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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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第41話 夢への第一歩

いつも読んでいただき、ありがとうございます。


今回は、徹が芸能プロダクション設立という夢に向けて、本格的な一歩を踏み出します。


本や雑誌だけでは分からない「芸能界の現場」。


そこで出会った一人の男性との出来事が、徹の未来にどんな影響を与えるのか。


ぜひ最後までお楽しみください。

五月四日。


 ゴールデンウィーク二日目。


 朝、目を覚ました徹は、机の上に置かれた一冊のノートへ視線を向けた。


『芸能プロダクション設立計画』


 昨日、自分の手で書き始めたばかりのノートだった。


 まだ数ページしか埋まっていない。


 それでも、その一冊には自分の未来が詰まっているような気がした。


 葵の夢を支えたい。


 歌手だけではなく、夢を追う人たちが安心して挑戦できる場所を作りたい。


 そのためには、まず芸能界を知らなければならない。


 頭の中だけで考えていても始まらない。


 現場を見て、感じて、自分の目で学ぶ。


 徹はそう決めていた。


 ノートをリュックへ入れ、部屋を出る。


「母さん、行ってくる。」


 居間では由香里が洗濯物を畳んでいた。


「今日も出掛けるの?」


「うん。昨日の続き。」


「勉強熱心ね。」


 由香里は優しく微笑む。


「でも、ちゃんと息抜きもしなさいよ。」


「分かってる。」


 徹は笑顔で答え、家を出た。


 ゴールデンウィーク中の東京は、多くの人で賑わっていた。


 家族連れ。


 恋人同士。


 友人同士。


 駅のホームも街も、休日らしい明るい空気に包まれている。


 徹は電車を乗り継ぎ、大きな書店へ向かった。


 店内には、所狭しと本が並んでいる。


 徹が足を止めたのは、音楽や芸能関係の雑誌が並ぶ棚だった。


 人気歌手を特集した雑誌。


 新人アーティストを紹介する雑誌。


 音楽業界の動向を扱う専門誌。


 レコード会社の広告が掲載された情報誌まである。


「思った以上に種類があるな……。」


 一冊ずつページをめくっていく。


 歌手のインタビューだけではない。


 コンサートの舞台裏。


 レコーディング風景。


 地方で行われるキャンペーン。


 新人発掘オーディションの記事。


 華やかな世界に見えても、その裏では多くの人が動いていることが伝わってくる。


 徹は気になった内容をノートへ書き留めた。


『テレビ出演の影響』


『地方キャンペーン』


『ラジオ番組』


『レコード店での販促』


 前の人生で知っていたこともある。


 だが、それは二〇〇〇年代以降の芸能界だった。


 一九九一年には、一九九一年のやり方がある。


 それを知らずに芸能プロダクションを作ろうとしても、成功はできない。


 本を棚へ戻した徹は、その足で大型CDショップへ向かった。


 店内へ入ると、最新曲がスピーカーから流れている。


 入口近くには人気歌手の大きなポスターが飾られ、話題の新譜が目立つ場所へ並べられていた。


 一方、新人歌手のCDは店の奥。


 小さな棚へ静かに並べられている。


 その光景を見て、徹は発売日に春子たちとCDショップを回った日のことを思い出した。


 葵のCDも、決して目立つ場所には置かれていなかった。


 あの時は少し悔しかった。


 だが、こうして店全体を見渡すと、それが新人歌手の現実なのだと理解できる。


「ここから一歩ずつなんだな……。」


 どんな人気歌手にも、最初の一枚がある。


 そこから少しずつ名前を知ってもらい、ファンを増やし、ようやく大きなステージへ立てる。


 芸能界に近道はない。


 そんなことを考えながら店を出ると、五月の風が心地よく頬を撫でた。


 今日は、このまま街を歩いてみよう。


 雑誌には載っていないものが見つかるかもしれない。


 そんな期待を抱きながら駅前通りを歩いていると、不意に遠くから軽快な音楽が聞こえてきた。


 ギターの音。


 ドラムのリズム。


 そして、若い女性の澄んだ歌声。


「ライブ……?」


 徹は足を止める。


 音のする方へ目を向けると、駅前広場に小さな特設ステージが設けられていた。


 派手な照明も大きな看板もない。


 観客は三十人ほど。


 通りすがりの人が足を止めて見ている程度だった。


「こんなイベントもあるのか。」


 芸能の勉強になるかもしれない。


 そう思った徹は、人混みの後ろへ静かに足を運んだ。


 その時だった。


「木崎さん! 次の曲なんですが!」


 ステージ脇から、スタッフの慌てた声が聞こえてきた。


 徹は思わず、その声のした方へ視線を向けた。


徹が視線を向けると、一人の男性がステージ脇で忙しく動き回っていた。


 二十代後半くらいだろうか。


 色あせたジーンズに黒いTシャツ、その上から薄手のジャケットを羽織っている。派手さはないが、どこか元バンドマンらしい雰囲気を感じさせた。


「大丈夫。予定どおり二曲目でいこう。」


 落ち着いた声だった。


 スタッフへ指示を出しながら、自らマイクのコードを確認し、ステージへ視線を向ける。


 歌っている新人歌手は緊張しているのか、何度も客席へ視線を送っていた。


「笑顔、笑顔。」


 男性は小さく両手で笑顔を作る仕草を見せる。


 それを見た歌手も、少しだけ表情が柔らかくなった。


 徹は思わず見入っていた。


 歌っているのは新人歌手だ。


 だが、自然と目が向くのはステージ袖で動くその男性だった。


 歌手を支え、スタッフへ指示を出し、全体を見渡している。


 誰よりも忙しく動いているのに、決して前へ出ようとはしない。


 その時だった。


 二曲目が始まろうとした瞬間、スピーカーから「ブツッ」という音が鳴り、会場が静まり返る。


 歌声が消えた。


 マイクが入っていない。


「音が出てない!」


 スタッフが慌てて駆け寄る。


 観客もざわつき始めた。


 だが、その男性だけは表情を変えなかった。


「予備マイク!」


 短い一言。


「はい!」


「そのまま続けよう。止めなくていい。」


 スタッフが素早く動き、数十秒後には別のマイクが用意された。


 新人歌手も深呼吸をすると、何事もなかったように歌い始める。


 観客から自然と拍手が起こった。


「よかった……。」


 近くにいた女性スタッフが胸をなで下ろす。


 男性は小さく笑うだけだった。


「ライブにトラブルは付きものだよ。」


 その一言に、不思議な安心感があった。


 徹は胸の中で呟く。


(この人……。)


 イベントはその後も順調に進み、最後の曲が終わると拍手が広場へ響いた。


 観客は決して多くはなかった。


 CD販売にも長い列はできない。


 それでも、一人、また一人と笑顔でCDを手に取っていく。


 新人歌手も嬉しそうに頭を下げていた。


 イベントが終わると、スタッフたちは手際よく機材を片付け始めた。


 その男性も、一緒になってスピーカーを運んでいる。


「そっちは俺が持つよ。」


「木崎さん、ありがとうございます!」


 徹は少し迷ったあと、近くに置かれていた折りたたみ椅子を運ぶのを手伝った。


「ありがとうございます。」


 若いスタッフが頭を下げる。


「いや、大丈夫です。」


 運び終えたところで、先ほどの男性が徹へ歩いてきた。


「手伝ってくれたんだね。」


「少しだけです。」


「助かったよ。」


 そう言って笑う。


 優しそうな笑顔だった。


「音楽が好きなの?」


 徹は少し考えてから答える。


「好きです。でも、それだけじゃなくて……芸能界のことを勉強したくて。」


「勉強?」


 男性は少し驚いたように目を丸くした。


「中学生?」


「はい。」


「珍しいね。」


 そう言って笑う。


「でも、現場を見るのが一番勉強になる。」


 その言葉は、徹が今日一日感じていたことと同じだった。


「ありがとうございます。」


「頑張って。」


 それだけ言うと、男性はまたスタッフの輪へ戻っていく。


 最後まで自分の手で機材を運び、新人歌手へ笑顔で声を掛けていた。


 誰よりも忙しく働いているのに、不思議と楽しそうだった。


 徹は、その後ろ姿を静かに見送る。


 名前を聞くことはなかった。


 けれど、イベント中に何度も耳へ入ってきた。


 木崎さん。


 スタッフみんながそう呼んでいた。


 帰りの電車。


 窓の外を流れる景色を眺めながら、徹は今日一日を思い返していた。


 芸能界は華やかな世界だと思っていた。


 だが、その裏では何倍もの努力と、多くの人の支えがある。


 歌手一人では何もできない。


 そのことを、今日改めて実感した。


 そして、もう一つ。


 木崎という男性のことだった。


 前の人生では、数え切れないほど多くの人と出会ってきた。


 歌手。


 マネージャー。


 スタッフ。


 音楽関係者。


 成功した人もいれば、途中で姿を消した人もいる。


 何が違うのか。


 今でも言葉では説明できない。


 それでも、木崎には何かを感じた。


 理由は分からない。


 ただ、不思議と心へ残る。


(また、この人に会う気がする。)


 そんな予感だけがあった。


 家へ帰ると、徹は机へ向かい、『芸能プロダクション設立計画』のノートを開く。


 今日学んだことを、一つずつ書き込んでいく。


『新人はイベントを積み重ねて知ってもらう』


『現場はトラブルが起きても止めない』


『歌手だけではなく、裏方の仕事が重要』


 そして最後に、一行だけ書き加えた。


『木崎さん』


 ペンを置き、その名前をしばらく見つめる。


 どうして書いたのか、自分でもよく分からない。


 ただ、この名前を忘れてはいけない。


 そんな気がした。


 窓の外では、夕暮れの空が少しずつ茜色へ染まり始めていた。


 徹は静かにノートを閉じる。


 芸能プロダクションへの道は、まだ始まったばかりだった。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


今回は、徹が芸能界の華やかな表舞台だけでなく、それを支える裏方の仕事に触れる回となりました。


そして、偶然出会った「木崎さん」。


この出会いは今は小さなものですが、徹の中には説明できない何かが残ります。


人生には、理由は分からないけれど「また会う気がする」と感じる出会いがありますよね。


この出来事が、将来どのようにつながっていくのかも楽しみにしていただけるとうれしいです。


次回もよろしくお願いします。

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