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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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第43話 気づき始めた気持ち

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、春子から相談を受けた徹が、自分の気持ちよりもまず春子の気持ちを大切にしようとする回です。


誰かを好きになることも、断ることも、簡単には答えが出ないもの。


そんな中で、徹と春子の関係にも少しだけ変化が生まれます。


ぜひ最後までお楽しみください。

「どうしたらいいと思う?」


 春子の問いかけに、徹はすぐには答えられなかった。


 五月の風が中庭を抜け、校舎脇の木々を静かに揺らしている。遠くからは運動部の掛け声が聞こえていた。


 いつもなら、もう少し冷静に考えられるはずだった。


 けれど今は違う。


 春子が誰かに告白された。


 その事実が、思った以上に胸の奥へ引っ掛かっている。


 だからこそ、自分の気持ちだけで答えてはいけない。


 相談してくれた春子がどう思っているのか。それを一番に考えなければならない。


「その人のこと、春子はどう思ってるの?」


「え?」


 春子が顔を上げる。


「嫌いじゃないとか、いい人だとかじゃなくてさ。付き合いたいと思ってる?」


「付き合いたい……」


 春子はその言葉を口の中で確かめるように繰り返した。


 そして、しばらく黙り込む。


「分かんない」


 やがて、小さく答えた。


「同じ学年だから知ってるし、何回か話したこともあるよ。悪い人じゃないと思う」


「じゃあ、少し気になってる?」


「うーん……」


 春子は困ったように眉を寄せた。


「それも、よく分からないの」


 徹は黙って続きを待った。


「告白された時は、びっくりしただけだった。嬉しいとか、付き合いたいとか、そういうのは全然考えられなくて」


「それで返事を待ってもらった?」


「うん」


 春子は膝の上で両手を重ねた。


「でも、ずっと考えてたら、今度は断るのが怖くなっちゃって」


「怖い?」


「だって……」


 春子の声が少し小さくなる。


「勇気を出して言ってくれたんでしょ?」


「たぶんね」


「それなのに、私が『ごめんなさい』って言ったら傷つくじゃん」


 その言葉を聞いて、徹はようやく春子が何に悩んでいたのか分かった。


 相手を好きだから迷っているわけではない。


 相手を傷つけたくないから、断れずにいるのだ。


 いかにも春子らしかった。


 いつも明るく、誰にでも優しい。


 自分より相手のことを先に考えてしまう。


「春子」


「うん?」


「それなら、答えはもう出てるんじゃない?」


 春子が不思議そうにこちらを見る。


「どういうこと?」


「付き合いたいか聞いた時、春子は分からないって言っただろ」


「うん」


「でも、断ったら相手が傷つくってことは、すぐ出てきた」


 春子は黙った。


「春子が悩んでるのは、付き合うかどうかじゃなくて、どう断ったら相手を傷つけないかなんじゃない?」


「……そっか」


 その表情から、少しずつ力が抜けていく。


 自分でも気付いていなかったらしい。


「でも、やっぱり傷つくよね」


「それは仕方ないんじゃないかな」


 徹は少し考えてから続けた。


「好きじゃないのに、傷つけたくないって理由だけで付き合う方が、あとでその人をもっと傷つけると思う」


「もっと?」


「相手は春子も自分を好きだと思うだろ?」


「あ……」


「それで後から違うって分かったら、その方がつらいよ」


 春子は視線を落としたまま、しばらく考えていた。


 やがて、小さく頷く。


「そうだね」


 声が少し明るくなった。


「なんか、すごく簡単なことだった気がする」


「悩んでる時って、そんなもんだよ」


「徹は悩まないの?」


「悩むよ」


「ほんとに?」


「俺を何だと思ってるんだ」


「なんか……妙に落ち着いてる人?」


「十四歳なんだけど」


「私も十四歳だよ」


 二人で顔を見合わせ、ようやく笑った。


 昨日からずっと消えていた、春子らしい笑顔だった。


 それを見た瞬間、徹の胸にあった重たいものも少し軽くなる。


「よかった」


 思わず口から出た。


「何が?」


「元気になったから」


 春子は一瞬きょとんとしたあと、少し照れたように笑った。


「心配してくれてたんだ」


「そりゃするだろ。昨日の春子、別人みたいだったし」


「そんなに?」


「達也もこずえも気付いてたよ」


「うわぁ……」


 春子が両手で顔を覆う。


「恥ずかしい」


「明日からいつも通りに戻ればいい」


「うん」


 春子は大きく頷いた。


「やっぱり徹に相談してよかった」


 その言葉に、今度は徹の方が少し困った。


「なんで俺だったの?」


「え?」


「こずえもいるだろ。こういう話なら、女の子同士の方が話しやすそうだし」


「それは……」


 春子は少し考える。


「こずえにも話そうかなって思ったんだけどね」


「うん」


「なんとなく、徹がよかった」


 あまりにも自然に言われ、徹は返す言葉を失った。


「徹なら、ちゃんと考えてくれる気がしたし」


 春子は照れたように笑う。


「変にからかったりもしないでしょ?」


「達也なら絶対からかうな」


「でしょ?」


 また二人で笑う。


 けれど徹の胸の奥では、その言葉が妙に残っていた。


 なんとなく、徹がよかった。


 ただ信頼されているだけ。


 そう分かっている。


 それなのに嬉しかった。


「ねえ」


 春子が不意に口を開いた。


「今度は私が聞いていい?」


「何?」


「徹って……好きな人いるの?」


 一瞬、風の音まで消えた気がした。


「……なんで急に?」


「いや、こういう話してたら気になっただけ」


 そう言いながら、春子は徹から少しだけ視線を逸らした。


 頬が、ほんのり赤くなっている。


「いないの?」


「どうだろう」


「何それ」


「俺もよく分からない」


「さっき私に偉そうなこと言ったのに」


「偉そうには言ってないだろ」


「じゃあ、気になる人は?」


 重ねて聞かれ、徹はますます困った。


 葵。


 春子。


 二人の顔が頭に浮かんだ。


 葵は特別な存在だ。


 夢を応援したいし、誰より幸せになってほしいと思っている。


 でも春子に対して感じているものは、それとは少し違う。


 今日、告白されたと聞いた瞬間。


 胸がざわついた。


 返事をしていないと聞いた時には、ほっとした。


 そして今、春子から「好きな人はいる?」と聞かれて、こんなにも動揺している。


「……まだ分からない」


 結局、そう答えるしかなかった。


「そっか」


 春子はなぜか少し安心したように笑った。


「何で笑うんだよ」


「別に」


「絶対何かあるだろ」


「なーいしょ」


 久しぶりに聞いた、いつもの春子の声だった。


 翌日の放課後。


 徹が軽音部の準備をしていると、春子が少し遅れて音楽室へ入ってきた。


「ごめん、遅れた!」


 昨日までの重い表情はない。


 いつもの明るい春子だった。


「どうだった?」


 徹が小声で聞くと、春子は少し照れながら答えた。


「ちゃんと断ってきた」


「そっか」


「やっぱりちょっと悲しそうだったけど……ちゃんと話したら分かってくれたよ」


「よかったじゃん」


「うん」


 春子は笑った。


「ありがとう、徹」


「俺は何もしてないよ」


「したよ」


 それだけ言うと、春子はギターを手に達也たちのところへ駆けていった。


「今日は昨日の分までやるから!」


「お、やっと春子復活か」


「昨日は調子悪かっただけ!」


「本当かぁ?」


「うるさい!」


 音楽室に笑い声が響く。


 徹はその光景を少し離れた場所から眺めていた。


 春子が元気になった。


 それだけで、こんなに安心している。


 そして何より。


 春子が告白を断ったと聞いた瞬間、自分がほっとしたこと。


 もう、その理由を誤魔化すのは難しかった。


 前の人生を合わせれば、随分長く生きてきたはずなのに。


 十四歳の女の子の一言で、心は簡単に揺れてしまう。


 二度目の人生だからといって、何もかも上手くできるわけではないらしい。


 徹は楽しそうに笑う春子を見つめた。


 好きなのかどうか。


 まだ、自信を持ってそう言えるわけではない。


 ただ一つだけ分かった。


 桐谷春子という少女は、いつの間にか自分が思っていた以上に、特別な存在になっていた。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、春子の告白相談をきっかけに、徹が自分でも気付いていなかった感情と向き合い始めました。


春子もまた、誰にも相談できなかったことを徹にだけ話し、「なんとなく徹がよかった」と言います。


まだ二人とも、それをはっきり恋だと認める段階ではありません。


でも、相手が誰かと付き合うかもしれないと思った時に心が揺れる。


好きな人がいるのか気になってしまう。


そんな小さな変化から、少しずつ自分の本当の気持ちに気付いていくのかもしれません。


二度目の人生でも、恋だけは未来の知識では答えが分からない。


徹と春子の距離がこれからどう変わっていくのか、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。

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