第3話 使用許可が下りません
行政改革局長の執務室。
透明な容器の中で、脳みそは研究員からの報告を受けていた。
研究員は、前回の試験終了後に局長から求められた王宮庭園の使用申請書を用意していた。
「局長、王宮庭園使用許可申請書をお持ちしました」
『待ってた』
「使用目的は、どのように記載いたしましょうか」
『土に入りたい』
「正式な申請書ですので、もう少し具体的にお願いいたします」
『根を張る』
「…………」
『水を吸う』
「…………」
『光合成もする』
「局長」
『何?』
「それは業務でしょうか」
『……生命維持活動』
「なるほど」
研究員は申請書に記入した。
【使用目的:生命維持活動】
「では、管理部門へ提出いたします」
『お願い』
翌日。
「局長、申請が却下されました」
『なんで』
「王宮庭園の使用目的に該当しないそうです」
『使用目的?』
「景観維持、来賓接遇、および王宮環境の美化です」
『……誰が決めた?』
「行政改革局です」
『…………』
「昨年度の施設管理規則の統一に伴い、改定されております」
『……私が決裁した?』
「はい」
『…………』
脳みそはしばらく考えた。
『じゃあ、景観維持』
「はい?」
『使用目的を景観維持に変更して』
「なるほど。久留米ケイトウは観賞用植物ですので、適合する可能性があります」
『私、花なんだけど』
「はい」
『赤い花』
「はい」
『結構、目立つ』
「はい」
『景観に貢献できると思う』
「では、そのように申請いたします」
研究員は申請書を書き直した。
【使用目的:王宮庭園の景観維持】
【使用内容:久留米ケイトウ一株の設置】
【使用期間:無期限】
三日後。
「局長、条件付きで承認されました」
『……本当?』
「はい。ただし、いくつか条件がございます」
『何?』
「指定された花壇から移動しないこと」
『うん』
「庭園の景観を損なわないこと」
『うん』
「庭師の指示に従うこと」
『うん』
「開花期間終了後は、速やかに撤去すること」
『…………』
「以上です」
『……最後、もう一回』
「開花期間終了後は、速やかに撤去すること」
『…………』
「局長?」
『私、撤去されるの?』
「規則上は、そのようになります」
『…………』
脳みそは考えた。
自分は行政改革局長である。
魔王軍との和平を成立させ、王国の行政制度を整理し、無駄な支出を削減し、施設管理規則を統一した。
その結果。
自分の身体が、開花期間終了後の撤去対象になっていた。
『……あのさ』
「はい」
『この身体、一年草なの?』
「はい。久留米ケイトウを基に設計しております」
『聞いてない』
「ご説明しておりませんでしたか」
『されてない』
「申し訳ありません」
『……どのくらい使えるの』
「現段階では不明です」
『不明?』
「魔術によって維持される身体ですので、通常の久留米ケイトウと同じ寿命になるとは限りません」
『長く使える可能性は?』
「あります」
『短い可能性も?』
「あります」
『…………』
研究員は報告書を確認した。
「今回の開発では、製造費用と短期間の稼働性能を優先しております。長期耐久性については、今後の研究課題です」
『……なんで一年草で作った?』
「短期試験用ですので」
『長期使用は?』
「想定しておりませんでした」
『…………』
研究員は承認通知書を手に取った。
「局長、使用許可は取り下げますか?」
脳みそは答えなかった。
一年以上、身体がなかった。
四日前、初めて根を足にして歩いた。
水を吸い、日差しの温かさを知った。
あの花壇の土は、温かかった。
けれど、今の身体がいつまで使えるのかはわからない。
花が終われば、撤去の対象にもなる。
それでも。
あの土には、もう一度入りたかった。
『……取り下げない』
「承知しました」
『次の試験も、あそこで』
「庭師との日程調整が必要ですが、手配いたします」
『お願い』
「では、次回の実証試験に向けて準備を進めます」
『お願い』
「ほかに必要なものはありますか」
『……水、多めに用意してね』




