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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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■第13話 音の向こう側

人と関わるのは苦手だった。


 前の人生でも、今の人生でも、それはあまり変わらない。


 けれど時々、言葉より先に繋がるものがある。


 音。

 絵。

 感情。


 誰にも言えなかったものが、形になった瞬間。


 人は少しだけ、孤独じゃなくなる。

中学生になってから、俺はより強く思うようになっていた。


 芸能プロダクションをやりたい。


 前の人生では、道半ばで終わったのもあると思う。


 最初はただの会社員として働き毎日を過ごし、やがて倒産で人生が狂わされ、派遣社員として大半を過ごし気づけば五十を過ぎていた。


 もちろん、何もしていなかったわけじゃない。


 音楽も好きだった。

 芸能の世界にも憧れていた。

 誰かを輝かせる側になりたいと思ったこともある。


 だが結局、何者にもなれなかった。


 だからこそ、今世では違う。


 まだ子供だろうが関係ない。


 準備できるものは、全部しておきたい。


 勉強。


 英語。


 音楽。


 経営。


 競馬。


 特に競馬は、相変わらず研究を続けていた。


 未来は少しずつズレ始めている。


 だが、大きな流れまでは変わっていない。


 名馬。

 騎手。

 レース傾向。


 前世の記憶はまだ武器になる。


 もちろん、それだけに頼るつもりはない。


 今の俺には、“これからどういう時代になるか”をなんとなく知っている強みがある。


 音楽だってそうだ。


 どんなジャンルが流行るか。

 どんなアーティストが売れるか。

 何が人の心を掴むか。


 完全に分かるわけじゃない。


 でも、方向くらいは見えている。


 だからこそ、音楽は知っておきたかった。


 そしてもう一つ。


 恒一の言葉も、どこか頭に残っていた。


 頭の中のモヤモヤを外に出す感じ。


 音楽。


 その感覚を、自分でも少し知ってみたかった。


 だから俺は、中学で軽音部に入った。


 入部届を出した時、顧問の教師は少し驚いていた。


「長浜、お前こういうの興味あったのか?」


「まあ、少し」


 勉強ばかりしていそうなイメージだったのだろう。


 実際、周囲からもそんな目で見られていた。


 無理もない。


 誰かと騒ぐことも少ないし、昼休みも一人で本を読んでいることが多い。


 クラスで浮いているわけではない。


 でも、自然と距離ができる。


 前世から変わらない性格だった。


 軽音部には、思っていたより人数がいた。


 ギター。

 ベース。

 ドラム。


 皆、思い思いに楽器を触っている。


 その中で、俺はキーボードを希望した。


 ピアノ経験が少しあることも理由だが、もう一つ理由がある。


 バンド全体を見やすいからだ。


 リズム。

 コード。

 空気。


 全部を整理する位置に近い。


 それはどこか、将来やりたいことにも似ていた。


 最初の頃、俺はかなり浮いていた。


 当然だ。


 周囲は純粋に音楽が好きな中学生。


 俺だけ妙に冷静で、目的意識が違う。


 休憩中も誰かと騒ぐことはなく、一人でキーボードを触っていた。


 話しかけられれば返す。


 でも、自分から輪に入ることはない。


 前世の癖だった。


 そんなある日のことだった。


 部室には誰もいなかった。


 放課後。


 窓の外では、グラウンドから運動部の声が聞こえる。


 俺は一人、キーボードの前に座っていた。


 ふと、ある曲を弾いてみたくなる。


 この時代にはまだ存在していない曲。


 前世で何度も聞いた、有名なメロディ。


 もちろん、そのままではない。


 曖昧な記憶を頼りに、少しずつ音を探る。


 だが、鍵盤に指を置いた瞬間、不思議と流れるように音が出た。


 静かなイントロ。


 少し切なくて、どこか懐かしい旋律。


 部室に音が広がる。


 弾いているうちに、自分でも驚くほど感情が入っていた。


 孤独。

 焦り。

 やり直したい気持ち。


 全部が音に混ざっていく。


「……なにそれ」


 突然声がして、俺は手を止めた。


 振り返る。


 入口に、一人の女子が立っていた。


 肩までの髪。

 少し鋭い目。

 ギターケースを背負っている。


「オリジナル?」


「……いや」


「聞いたことない曲」


 女子はゆっくり部室へ入ってくる。


 俺は少し困った。


 未来の曲です、とは言えない。


「適当に弾いてただけ」


「適当にであんななる?」


 女子は面白そうに笑った。


「長浜だよね?」


「そう」


「桐谷春子」


 そう言って、ギターケースを机へ置いた。


「キーボード、うまいじゃん」


「普通」


「その返し、ちょっと感じ悪い」


「……悪い」


 思わず謝ると、春子は吹き出した。


「真面目だなあ」


 不思議な人だった。


 距離の詰め方が自然だ。


 だが、嫌な感じはしない。


 むしろ、音楽の話をしている時の目が妙に真っ直ぐだった。


「長浜って、どんな音楽聴くの?」


「色々」


「ずるい答え」


 春子はギターを取り出しながら言う。


「ロック?」


「好き」


「海外?」


「まあ」


「邦楽は?」


「聞く」


「ほんと話広がんないな」


 そう言いながらも、春子は楽しそうだった。


 そして気づいた。


 この人、音楽の知識がかなり深い。


 アーティストの話。

 機材の話。

 コード進行。


 中学生とは思えないくらい詳しい。


「なんでそんな知ってるの?」


「兄貴の影響。家にレコードめっちゃある」


 春子は嬉しそうに語る。


「これから絶対、バンドの時代来るよ」


 その言葉に、少しだけドキッとした。


 未来を知っている俺と、感覚で時代を掴んでいる春子。


 方向が同じだった。


「長浜、さっきの曲また弾いてよ」


「嫌だ」


「なんで」


「まだ途中」


「じゃあ完成したら聞かせて」


 春子はそう言って笑った。


 その笑顔を見ながら、俺は少しだけ不思議な感覚になっていた。


 気づけば、普通に話している。


 音楽のことを。


 未来のことではなく。


 転生のことでもなく。


 ただ、今の自分として。


 それは久しぶりの感覚だった。


 帰り道。


 夕焼けの空を見上げながら、俺は小さく息を吐いた。


 友達。


 そう呼べる相手が、中学で初めてできた気がした。


 もちろん、まだ分からない。


 これからどうなるかも。


 でも、少なくとも桐谷春子と話している時間は嫌じゃなかった。


 むしろ、楽しかった。


 音楽の話をしている時だけは、自分が少しだけ“普通の中学生”に戻れる気がした。


 その夜、机に向かいながら、俺は鍵盤を指で軽く叩く。


 未来を知っている。


 それは武器だ。


 でも、本当に大事なのは、今をどう生きるかかもしれない。


 軽音部。


 キーボード。


 桐谷春子。


 そして、まだ始まったばかりの音。


 それがこの先、どこへ繋がっていくのか。


 この時の俺は、まだ知らなかった。

第13話を読んでいただきありがとうございます。


 今回は、中学編の軽音部スタート回でした。


 未来へ向けて準備を続ける徹ですが、

 音楽の世界へ踏み込んだことで、少しずつ新しい繋がりも生まれ始めます。


 そして登場した桐谷春子。


 徹にとって、中学で初めて自然に話せる存在になっていきます。


 次回は、軽音部での演奏や、恒一との音楽的な繋がりも少しずつ描いていく予定です。


 引き続き、よろしくお願いします。

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