↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/54

第45話 「素顔が武器になる日」

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、葵が出演する日曜日のイベントへ。


歌手として少しずつ経験を積んできた葵ですが、思わぬトラブルから予定にはなかった時間を任されることになります。


そこで見せたのは、歌でも、雑誌で見せた大人びた表情でもなく、徹たちがよく知る「いつもの葵」でした。


そして、徹は思わぬ人物と再会することになります。


ぜひ最後までお楽しみください。


日曜日。


 六月の強い日差しが、ショッピングセンターの屋上へ降り注いでいた。


 特設ステージの周囲には色とりどりの旗が並び、少し離れた場所には飲み物や軽食を売る屋台も出ている。


 家族連れや買い物途中の客が足を止め、ステージ前には百人近い人が集まっていた。


 徹も、その中にいた。


「思ってたより人いるな……」


 葵からイベントに出ると聞いてやって来たものの、もっと小さな催しを想像していた。


 ステージでは若い男性歌手が歌っている。


 その脇ではスタッフたちが慌ただしく動き、出演者が入れ替わるたびにマイクや機材を確認していた。


 徹はステージだけでなく、自然とその動きにも目を向けていた。


 以前なら、そんなところまで気にしなかっただろう。


 けれど、芸能プロダクションを作るという目標を持ってからは違う。


 客から見えない場所で何人が動き、どうやってイベントが作られているのか。


 それも徹にとっては勉強だった。


 男性歌手の曲が終わり、大きな拍手が起こる。


 司会者がステージへ出てきた。


「続いて登場するのは、四月にデビューしたばかりの新人歌手です。如月葵さん!」


 拍手とともに葵が姿を現した。


「こんにちはー! 如月葵です!」


 よく通る明るい声。


 白を基調にした衣装で、客席へ大きく手を振っている。


 徹は思わず笑った。


(いつもの葵だ)


 雑誌で見た、少し大人びた表情とはまるで違う。


 葵は簡単な自己紹介をすると、デビュー曲を歌い始めた。


 歌声が屋上へ広がっていく。


 まだ誰もが知っている歌手ではない。


 それでも、足を止める人が少しずつ増えていった。


 曲が終わる。


「ありがとうございました!」


 葵が深々と頭を下げると、客席から拍手が返ってきた。


 そのままもう一曲を歌い、短いトークを挟んで出番を終える。


「如月葵でした! ありがとうございました!」


 笑顔で手を振り、葵は舞台袖へ消えた。


 徹も拍手を送りながら、素直に感心していた。


 デビューしてまだ二か月にも満たない。


 それでもステージに立つ姿は、少しずつ様になってきている。


 ところが。


 舞台袖が急に慌ただしくなった。


 一人のスタッフが走ってくる。


 別のスタッフと何かを話し、二人とも困った顔をしている。


(何かあったのか?)


 客席からでは詳しいことまでは分からない。


 だが、明らかに予定どおりではなかった。


「次の方、無理そうです!」


「本当に?」


「体調が戻らなくて。本人は出るって言ってますけど、立ってるのもつらそうで」


「出しちゃ駄目だ」


 そう答えた男性を見て、徹は目を見開いた。


(……木崎さん?)


 以前、街で偶然見つけた新人歌手のイベント。


 そこで現場を仕切っていた男性だった。


 まさか、こんなところで再び会うとは思わなかった。


 木崎は徹には気付かず、スタッフたちへ次々と指示を出している。


「次の出演者まで何分?」


「十五分近くあります」


「長いな……」


 木崎が腕時計を見る。


 その時、舞台袖にいた葵と目が合った。


「如月さん」


「はい?」


「悪い。ちょっと頼める?」


「なんですか?」


「次の出演者が体調不良で出られなくなったんだ」


「大丈夫なんですか?」


 最初に出たのは、自分の出番の話ではなく相手を心配する言葉だった。


「休ませてるから大丈夫。それで申し訳ないんだけど、少しステージをつないでもらえないかな」


「どのくらいですか?」


「できれば十分」


「十分!?」


 葵の声が裏返った。


「ごめん。無理なら別の方法を考える」


「……何を話してもいいんですか?」


「まあ、できる範囲なら」


 葵は数秒考えた。


 そして、


「分かりました。やってみます!」


 勢いよく答えた。


 再びステージへ出てきた葵を見て、客席から小さな拍手が起こる。


「えっと……また出てきちゃいました」


 客席から笑いが漏れた。


「さっき『ありがとうございました』って格好よく帰ったんですけど」


 さらに笑いが広がる。


 葵は少し困ったように笑った。


「実は私、今から十分くらい時間を任されました!」


 舞台袖のスタッフが一斉に葵を見る。


 木崎まで額へ手を当てた。


「言っちゃったよ……」


 しかし客席は笑っている。


「なので、みなさん」


 葵が両手を合わせる。


「助けてください!」


 今度は大きな笑いが起きた。


 徹も思わず吹き出した。


(何やってるんだよ……)


 けれど、いかにも葵らしい。


「何か質問ありませんか?」


 葵が客席を見渡す。


 最前列から男性の声が飛んだ。


「好きな食べ物!」


「いきなりそれですか?」


「答えて!」


「えー……お肉!」


 客席が笑う。


「女の子なんだから、もっと可愛くイチゴとか言った方がよかったですか?」


「もう遅い!」


 別の場所から声が飛ぶ。


「ちょっと! 今言った人、誰ですか?」


 葵が客席を探す。


 笑いがさらに大きくなった。


 今度は小さな女の子が手を挙げた。


「はい! そこの女の子!」


「何歳?」


「十五歳!」


「え?」


 質問する側とされる側が逆になり、葵が目を丸くする。


「私が聞かれるんですね。十五歳です!」


「私、八歳!」


「じゃあ七歳しか違わないね!」


「全然違うよ!」


「ええっ!?」


 女の子に即座に否定され、会場がどっと沸いた。


 最初はただ見ていただけの客たちから、次々と声が飛び始める。


「彼氏いる?」


「それは答えません!」


「いるんだ!」


「違います! なんでそうなるんですか!」


 葵が頬を膨らませる。


 また笑いが起きる。


 徹はいつの間にか、笑うことも忘れてステージを見つめていた。


 台本はない。


 用意された質問もない。


 葵自身だって、ほんの数分前までこんなことをするとは思っていなかったはずだ。


 それなのに。


 いつの間にか、会場全体が葵の空気に巻き込まれていた。


(……そうか)


 徹は初めて気付いた。


 自分たちにとっては当たり前だった。


 明るくて、物おじしない。


 初めて会った相手とも自然に話せる。


 誰かに何かを言われれば、すぐに言葉を返す。


 それは単なる性格だと思っていた。


 でも、知らない人ばかりのステージで同じことができる人間が、どれだけいるだろう。


 舞台袖では、木崎も黙って葵を見ていた。


「木崎さん」


 スタッフが駆け寄る。


「次、準備できました」


「……もう少し待とう」


「え?」


 木崎は客席へ目を向けた。


「今止めるのは、もったいない」


 予定された十分が過ぎようとしていた。


「そろそろ時間みたいです!」


 葵が舞台袖を確認する。


 客席から、


「もう終わり?」


 という声が飛んだ。


「私だって、さっきまでどうしようって困ってたんですよ!」


 葵が笑う。


「でも、みなさんのおかげで助かりました。ありがとうございました!」


 大きな拍手が起こった。


 最初に歌い終えた時よりも、明らかに大きな拍手だった。


「如月葵でした!」


 葵が深く頭を下げる。


 ステージを降りても、客席からは声が聞こえてきた。


「あの子、面白いな」


「如月葵だって」


「歌ってる時と全然違うね」


 徹はその声を聞きながら、静かにステージを見つめた。


 歌だけではない。


 今日、客たちは如月葵という人間を覚えた。


 イベント終了後。


 徹がステージ近くで葵を待っていると、背後から声を掛けられた。


「君……」


 振り返る。


 木崎だった。


「やっぱり、この前の子だよね?」


「覚えてたんですか?」


「そりゃ覚えてるよ。イベントの片付けを手伝ってくれた中学生なんて、そうそういないから」


 木崎が笑う。


「今日は?」


「葵に誘われて来ました」


「あの子の知り合い?」


「はい」


 木崎は少し驚いたあと、ステージ裏へ視線を向けた。


「あの子、いつもあんな感じなの?」


 徹も同じ方向を見る。


「だいたい、あんな感じです」


「そうか」


 木崎は小さく笑った。


「面白いな」


 そこへ葵が駆けてきた。


「あっ、徹くん!」


 そして木崎を見て足を止める。


「あれ? 二人、知り合いなんですか?」


「この前、ちょっとね」


 木崎が答える。


「そういえば、ちゃんと名乗ってなかったな」


 徹へ向き直り、手を差し出した。


「木崎鉄平。音楽制作の仕事をしてる」


「長浜徹です」


 徹もその手を握る。


 木崎鉄平。


 あの日、名前すら知らなかった男。


 なぜか忘れてはいけないと思った人。


 その人と、こんなにも早く再会した。


「じゃあ、またどこかで会うかもな」


 木崎はそう言い残し、スタッフの方へ戻っていった。


 徹はその背中を見送る。


 二度目だった。


 偶然と呼ぶには、少しだけ出来すぎている。


「徹くん?」


「ん?」


「どうしたの?」


「いや、なんでもない」


 徹は首を横に振った。


 隣では葵が、今日の出来事など大したことでもなかったように笑っている。


 けれど徹には分かっていた。


 今日、観客が覚えたのは、歌だけではない。


 如月葵という一人の少女だった。


 そしてもしかすると。


 今日という日は、葵自身もまだ知らない彼女の武器が、初めて誰かに見つかった日なのかもしれなかった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、葵の明るさや物おじしない性格が、初めて大勢の観客の前でそのまま武器になった回でした。


本人にとっては、困ったからお客さんと普通に話しただけ。


けれど気がつけば、観客まで巻き込み、歌だけではなく「如月葵」という一人の少女を覚えてもらうことになりました。


徹にとって当たり前だった葵の性格も、芸能界では大きな才能になるのかもしれません。


そして、木崎鉄平との二度目の出会い。


偶然の再会が、これから徹や葵にどうつながっていくのか。


次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。