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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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■第18話 夏の小旅行と、まだ見ぬ未来

未来を知っている。


 それは便利な力だと思っていた。


 けれど、知っていることと分かることは違う。


 そして時々、説明できないものが混ざる。


 その日俺は、それを少しだけ感じることになった。

夏休みも半分を過ぎた頃だった。


 DIGITAL FANTASYの練習は続いていたが、夏祭りが終わってからは少しだけ落ち着いていた。


 学校の宿題も終わらせなければならない。


 勉強もしないといけない。


 ……なのだが。


 ある朝、新聞の競馬欄を見た瞬間、思わず口が動いた。


「父さん」


 泰造が朝刊をめくりながら返事をする。


「ん?」


「今度、競馬場行ってみたい」


 新聞が止まった。


 由香里も味噌汁を持つ手が止まった。


 優子は口を開けている。


「……は?」


「競馬?」


「徹が?」


 優子が吹き出した。


「なんで急に?」


「いや、見てみたいだけ」


「中学生で競馬って」


 優子は笑いながら言った。


「おじさんじゃん」


 ……間違ってはいない。


 中身は元おじさんだ。


「生で見てみたい」


 俺が言うと、泰造は少し考えた。


「夏競馬か」


「行く?」


「新潟なら行けるな」


 俺は思わず顔を上げた。


 新潟。


 そうか。


 今は夏開催だった。


 前世では何度も競馬を見ていた。


 競馬場にも何度も行った。


 だが、それは全部“恒一として生きた時代”の競馬だ。


 1990年の競馬を生で見るのは初めてだった。


「行く!」


 気づけば少し大きい声が出ていた。


 優子が笑う。


「めちゃくちゃ嬉しそう」


「別に」


「子供みたい」


 ……子供だった。


 今は。



 数日後。


 まだ朝も早い時間。


 俺と泰造は東京駅にいた。


 新幹線ホームには人が行き交っている。


 少し眠そうな顔をしたサラリーマン。


 旅行客。


 家族連れ。


 そして俺たち。


「眠くないか?」


 泰造が聞く。


「大丈夫」


「珍しいな」


「なにが?」


「いつも休みの日起きないだろ」


 今日は違った。


 むしろ昨日は少し寝付けなかったくらいだ。


 新幹線がホームへ入ってくる。


 車体が朝日を反射している。


 子供の頃なら、たぶん普通に嬉しかっただろう。


 でも今の俺は別の意味で胸が高鳴っていた。


 未来では知っている世界。


 でも今はまだ過去。


 不思議な感覚だった。



 車内。


 泰造はスポーツ新聞を広げている。


「徹」


「ん?」


「競馬って分かるのか?」


「少し」


「少しなあ」


 泰造は笑う。


「これは単勝」


「一着当てる」


「……」


「複勝」


「三着以内」


「……」


「枠連」


「枠を当てる」


「お前ほんと初めてか?」


 危ない。


「テレビで見た」


「便利なテレビだな」


 完全には信じていない顔だった。



 新潟競馬場。


 到着した瞬間、空気が違った。


 歓声。


 新聞を握る人たち。


 赤ペン。


 タバコの煙。


 独特の熱気。


 懐かしかった。


 恒一だった頃、競馬はかなりやっていた。


 GⅠの日は朝から新聞を読み込む。


 血統を見る。


 騎手を見る。


 パドックを見る。


 負けた日は次こそと思い、勝った日は自分に才能があると勘違いする。


 典型的な競馬好きのおっさんだった。


 ただ、一つだけ違う。


 今歩いているのは1990年だ。


 未来で名前を知る馬たちが、今はまだ普通に歩いている。


 その事実に妙に鳥肌が立った。



 第一レース。


 新聞を見ながら思う。


 ……夏競馬は正直覚えてない。


 GⅠならともかく、平場なんてほとんど記憶にない。


 それが普通だ。


 俺はパドックを見る。


 馬の歩き方。


 汗。


 落ち着き。


 そしてふと一頭が気になった。


 ⑦。


 理由はよく分からない。


 ただ妙に目がいった。


 恒一の知識なのか。


 それとも。


「父さん」


「ん?」


「⑦」


「なんで?」


「なんとなく」


「なんとなくか」


 笑いながらも泰造は千円買った。



 結果。


 ⑦、一着。


「うおっ!」


 泰造が前に出た。


「当たった!」


「へぇ……」


 俺自身も少し驚いた。



 第二レース。


 今度は②。


 今度は理由があった。


 血統。


 そして騎手。


「父さん」


「またか」


「②」


「なんとなくじゃないよな?」


「今回はちゃんと理由あるんだ」


「あるのかよ!」


 結果。


 一着。



 第三レース。


 今度は⑤。


 ここで妙な感覚が来た。


 頭の奥がざわつく。


 記憶じゃない。


 説明できない。


 ただ、


 これ。


 そんな感覚だけ。


「父さん」


「……⑤?」


「うん」


 泰造が無言になる。



 結果。


 一着。


 三連続。



 しばらく沈黙。


 泰造が俺を見る。


「……徹」


「はい」


「お前なんなんだ?」


「なんなんだって言われても」


「三連続単勝だぞ!」


「たまたま」


「たまたまでそんな当たるか!」


 周りのおじさんまで見ていた。


 少し恥ずかしい。


 でも俺は笑えなかった。


 最後だけは違った。


 あれは未来知識じゃない。


 競馬経験でもない。


 何か別の感覚だった。


 石丸家。


 頭にその言葉が浮かぶ。


 偶然だろうか。


 それとも。


「よし!」


 泰造が急に立ち上がった。


「今日は焼きそばだ!」


「え?」


「徹のおかげだからな!」


 嬉しそうだった。


 俺は少し笑った。


 今は考えるのをやめよう。


 能力とか未来とか。


 そんなことじゃなくて。


 今だけは。


 父親と来た、小さな旅行を楽しみたかった。


 窓の外には、夏の青空が広がっていた。

第18話を読んでいただきありがとうございます。


 今回は徹と泰造、父子二人の小旅行編でした。


 そして未来知識だけでは説明できない違和感も少し描きました。


 これは偶然なのか。


 それとも石丸家の何かなのか。


 徹自身もまだ分かっていません。


 次回もよろしくお願いします。

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