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『死んだ俺が1977年に転生して、君へ繋がる人生をやり直す』  作者: れいじ


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■第11話 蔵の声

子供の頃、開けてはいけない場所というものがあった。


 古い蔵。

 鍵のかかった部屋。

 大人が話したがらない昔話。


 そこにはきっと、知らなくていいものが眠っている。


 けれど時々、人はそれでも扉を開けてしまう。


 自分が何者なのかを知りたい時に。

小学校を卒業した。


 卒業式の日、周囲の子供たちは泣いたり騒いだりしていたが、俺はどこか冷静だった。


 もちろん感慨がないわけではない。


 ただ、一度大人になって死んだ人間にとって、小学校卒業は人生の通過点でしかない。


 それでも、少しだけ不思議な気持ちにはなった。


 もう一度ランドセルを背負い、もう一度卒業証書を受け取った。


 人生とは、本当に分からない。


 恒一とは最後まで別のクラスだった。


 だが、関係が切れることはなかった。


 放課後に会えば話すし、たまに絵も見せてもらう。


 以前ほど毎日一緒ではない。


 けれど、それが逆に自然だった。


 俺たちは少しずつ別の道を歩き始めている。


 恒一は普通の公立中学へ行く。


 俺は受験した学校へ進む。


 前世とは違う道。


 それだけは、はっきりしていた。


 春休み。


 まだ少し冷たい風が残るある日、俺は由香里に言った。


「石丸のおじいちゃんの家、行きたい」


 由香里は少し驚いた顔をした。


「また?」


「うん」


「おじいちゃん、徹のこと気に入ってるみたいだけど……どうしたの?」


 理由を聞かれて、少し迷う。


 もちろん本当のことは言えない。


 石丸家の秘密を知りたい。

 転生との関係を調べたい。


 そんなことを、小学生が言えるわけがない。


「昔の話、聞きたい」


 由香里はしばらく俺を見ていた。


 そして、小さく笑う。


「ほんと、変わった子ね」


 否定はできない。


 実際、中身は五十過ぎのおじさんなのだから。


 数日後。


 俺は再び石丸家を訪れていた。


 瓦屋根の古い家。


 庭の柿の木。


 そして、奥にあるあの蔵。


 前回来た時よりも、存在感が増して見えた。


 まるで、あそこだけ空気が違う。


「おお、来たか」


 居間では源三が座布団に座っていた。


 前と変わらない鋭い目。


 俺を見ると、小さく鼻を鳴らす。


「また来たい言うたんは、お前かららしいな」


「うん」


「なんでじゃ」


 試すような目だった。


 俺は少し考えてから答える。


「石丸の話、気になるから」


 源三は黙った。


 しばらく俺を見つめ、それから小さく笑う。


「やっぱり似とる」


「誰に?」


「昔の石丸の人間にじゃ」


 ぞくりとした。


 源三は湯呑みを持ち上げる。


「お前、見えるんじゃろ」


 その言葉に、息が止まりそうになった。


 由香里たちには聞こえないよう、小さな声だった。


 俺は何も言えなかった。


 否定するべきか。


 誤魔化すべきか。


 だが、源三の目を見ていると、全部見透かされている気がした。


「そういえば優子の件のこと聞いたぞ」


 源三は静かに言う。


「お前、自分で分かっとるはずじゃ」


 俺は唇を噛んだ。


 分かっている。


 あれは偶然じゃない。


 見えたのだ。


 危険が。


 未来の断片が。


「……おじいちゃんも?」


 俺が聞くと、源三は少しだけ笑った。


「昔はな。今はもう鈍くなった」


 その笑い方が妙に寂しかった。


「石丸の家は、時々そういう人間が出る。昔からじゃ」


「なんで?」


「分からん。分からんが、確かにおる」


 源三は立ち上がる。


 そして、庭の奥を見た。


 蔵。


 俺も自然とそちらを見る。


「行くか」


 短い一言だった。


 心臓が強く跳ねる。


 源三は本当に、蔵へ入れるつもりなのか。


 庭へ出る。


 春の風が少し冷たい。


 蔵の前まで来ると、源三は腰から古い鍵を取り出した。


 錆びた金具に鍵を差し込む。


 ぎぃ、と重い音。


 扉がゆっくり開いた。


 冷たい空気が流れ出る。


 古い紙と木の匂い。


 薄暗い空間。


 昼なのに、中は妙に暗かった。


「入れ」


 俺は小さく頷き、中へ入る。


 棚には古い箱や書物が並んでいた。


 埃だらけだが、不思議と嫌な感じはしない。


 むしろ――懐かしい。


 そんな感覚があった。


「ここには昔のもんが残っとる」


 源三が言う。


「家系図、手記、昔話……まあ、今の時代じゃ誰も読まん」


 俺は棚に並ぶ古い帳面を見つめた。


 墨で書かれた文字。


 かなり古い。


 その中の一冊に、なぜか強く引かれた。


 手を伸ばす。


 触れた瞬間、頭がずきりと痛んだ。


「っ……!」


 視界が揺れる。


 暗い部屋。

 知らない男。

 紙に何かを書いている。


 そして声。


 ――願いは血を越える。


 次の瞬間、視界が戻った。


 俺は息を切らしていた。


「大丈夫か」


 源三が眉をひそめる。


「……うん」


 俺は震える手で帳面を開いた。


 達筆な文字が並んでいる。


 全部は読めない。


 だが、一部だけ妙に目に入ってきた。


『強く願った者は、血を辿る』


『魂は近き縁へ還る』


 心臓が止まりそうになる。


 魂。


 還る。


 それはまるで――


 俺のことではないか。


 俺は死んだ。


 そして、近い血筋である長浜徹として生まれた。


 偶然ではない。


 本当に。


 本当に、戻されたのか。


「……読めるんか」


 源三の声で我に返る。


 しまった、と思った。


 小学生が古文のような文章を読めるのは不自然だ。


 だが、源三は驚いてはいなかった。


 むしろ、どこか納得した顔をしている。


「お前、ほんまに変わっとるな」


 その時だった。


 蔵の奥にある古い箱が目に入った。


 なぜか、そこだけ強く気になる。


 俺は吸い寄せられるように近づいた。


「待て」


 源三の声。


 だが、俺は止まれなかった。


 箱を開ける。


 中には古い紙が何枚か入っていた。


 その一番上。


 そこに描かれていたものを見た瞬間、呼吸が止まる。


 少女の絵だった。


 長い髪。

 大きな目。

 少し寂しそうな笑顔。


 恒一が描いていた少女に、よく似ていた。


 いや。


 もっと似ている相手がいる。


 レイナ。


 まだ生まれていないはずの少女。


 その絵の端には、小さく日付が書かれていた。


 昭和十五年。


 戦前だった。


 あり得ない。


 なぜ、こんな昔に。


「……なんじゃ、それ」


 源三も驚いたように呟く。


「見たことないんか?」


「蔵のもん全部把握しとるわけじゃない」


 源三は絵をじっと見る。


 俺は言葉を失っていた。


 偶然では済まない。


 恒一が描いた少女。


 戦前の絵。


 そしてレイナ。


 全部が、どこかで繋がっている。


 その時、また頭の奥で声がした。


 ――繋がってる。


 低く、遠い声。


 ぞくりと背筋が震える。


 俺は絵を見つめたまま、小さく息を吐いた。


 この人生は、やはり普通じゃない。


 そしてレイナは、俺が思っていた以上に深く、この血と繋がっている。


 蔵の外では、春の風が静かに吹いていた。


 だが俺の中では、何かが確実に動き始めていた。

第11話を読んでいただきありがとうございます。


 今回は、徹がついに石丸家の蔵へ入り、

 転生と血筋の関係へ大きく近づく回でした。


 「魂は近き縁へ還る」


 その言葉が意味するものとは何なのか。


 そして、戦前から残されていた謎の少女の絵。


 物語は少しずつ、レイナへ繋がる核心へ近づいていきます。


 次回もよろしくお願いします。

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