


「ありがとうございます」


「それでな。今回の成績を見て、学年主任からも長浜の話が出たんだ」


「僕のですか?」


「去年も十位前後には入っていただろ。それが今回一位になったからな。今後の進路について、本人がどのくらい考えているのか、一度確認しておこうってことになった」


 それなら呼ばれた理由も分かる気がする。


 徹は小さく頷いた。


「もちろん、まだ二年生だ。今すぐ志望校を決めろって話じゃない」


「大学には行くつもりです」


「そこはもう決めてるのか」


「はい」


「行きたい大学もあるのか?」


「大学までは、まだ決めてません」


 増谷先生が少し意外そうに眉を上げた。


「長浜なら、そこまで決めてるのかと思ったよ」


「まだ中学生ですから」


「大学の内容まで勉強してる中学生が言ってもなあ」


 増谷先生が苦笑する。


 徹もつられて笑った。


「でも、学部は考えてます」


「どこだ?」


「経済学部です。経営を勉強したいと思っています」


「経営か。何か理由があるのか?」


 徹は一瞬だけ考えた。


 芸能プロダクションを作りたい。


 そこまで話す必要はないだろう。


「将来、自分で会社を作りたいと思ってるので」


「会社を?」


「まだずっと先の話ですけど」


 増谷先生は少し驚いたようだったが、茶化すことはなかった。


「だったら、なおさら今から大学を一つに決める必要はないな。経営を学べる大学はいくつもある。高校へ進んでから考えても遅くない」


「はい。そのつもりです」


「分かった。長浜の場合、普通の進路指導とは少し違ってきそうだからな。また何かあったら話そう」


「ありがとうございます」


 徹は頭を下げて職員室を出た。


 自分の中では、大学名よりも何を学ぶかの方が重要だった。


 経営を学ぶ。


 そして、いつか自分の会社を作る。


 そこまでは決まっている。


 どこの大学へ行くのかは、そのうち考えればいい。


 ところが、徹が考えていた以上に、今回の学年一位は学校内で大きな出来事になっていた。


 翌朝。


 教室へ向かっていると、廊下ですれ違った女子二人がこちらを見た。


「ねえ、あの人じゃない?」


「長浜くん?」


 小さな声だったが、徹の耳にはしっかり届いた。


(……もう知られてるのか)


 教室へ入ってからも似たようなことが続いた。


「長浜くん、数学百点だったんでしょ?」


 ほとんど話したことのない女子に突然声をかけられる。


「うん」


「すごいね。今度分からないところ教えてよ」


「俺で分かるところなら」


「ほんと? じゃあ約束ね」


 その女子が離れていくと、今度は別の男子が英語の勉強法を聞いてきた。


 休み時間になれば他のクラスから徹を見に来る生徒までいる。


(こうなるから嫌だったんだよな……)


 去年まで十位前後。


 成績のいい生徒ではあったが、わざわざ他のクラスから見に来られるほどではなかった。


 一位という数字には、それだけ人の目を引く力があるらしい。


「人気者だね」


 聞き覚えのある声に振り返る。


 春子が自分の席からこちらを見ていた。


「好きでこうなったわけじゃないよ」


「さっき女の子に勉強教える約束してたじゃん」


「聞いてたの?」


「近いから聞こえただけ」


 春子は頬杖をつき、ふいっと窓の方を見る。


「よかったね。いっぱい教えてあげれば?」


「なんか怒ってる?」


「怒ってないよ」


「じゃあなんでこっち見ないの?」


「外見てるだけ」


 窓の外には曇り空しかない。


 徹が首を傾げていると、近くにいた達也が肩を震わせていた。


「何笑ってるんだよ」


「いや、別に」


「絶対なんかあるだろ」


「徹も大変だなと思って」


「何が?」


「さあ?」


 達也まで妙なことを言い始める。


 その日の昼休みだった。


「長浜くん?」


 廊下で呼び止められた。


 振り返ると、同じ学年の男子が立っている。顔は見たことがあったが、話したことはない。


「俺、二組の後藤春樹」


「後藤くん……」


 名前を聞いてすぐに分かった。


「いつも一位だった人だよね」


 春樹が微妙な顔になる。


「やっぱり、その覚え方なんだ」


「有名だから」


「今回は二位だけどね」


 悔しそうに言うのかと思ったが、春樹は笑っていた。


 むしろ徹を見る目には興味が浮かんでいる。


「長浜くん、四百九十三点だったよね? 数学と英語が百点で、理科九十八、社会九十九、国語九十六。数学の最後の図形問題、どう解いた? 俺は補助線引いてから式を作ったんだけど、それだと途中が長くなって、たぶんもっと簡単な方法があると思うんだ。それと英語の最後の長文も」


「ちょっと待って」


 徹は思わず片手を上げた。


 春樹が口を閉じる。


「何?」


「一個ずつにしない?」


「……俺、そんなに喋った?」


「かなり」


「ごめん。勉強の話になると、つい」


 春樹は頭をかいた。


 どうやら悪気はないらしい。


 その日は数学の話を少ししたところで予鈴が鳴った。


「じゃあ、また」


「うん」


 それで終わりだと思っていた。


 ところが翌日も、廊下で春樹と会った。


「長浜くん、昨日の問題なんだけど」


 さらに二日後には図書室の前。


「この参考書、使ったことある?」


 最初は勉強の話ばかりだった。


 春樹は成績がいいだけではなく、本当に勉強そのものが好きらしい。一つの問題でも別の解き方を見つければ嬉しそうに話し、徹の解法と違えば理由を知りたがった。


 そして、話し始めると速い。


「最近、後藤くんとよく話してるね」


 昼休み、春子が言った。


「廊下でよく会うんだよ」


「一位と二位で何話してんの?」


 達也がパンを食べながら聞いてくる。


「ほとんど勉強」


「うわ、つまんなそう」


「後藤くんに聞かれたら怒られるよ」


「俺は五分で逃げる」


 徹は笑いながら牛乳を飲んだ。


 その数日後。


 図書室から出ると、窓際で春樹が雑誌を読んでいた。


「後藤くん」


「長浜くん」


 春樹が雑誌を閉じる。


 その表紙を見て、徹は足を止めた。


「それ、音楽雑誌?」


「うん」


「音楽好きなの?」


「好きだよ。かなり」


 春樹の目が急に輝いた。


「長浜くんは何聴く? 邦楽? 洋楽? 最近出たこのバンドの曲聴いた? 二番からキーボードが入ってくるんだけど、あれがすごくよくて、それからギターの音も」


「待って」


 徹はまた手を上げた。


「何?」


「音楽でもそうなるんだ」


「何が?」


「早口」


 春樹が目を瞬く。


「俺、早口?」


「勉強と音楽の時はかなり」


「自覚なかった」


「だと思った」


 徹は笑った。


「俺も音楽好きだよ」


「ほんと? 何聴く?」


「いろいろ聴くよ。俺今、軽音部なんだ」


「軽音部?」


 春樹の声が一段高くなる。


「何やってるの? ギター? ベース? ドラム? バンド組んでる?」


「まだ答えてないよ」


「あ、ごめん」


「キーボード」


「キーボード!」


 また始まった。


「シンセも使う? どんな曲やってる? コピー中心? オリジナルは?」


「後藤くん」


「……一個ずつだった」


「正解」


 二人が笑っていると、


「徹?」


 後ろから春子の声がした。


「こんなところにいたんだ」


「春子」


 春子は春樹に気づくと、軽く笑顔を向けた。


「後藤くんだよね?」


「……うん」


 徹は春樹を見る。


 さっきまでの勢いが嘘のように消えていた。


「後藤くんも音楽好きなんだって」


「そうなんだ。どんなの聴くの?」


「えっと……いろいろ」


「いろいろ?」


「まあ……その……いろいろ」


 徹は吹き出しそうになって口元を押さえた。


「何?」


 春樹が小声で睨んでくる。


「いや、別に」


 春子は不思議そうに二人を見比べた。


「徹、先生が探してたよ」


「分かった。ありがとう」


「じゃあね、後藤くん」


「……また」


 春子が去っていく。


 少し間を置いて、徹は春樹を見る。


「急に静かになったね」


「うるさいな」


「女の子苦手なのか?」


「……ちょっと」


「勉強の話ならあんなに喋るのに」


「関係ないだろ」


 春樹は照れくさそうに雑誌で口元を隠した。


 徹はとうとう笑ってしまった。


「笑うなよ、長浜くん」


「ごめん。でも意外だったから」


「それより軽音部の話。キーボードって、どんなの使ってる?」


「戻るの早いな」


 徹はまた笑った。


 学年一位になってから、急に名前を知られるようになった。


 知らない生徒に見られ、女子から声をかけられ、正直なところ面倒に感じることもある。


 それでも。


 今回一位にならなければ、後藤春樹と話すこともなかっただろう。


 勉強と音楽の話になると止まらないくせに、女の子が来れば別人のように静かになる。


 まだ知り合って間もない。


 けれど。


「後藤くんって、結構面白いね」


「急に何?」


「なんでもない」


 徹は笑いながら歩き出した。


 思いがけず目立ってしまった学校生活も、悪いことばかりではないのかもしれなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、これまで学年一位だった後藤春樹が登場しました。


勉強と音楽の話になると、急に早口になって止まらなくなる春樹。


ところが女の子を前にすると、さっきまでの勢いはどこへやら。


なかなか分かりやすい少年です。


徹も最初は「今まで学年一位だった後藤くん」という認識でしたが、何度も話すうちに音楽という共通点も見つかりました。


そして徹自身も、経済学部で経営を学び、いつか自分の会社を作りたいという将来への道を少しずつ固めています。


学年一位になったことで変わり始めた学校生活。


この出会いが、これから徹にどんな影響を与えていくのか。


次回もよろしくお願いします。

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