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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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■ 第3話 「もう一人の自分」

 もし、過去の自分と出会ったら――


 あなたは、どうしますか。


 話しかけるのか。

 距離を取るのか。

 それとも、見なかったことにするのか。


 目の前にいるのは、確かに“自分”。


 だが同時に、それはまだ何も知らない、

 もう一人の人生でもある。


 触れていいのか。

 変えてしまっていいのか。


 答えの出ないまま、

 俺は一歩、踏み出してしまった。

教室の中で、時間が止まったようだった。


 ――いた。


 あれは間違いなく、俺だ。


 幼い頃の自分。

 まだ何も知らない頃の、恒一。


 小さな体で、床に座り込み、黙々と何かを描いている。


 クレヨン。


 紙いっぱいに広がる色。


 その姿を見た瞬間、胸の奥がざわついた。


 ……そうだ。


 俺は、あの頃、絵を描くのが好きだった。


 誰に教えられたわけでもなく、ただ楽しくて、夢中で描いていた。


 そんな記憶が、ゆっくりと蘇る。


 だが、それ以上に強く湧き上がる感情があった。


 ――これ、どうすればいいんだ。


 目の前にいるのは、自分自身。


 だが、今の俺は長浜徹だ。


 話しかけてもいいのか?


 関わっていいのか?


 もし関わったことで、未来が変わったら――


 いや。


 そもそも、この世界は“変わるもの”なのか?


 疑問が次々と浮かび上がる。


 だが。


 知りたい。


 どうしても。


 この恒一が、本当に“あのときの俺”なのか。


 中身まで同じなのか。


 それとも、ただの別人なのか。


 考えれば考えるほど、興味が勝っていく。


 気づけば、足が動いていた。


 恒一の前に立つ。


 近くで見ると、やはり間違いない。


 顔立ちも、仕草も、雰囲気も。


 全部、覚えている通りだ。


 「……なに?」


 恒一が顔を上げた。


 目が合う。


 不思議な感覚だった。


 まるで、鏡を見ているような。


 だが、鏡よりもずっと生々しい。


 ――俺が、俺を見ている。


 「……それ、なに描いてるの?」


 できるだけ自然に、声を出した。


 徹として。


 他人として。


 恒一は少しだけ戸惑ったような顔をしてから、紙をこちらに向ける。


 「くるま」


 そこに描かれていたのは、いびつな形の車だった。


 だが、その線の癖。


 色の塗り方。


 どこか、懐かしい。


 ――やっぱり、俺だ。


 「うまいね」


 そう言うと、恒一は少し照れたように笑った。


 その笑い方まで、覚えている。


 胸の奥が、じんわりと熱くなる。


 変な感じだ。


 恒一が恒一に話しかけている。


 こんな状況、普通ならありえない。


 だが、今はそれが現実だった。


 「……きみ、なまえは?」


 恒一が聞いてくる。


 一瞬だけ、言葉に詰まる。


 ――俺の名前は。


 そう考えかけて、すぐに切り替える。


 今の俺は、徹だ。


 「ながはま、とおる」


 そう答えると、恒一は小さくうなずいた。


 「ぼく、こういち」


 知っている。


 全部、知っている。


 だが、それを言うわけにはいかない。


 「よろしくね」


 そう言って、手を差し出した。


 恒一は少し戸惑いながらも、その手を握る。


 小さくて、温かい手。


 ――これが、俺の手だったのか。


 奇妙な感覚だった。


 だが同時に、どこか安心するような、不思議な気持ちもあった。


 その日から、自然と一緒にいる時間が増えた。


 最初はぎこちなかったが、すぐに慣れた。


 そもそも、相手は“自分”だ。


 考えていることも、感じ方も、なんとなく分かる。


 だから、距離が縮まるのも早かった。


 気づけば、いつの間にか、周りからも「仲がいい」と思われるようになっていた。


 外で遊ぶことも増えた。


 砂場で遊び、鬼ごっこをし、時にはケンカもする。


 そんな普通の時間。


 だが俺にとっては、すべてが特別だった。


 ――こんなふうに過ごしていたのか。


 かつての自分を、外から見ているような感覚。


 そして同時に、もう一つの感情が芽生えていた。


 ――守りたい。


 理由は分からない。


 だが、強くそう思った。


 この時間を。


 この存在を。


 壊したくない。


 やがて、ある日。


 「こんど、うちくる?」


 恒一がそう言った。


 一瞬、心臓が跳ねる。


 家。


 つまり――


 俺が、かつて住んでいた場所。


 「……いいの?」


 できるだけ平静を装って聞く。


 「うん。おかあさんもいいって」


 そう言って、無邪気に笑う。


 その笑顔に、少しだけ救われる。


 だが同時に、緊張も増していく。


 ――ついに、来るのか。


 自分の過去と、真正面から向き合う時が。


 約束の日。


 俺は、恒一の家の前に立っていた。


 見慣れたはずの場所。


 だが、どこか違って見える。


 新しくもあり、懐かしくもある。


 インターホンもない時代。


 恒一が先に入り、すぐに中から声がする。


 「どうぞー」


 その声を聞いた瞬間、足が止まりかけた。


 ――知っている声だ。


 忘れるはずがない。


 ゆっくりと、玄関をくぐる。


 靴を脱ぐ。


 廊下を歩く。


 一歩、一歩が重い。


 そして、部屋の前で立ち止まる。


 「こっち」


 恒一が先に入る。


 その背中を見つめながら、深く息を吸った。


 そして、部屋に入る。


 そこにあったのは。


 見慣れた景色。


 そして――


 まだ若い、母の姿だった。


 時間が、再び止まった。

 第3話を読んでいただきありがとうございます。


 ついに徹は、“もう一人の自分”である恒一と接触しました。


 同じ顔、同じ記憶の断片。

 それでも確かに違う存在。


 この関係は、これから物語に大きな影響を与えていきます。


 そしてラストでは、

 かつての“自分の家”へと足を踏み入れることに。


 次回は――

 忘れるはずのない存在との再会。


 ここから一気に感情が動きます。


 引き続き、よろしくお願いします。

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