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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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第35話 それぞれの夢

1991年。


 長浜家は、久しぶりに家族そろって穏やかな新年を迎えます。


 初詣で語られる二人の夢。


 そして、その夢は少しずつ現実へと近づいていきます。


 新しい一年の始まりを、ぜひ一緒に見届けてください。

 一九九一年。


 長浜家は穏やかな新年を迎えていた。


 窓の外には澄みきった冬空が広がり、冷たい風が庭の木々を揺らしている。


 食卓には由香里の作ったおせち料理が並んでいた。


 数か月前までは、病室で年を越すことになるかもしれないと思っていた。


 それが今では、家族四人で新年を迎えている。


「やっぱり家のお正月はいいわね」


 由香里が穏やかに笑う。


「病院じゃ、おせちも少ししか食べられなかったもの」


「母さんの味が一番だな」


 泰造が照れくさそうに言う。


「お父さん、それ去年も言ってたよ」


 優子が笑う。


 徹も思わず笑みを浮かべた。


 こんな当たり前の時間が、こんなにも幸せだったとは思わなかった。


 昼過ぎ。


 電話が鳴った。


 受話器を取ると、聞き慣れた元気な声が飛び込んでくる。


「徹くん! 初詣行こうよ!」


 葵だった。


「今からか?」


「うん!」


「せっかくのお正月なんだから!」


 相変わらず勢いだけで話を進める。


「分かった。駅前でいいか」


「十分後ね!」


「十分!?」


 返事をする前に電話は切れていた。


「……早すぎる」


 徹は苦笑しながら上着を羽織った。


 神社は多くの参拝客で賑わっていた。


 石段には屋台が並び、甘酒や焼きそばの匂いが漂っている。


 鳥居をくぐると、葵が大きく手を振っていた。


「徹くん!」


「待たせたか?」


「全然!」


「私も今来たところ!」


「十分しかなかったのにな」


「細かいことは気にしない!」


 二人は笑いながら参道を歩く。


 手を清め、本殿へ向かう。


 賽銭を入れ、静かに手を合わせた。


 今年も家族が健康でありますように。


 そんな願いが自然と浮かんだ。


 参拝を終えると、葵がおみくじ売り場へ駆けていく。


「徹くんも!」


「はいはい」


 二人は一本ずつ引いた。


「やった!」


 葵が声を上げる。


「大吉!」


「すごいな」


「徹くんは?」


「吉」


「いいじゃん!」


「悪くない」


 葵はおみくじを大事そうに財布へしまった。


「今年は絶対いい一年になるよ!」


「単純だな」


「単純なくらいがちょうどいいの!」


 そのあと二人は屋台を回った。


 たこ焼きを分け合い、焼きとうもろこしを食べ、射的では葵が夢中になっていた。


「徹くん!」


「見て見て!」


 小さなぬいぐるみを掲げて笑う。


「取れた!」


「三回目だけどな」


「結果が大事!」


 そんなやり取りをしながら歩いていると、不意に葵が真面目な顔になった。


「ねえ」


「ん?」

 

「徹くんって将来何になりたいの?」


 突然の質問だった。


 徹は少しだけ空を見上げる。


 前世では、何者にもなれなかった。


 だからこそ、この人生では夢を形にしたいと思っている。


「まだ誰にも言ってないんだけど」


「うん」


「将来は芸能プロダクションを作りたい」


 葵が立ち止まった。


「えっ!?」


「本気?」


「まあな」


「歌う人を支えて、夢を叶えられる場所を作りたい」


「もちろん、簡単じゃないのは分かってる」


「でも、それが今の夢なんだ」


 少し照れくさそうに笑いながら、徹は続けた。


「歌う人を支える仕事もいいと思ってる」


 葵はしばらく黙って徹を見つめていたが、やがて満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ私を売ってね!」


 あまりにも真っすぐな言葉に、徹は思わず吹き出す。


「その頃には、葵ちゃんの方が有名だろ」


「えへへ、そうだといいな!」


 葵は照れ笑いを浮かべる。


「でも約束だからね!」


「約束って……まだ何年も先の話だぞ」


「いいの!」


「夢ってそういうもんだから!」


 その笑顔を見ていると、不思議と本当にそうなる気がした。


 葵は歌手になる。


 そして自分は、その夢を支える側になる。


 まだ遠い未来の話なのに、その約束だけは妙に現実味を帯びて胸に残った。


 少し歩いたあと、葵が声を潜める。


「じゃあ」


「私も秘密教える」


「秘密?」


「うん」


 周りを見回してから、小さく言った。


「まだ正式じゃないから誰にも言ってないんだけど」


 徹は自然と表情を引き締める。


「デビュー、決まりそうなの」


「本当か」


「うん」


「今、最後の話をしてるところ」


「だから、まだ内緒ね」


 葵は人差し指を口元に当てる。


「分かった」


「誰にも言わない」


 徹は笑った。


「でも、もう少しなんだな」


「うん!」


「夢まであと少し!」


 葵の瞳は希望で輝いていた。


 その笑顔を見ながら、徹は思う。


 本当に叶いそうなんだ。


 この子は歌手になる。


 きっと誰よりも多くの人へ歌を届ける日が来る。


 それを支える人間になりたい。


 その気持ちは、さっきよりも強くなっていた。


 そらから季節は少し進み、二月。


 学校から帰り、部屋で教科書を開いていると電話が鳴った。


「もしもし」


 受話器の向こうから、弾むような声が聞こえる。


「徹くん!」


 葵だった。


「決まったよ!」


「私デビューする!」


 一瞬、時間が止まったような気がした。


「そうか」


 自然と笑みがこぼれる。


「おめでとう」


「ありがとう!」


「やっとスタートラインに立てる!」


 電話越しでも分かるくらい、葵は嬉しそうに笑っていた。


 その笑顔を想像しながら、徹は静かに窓の外を見上げる。


 冬の空は高く澄み渡っていた。


 夢へ向かって歩き始めた少女。


 そして、その夢を支えたいと願う少年。


 二人の未来は、ここから少しずつ動き始めようとしていた。

第35話を読んでいただき、ありがとうございました。


 今回は事件や能力ではなく、それぞれが胸に抱く「夢」を描いた一話でした。


 徹は芸能プロダクションを作るという夢を初めて口にし、葵も歌手という夢が現実になろうとしています。


 まだ中学一年生と三年生。


 夢を語るには少し早い年齢かもしれません。


 それでも、この頃に交わした約束や言葉は、きっと二人の未来を支える大切な原点になっていくはずです。


 そして、ついに葵のデビューが正式に決まりました。


 次回からは、夢を追いかける葵と、その姿を間近で見守る徹の新たな日々が始まります。


 引き続き、お付き合いいただけると嬉しいです。

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